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Mirage-knight-cavalier04 黄昏の終り。 
2007.01.02.Tue / 22:08 
予譲の目には意識聡明なまま腹を裂かれ、内臓を掻き回されている少女の涙は見えない。
その目に見えるのはただ、赤錆びた大地と闇色より深い深緑にも似た地獄…ニブル戦役。
『予譲、お前はよくヤったよ。あぁ、まったくクソッタレなくらいな』
『はん、ママもてめぇの張り切りっぷりにはホーリージーザス、教会で離婚モンだw』
頭を撫でる武骨な手。軍人の大きな手。
予譲の目は見えない。至近弾を喰らい、出血がなんとか止まったばかりだ。
『LKではライフサーキットが焼き切れるまで戦って、儀体を変えて聖導騎士でもこの活躍。十字勲章が腹一杯食えるぜ』
硝煙の匂いと断続的に響く野戦砲の音に包まれた戦場で、男達は笑った。
『だから予譲、お前はもう帰れ』
『このクソッタレな地獄から』
『かあちゃんに会ったらよろしくな』
『まじで離婚してたら笑うなw』
『それにしても・・・あぁチクショウ、死にたくねぇな』
『ミッツは先月結婚したばかりだった』
『助けに戻らねぇとな』
『体だけでも帰してやらねぇと』
『あぁ、死にたくねぇ』
『だから予譲、お前はもう・・・・帰れ』
冗談では無い。此処までやった。此処までやらされた。なら死ぬまでやるだけだ。死ぬまでやらされるだけだ。
ガチャリとPTリーダーの持っていた突撃銃が哭く。待って欲しい。自分も行くのだと、見えない目を開いて見た彼等の姿は、輝いて見えた。
何か・・・・白い輝き。プラチナの、背中。

その姿を、今も見ている。


「………」
涙を目に一杯溜めた少女の顔がやっと意識に飛びこんできた。手には生暖かい内臓の感
触。自分はまたやってしまったらしい。
「ごめんよ。でも、痛くは無いはずだから」なるだけ優しく涙目に語る。右手で内臓を掻
き回しながら、左手で少女の口を押さえながら。
「ごめんよ。君の笑顔がとても輝いて見えたから。その体のどこかに、僕の探しているモノがあると思ったんだ」
額に汗が浮かぶ。痛覚を切っているだけで、自身には多少のダメージがある。少女の腹を裂いたダメージ。彼はいつも゛探しもの゛をする時、対象に゛献身゛をかける。故に死者は出い。ただ、神経に対する傷は別なのだが、専門的な知識を持たない彼にはわからない。
「怖いかい?怖いだろうね…。でも大丈夫。ちゃんと忘れられるから」
優しく、優しく語りかける。ニブル戦役から帰ってから、どういった訳か彼は他人の記憶に残らなくなっていた。その場その場で彼が望む対人関係が勝手に築かれ、そして忘れら
れてゆく。イレギュラーのような存在。
でも慣れたし、゛探しもの゛には好都合。ただ、あの日見た輝きだけを探して-
「さぁ、もう一探し」予譲は右手を激しく動かした。


「優しい分、サイコっぽいですねぇ」
唇を読んで予譲の言葉を吐いていた直樹が、まるで世間話しをするように、夕涼みをするように、長い髪を風に泳がせながら言った。
「うへぇ・・・キモチワリィwおもしれぇw」
片や屋根の上でアグラをかいたままのスーツの男性…iwaokunは玩具を見つけた子供のように目を輝かせる。
「さて、どうしましょうか」
くるりと此方を見やる直樹の目には、どうしましょうか?なんて曖昧な意思は感じない。
排除依頼を委託する目。
「そうだなぁ…」
殺してしまうのは簡単。喩え他の者には困難であれ、自身には関係無い。造作も無い事だ。故に惜しい。面白い素体。是非自分の組織に…。
「お?」
「あら」
゛探しもの゛をする予譲の背後…直線で約200m後方に、意外な二人組を発見した。
「直樹、人払いはしたんじゃないのか?」
゛能管゛の仕事は特務の中の特務。何かする時は、必ず特殊な空間が敷かれ、全てはその
中で行われる。
「空間師がミスりましたかね…」
直樹が今日…いや、今月に入って初めての真顔で言う。
「いやぁ、侵入者が特殊なだけかもしれんで」
iwaokunは上げかけた腰を再度屋根の上に下ろして、゛侵入者゛…ピンクと女子中学生…ニレコと夏帆を見た。

「パッキャマラーオーパッキャマラーオーヽ(・ω・)ノ」
「おー…」
「おーが小さい(・ω・)”」
「おー!…って何やってんだオレ…」
両手を振って大股で歩くニレコの後ろをトボトボ付いて歩く。何故このように情けない描写になっているかは、数時間前に戻って説明しなければならないのだが割愛させて頂く。
一応は夏帆の為…と言っておこう。
「ブラの具合はどうかね(・ω・)?」
「ぐぁ…てめぇ…」
割愛されませんでした。
「ちゃんとサイズに合ったモノしないと ダメ(・ω・)”」
「別に着けなくても…」
「淑女の たしなみヽ(・ω・)ノ」
「うげ…なんかワイヤーが当たって違和感が…」
「手洗いだからね。ヨレてたらぐーでパンチ(’3’」
「めんどくせぇなぁ…」
ニコニコ顔をさらにニコニコさせてズンズン進むニレコと、清純そうな可愛らしい顔を邪悪に歪めた夏帆は、特になんと云うことも無く限定空間に踏み込んだ。


「主任のとこのは…なんと言いますか…」
含み笑いを堪えながら隣でアグラをかいたスーツを見やる。
「オレの子みたいなモンだからな。かわいいだろ。あ?」
目と圧倒的な殺気が゛文句あるか?゛と尋ねてくる。直樹は、こんな側面を持つ上司が存外、堪らなく気に入っている。
「別に…wそれより、もうすぐ接近です。まさか゛認識゛はしないでしょうが…通りすぎるまで待ちますか?」
予譲とニレコ達の距離は直線で200mを切った。もし゛認識゛してしまえば、ニレコの特質上戦闘は避けられないだろう。
しかし、それは無いと直樹は言い切れる。かの”能力者”の”能力”は特別だ。常時攻性エーテルに対する備えをしているモノならば別かもしれないが、それとて多少の力なら効果が無い。
だからまぁ、特別彼等が通りすぎるのを待つ必要も、空間師に頼んで限定空間にする必要も無いのだ。
どうせあの能力にかかれば皆忘れてしまうのだから。
「オレがやってもえぇけどなぁ・・・ダルいなぁ・・・・」
我等が”能管”の主任はぶつくさとただ自分がダルい事を告げている。
まぁ彼がやらねば、誰にもどうしようもなさそうなのだ。ならば、ぶつくさ言っていてもやってくれるだろう。
と、思っていた事が直樹にもありましたまる。
「あぁ、そうだで!あいつらにやってもらおう!」
パチンと指を鳴らすiwaokun。
「まっ・・・・」
静止の声が発せられるよりも先に、それは起こった。


それは唐突に鼻についた。
血の香り。聖なる香り。
つい、ほんのついさっきまでまったく感じなかった匂い。それをまさに突然感じた。
「・・・・・・・(・ω・)」
「おい・・・にれこ・・・これは・・・」
一秒前までダラダラとブラのワイヤーに対する愚痴を言っていた夏帆(まめまめ)も気づいたようだ。なら、間違いない。
2人は無言で駆け出し、2ブロック先の角を曲がる。
そこは所謂大通りで、随分先までが見通せる。
濃密になってゆく血の匂い。
そして鼻先を擽る聖なる気配。
こちらは夏帆には感じられないだろう。もしかすると・・・・自分の仕事かもしれない。
目を”聖眼”に切り替えて、ニレコは大通りを見透かした。

「主任・・・なにやってんですか・・・」
5秒ほど呆れて声が出なかった。
「あ?ちょっとあいつらの神経接続をいじっただけだで」
事も無げに言う。
それはつまり、彼等に対してゴーストハック(心神強制介入)をやらかしたって事なのだが・・・。
「逮捕ですよ逮捕・・・しかもゴーストハックならそのまま”能管”の手によって暗殺です」
白手袋で両目を覆いながら告げる。
「ならお前がやるか?w」
メガネの奥で瞳が揺れる。実に楽しそうだ。
「遠慮します。・・・・まったく、私に主任が倒せる訳ないでしょうが・・」
屋根の上に腰を下ろす直樹。
「なら見とけ。多分起こるぞ」
「何がです?」
シルクハットを取り、屋根の上に置く。
「楽しい事にきまってんだろw」
今にもポップコーンとコーラを取り出しそうなiwaokunだった。


そして、夏帆は見通した。
暗闇の大通りを。
そこには、民家の壁にもたれかかるように男女が2人。
男性が女性の口を塞ぎ、右手を女性の腹部に突っ込んでいる。
特徴としては、何かの”能力”なのか、男性と女性が薄い青色の光でつながれていた。
「シィアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
前を走っていたニレコが、それを見ただけで加速する。聖書のページをばら撒きながら。
「待てニレコ!!プリーストじゃ戦闘職にはかなわねぇぞ!」
相手の力がわからないのに接近するのは得策では無い。しかも相手は少女の腹に手を突っ込むような・・・どちらかと言えば『オレ』寄りだ。
戦闘力に特化している可能性が高い。
ニレコと相手の距離は・・・・約100m。
なんとか・・・・間に合うか?
夏帆は駆けていた足を止め、その場でまだ実験すらろくにしていない『力』を練成し始めた。

走る度に近づいてくる血の匂いと聖なる気配でおおよその察しはついていた。
間違いない。この気配は聖導騎士だ。ちゃんと叙勲も受け、軍隊で訓練を受けた聖導騎士。
何者かに攻撃されているのなら助けよう。しかし、もし加害者側なら・・・・。
「聖罰」
後を走る夏帆に気づかれないように呟く。
もし聖罰をするなら、これが始めてになる。
そうならなければ良いと思う。
そうであれば良いと思う。
どちらだろう、わからない。
気持ちの整理がつく前に、曲がり角を駆け抜けた。
そして、”聖眼”で闇夜を見通す。
その”眼”は見た。聖導騎士が、少女の腹に手を突っ込んでいるのを。
距離は約100m。
聖書を練成し、力を籠めてばら撒き、駆ける力を増していく。
無意識に声が出た。
「シィアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


人の声とも獣の声とも区別のつかないような声で我に帰る。
ふと見ると、ピンク色の髪をした女性が駆け寄ってくる。
馬鹿な。
予譲はおじけた。
まさか見えているわけが無い。あの戦争が終わってから、誰も自分が見えなかった。ならこれも何かの間違いに違いないそうだきっとおれの背後に何かいるか何かあるにきまっていて彼女はそれを目指して走ってきてい
気がつくともう懐に入り込まれていた。
そして彼女は呟く。
「聖罰」
両掌で胸を弾かれた。


「へぇ、初めて見ますけどあれが聖罰の?」
「”審判”とか”執行”って奴だな。聖属性神経を強制的に停止させる殺し技。つーかうるせぇ。黙って見てろよwww」
「はいはい・・・」


「ぐぅ!」
突き出された両掌によって3mほど吹っ飛ばされて地面に着地する。
それにしてもおかしい。自分が他人にちゃんと識別されている事が。うれしい反面
「・・・・ィアアアアアアア!!!」
月を背に司祭は飛び蹴りの姿勢に入る。
蒼く光る双眸が、やけに恐ろしかった。
今は・・・・・迎撃!
「え」
盾が練成できない!
「アアアアア!!」
盾で受け止めるつもりだった槍のような飛び蹴りが空から襲い掛かる。
上半身を左に捩ってなんとか避ける。

「”邪鬼潰し”」
着地すると同時に司祭が右腕を振り上げ、捩れた横腹にハンマーのように振り下ろす。
ドゴン。
半身背中から地面に叩きつけられる。
拙い。戦闘中に地面に横になるなど、死と
「”三式・墓荒し”」
そのまま横腹を捻った踵で蹴り飛ばされ、地面の上をさらに3mほど滑らされる。
これもおかしい。たかが聖職者の蹴りに自分の防御点が突破されるはずが無い。
そして先程からの違和感。
体の自由が利きにくい。
地面を滑らされたお陰で、”敵”との距離があく。
詰め寄られる前になんとか体を起こした。
「まさか・・・噂の”聖罰”?」
聞いた事だけある。都市伝説の一つ。堕落した聖導騎士や聖職者を狩る、幻の組織。
ピンク色の司祭は答えない。ただ、その双眸を蒼色に光らせ
「AMEN」
とだけ。

今後もし仮にニレコが責められるような事があるのだとしたら、ただこの一点に尽きる。
この「間」
この会話の「間」
これさえなければ、全てが簡単に収まっていた。
2-1=1のように。


『基本概念練成・データフィードバック+保持完了・ワールド接続良好・ログイン・・・・成功。接続・・・・』
聖書のページをばら撒きながら突撃し始めたニレコを、その場で見ながら夏帆は自分のやるべき事をやっていた。
ニレコがどうしてしまったのかわからない。
司祭では騎士にも聖導騎士にも勝てはしない。そんなの基本中の基本だ。
しかし彼女はやる気満々で飛び出した。勝機?そんなのはあるわけが無い。
いつもどこか飄々としたニレコが血相を変えて飛び出す・・・・。
あの男のやっていた事が何かのトラウマに接触したのかもしれない。
ともかく、どんな理由があれこのままではニレコは殺されてしまうだろう。
しかし、そうはさせない。
別に特別な感情がある訳では無い。
ただ、ニレコは同じエンブレムをつける仲間だったから。
『状態・・・オールグレー。バグの存在を確認。使用は可能が非推奨』
まぁ・・・・ちょっと面倒だし、不安要素のある事しようとしてるし。
ニレコもきっと・・・・死ぬよりは・・・まぁ・・・・
『使用開始まで後5秒』
いいだろっ!
『ゴースト強制介入接続、開始』
拙い言い訳を頭の中で反芻しながら、夏帆の手より世界から盗み出した情報がニレコの背中目掛けて打ち出された。


早くこの目の前の男をぶち殺して戻らなければならない。
少女の手当てが待っているのだ。
それにしても奇妙。
先程からこの男ずっと何かにびっくりしているようだ。
これから殺されるというのに。
もしかして、聖職者に殴り倒された事にびっくりしているのだろうか?
ありえる。一線で戦って来ていた者にはショックだろう。
ありえるが・・・・やはり無い。死の恐怖には耐えられないのが人間であるはず。
それも否。あのような所業をする者を人間とする方が間違っている。
ならもういい。そんな事はもういいから、初めての聖罰を終えよう。
「AMEN」
短く早く、相手に祈りの言葉を。
そして、ニレコの意識は掻き消された。


目の前の司祭が祈りの言葉を終えて既に3秒が経過する。
がしかし、何も起こらない。
司祭は放心したようにその場に立ったまま、身動き一つ(瞬きの一つも)しない。
チャンスである。
司祭をこの隙に斬るか?
いやいやいや。それは出来ない。感情的なものは斬れと言うのだが、武器が練成できない。やろうと思えば多分できるとは思うのだが。それにきっと、それは拙い。ニトロの樽を蹴るがごとく。
では。
予譲は残されたただ一つの道・・・・逃走を開始する。
「待てゴルァ!!」
司祭に背を向けて走り出そうとした瞬間、さっそく呼び止められた。
もうすでに1人には認識されてしまったのだ。ならもう何が起こっても驚かない。
振り返るとそこには、いかにも清純ですといわんばかりの女子中学生(高校生?)がその顔を邪悪に歪ませて立っていた。
「・・・・彼女は知り合い?」
こんな時なのだけれど、人と話しをするのが久しぶりだと気がついた。
独り言だけの、数年間だったようなものだから。
「ああ!?見えねぇか?これがよぅ!」
少女は右手を握り、親指を立てて自分の左胸に突きたてる。そこには金色のエンブレム。
燃え上がるような金色の唐草盾模様に、目の醒めるような・・・・・蒼。
「あ・・・・・・・・・」
瞬きすらも忘れた司祭の胸にも同じ模様。
このエンブレムは・・・・・
「けりたまの・・・・いるギルド?」
「はぁ?」


『予譲』
『ん?』
ベンチに座る男が2人。1人はサンドイッチをずっと見つめたまま。1人は本に目を落としたまま。
『悲しいって、なんだ』
『・・・・・それがわかってやっと、人間だよ。きっと』
『そうか』
『そうさ』


それは随分前に交わした友人との会話。戦争以前、彼が人だった後半の記憶。
「なんだてめぇ、krの連れ?」
胡散臭そうに顔を歪める少女。まったく、可愛らしい顔が台無しだ・・・・とは言うまい。
「ん・・・・同期でね。まだ彼はチェスの時、キングをずっとずーっと奥に並べているかい?」
「はん・・・・なんだてめぇ、それならそうと言いやがれ。あんなキチ○イみてぇな事してっからよぅ」
右手にはまだ先程の少女の血がぬるりと香る。
ああ・・・・まったく。そう言われても仕方が無いや。
「うん・・・・いやぁ・・・・ごめんよ。ちょっとした発作みたいなもんなんだ・・・」
「あーぁ、おい、なんか感じわりぃなぁおい。いくらkrの連れってもよぅ・・・まぁアイツの連れならなぁ・・・・やりかねねぇけどなぁ・・・」
ばりばりと頭をかいてバツの悪そうな少女。
どうやら戦闘は回避できそうだった。ほっと一息つく。
アバラと顔面が痛い。骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
「なぁニレコよぅ、こいつkrの連れだってよ」
そうだ、まだ完全に戦闘は終った訳では無い。なにしろ先程の司祭は・・・聖罰の可能性があるからだ。
「いきなりぶっ殺すのはやめてよぅ、ちょっと話しくらい聞いてみっか?なぁ?」
都市伝説にしか過ぎないけれど、もし聖罰というものがその伝説に違いないものなら、これで刃をしまうはずが無い。
「おいニレコ、返事くらいしろよ。なぁ?」
先程の体術、不思議だった。あの程度は錯乱していても避けれるはずなのだ。モンクでも無いただの司祭の拳。それが避けれない。そこになにか秘密が・・・。
「・・・・ニレコ?」
「?」
思索は急に打ち切られる。
目の前で起こる事に。
「・・・・・・・おい?」
少女の問いかけに先程から司祭は答えない。瞬きの一つもしない。何もしない。”まったく何もしない”
完全にパッシブな状態に見える・・・・が・・・・・。
「エーテル量増大・・・・あんた・・・・」
「おぅ・・・・なんかこれは・・・・・・・・・・・・・」
いや、正確にはまったくなにもしていない訳では無い。その証拠に、司祭を取り巻くエーテルが異常な値を示している。
「高速収斂を繰り返している?」
「わからねぇ・・・なんだ・・・これ・・・・」

ドクン。

脳の中が1と0に埋め尽くされる。世界が輝いて見える。
口をパクパクさせている少女と男が目の前に。なんだか目障りだったので、打ち払いたかった。その為の力が欲しかった。想えば。
力が溢れてくる。どこから?さぁ・・・・きっと、神の国から。

そうして『彼女』は生まれた。

「さらにエーテル増大!!なんだ!」
少女が一歩後下がる。
「まさか・・・いや・・・・さっきのはもう解除したはず・・・・」
司祭はいまだ身動きの一つもしない。ただ、今はもう司祭をとりまく空気が、エーテルが高速収斂を繰り返して逆巻きうねっている。
「こんなエーテル・・・・」
その数値はすでに人の身を越えた値。爆発四散すればキロに及ぶ破壊をもたらす。
「ニレコ・・・・」
少女が司祭の名を呼ぶと同時に、こっちを真っ直ぐに見据えた司祭の右目が朱色に焼ける。
次いで左目は金色に。
「!?」
司祭を中心に空気が爆ぜた。
そして現れたるは
「・・・・・・・・・・・・天使」
しらず呟いた言葉。それに相応しいその姿。
赤と金のオッドアイ。司祭の背には巨大な真っ白い羽が
「ぐっ!?」
天使の姿がグンと遠くなる。
地面が吹っ飛び、どんどん景色が流れ出した。
「がっ!」
息が苦しくて喉元に手をやると、自分の服が首にめりこんでいる。
そして襟には少女の手。
後から首裏をがっしりとつかまれて、少女は駆け出していた。天使を置いていくように。
「ちょ・・・・はな・・・」
「あほぅ!”あれを見て”駆け出さないなんて!てめぇ死にてぇのか!!」
少女は大股で駆ける。恐ろしい程の速度で。
「あ・・・・・あれ?」
目を凝らすが見えない。エーテルが目に通っていない。拡大表示が・・・できない。
「ちっ!話は後だ。とりあえずこの場を離れて・・・・」
後から摑まれた体は完全に宙に浮いている。どんな速さで走ればこんな事になるのか。
今は大通りを真っ直ぐに離れていっているだけ。
なんとか目にエーテルを通わせて、先程の天使をもう一目・・・・。
「?」
天使の代わりに違う物が見えた。
柄より白煙を上げて迫ってくる二本の黒鍵。それはまさに・・・・ミサイルのような。
「ふ・・・・フォックス2!!」
「あぁ!?なんだと!?」
間違い無い。アレはミサイル。貫通し、殺す物だ。
それが白煙を上げて迫ってくる。どんどんと、どんどんと。
「18時に感2!わき道に・・・」
「できねぇ!このスキルは真っ直ぐにしかいけねぇんだ!」
少女の足が完全に舗装された地面をガリガリと削る。知らないスキルだが・・・・戦場で使うには致命的すぎる。
いくら速くとも、迫る黒鍵のほうが若干速い。このままでは追いつかれてしまう。
「黙ってねぇで叩き落せ!」
至極当然の指示といえた。しかし、それができればとっくにやっている。
「ダメだ・・・・・」
「はぁ!?死ぬぞ!?」
一瞬だけ振り返った少女と目が合う。
「さっきからやってるけど・・・・概念兵装が作れない」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
そう、思えばさっきからおかしかった。
目にエーテルが通わなかったり、盾がうまく練成できなかったり。
司祭に胸を突かれたあたりからどうも・・・・
「ウィルスの類に感染してるのか・・・・」
右手を開いたり閉じたりする。・・・・鈍い。感覚の全てが一瞬遅れになる。
「なんとかなんねぇのかよ!」
ミサイルはどんどん間隔を狭めてくる。
このままでは・・・・
「その手を離して欲しい」
「はぁ!?何お前、”ここはオレが食い止める!”か?ダセwwwwwwwwww」
「違うよ」
冷静に迫る黒鍵を見る。
あれを叩くには飛び道具系の概念兵装が必要。しかしこのボディでは練成が出来ない。なら”ボディを変えるだけだ”
「一瞬だけでいい、ほんの一瞬だけ手を離して。その間に義体を換装するから」
「義体の換装ならこのままやれや!サーカスみたいな真似は・・」
「出来ないんだ。もう一つの義体はライフサーキットが焼けてる」
ロードナイトの義体はニブル戦役で死んだ。残り香がかすかにある程度。
それをかき集めて、手足だけでも換装する。と云うか、手足くらいしか換装できない。
完全な義体ならば、たとえどんな状況でも修練によって一瞬で切り替えれる。が、こんな特殊な場合だと他者からの接触ひとつでエラーが出る可能性がある。
「・・・・・でもダメだ!krの連れを殺す訳には・・・・ちぃぃぃ!!!そんなんどうでもよかったwwwwwタイミング合わせろよおおおおおおお!!!」
案を否定しながら後を見、思ったよりも近づいた黒鍵を見てやっと納得する。
「3・2・1!!!!」
瞬間、予譲は完全に宙に浮いた。

1秒では遅すぎる。置き去りにされてしまうし、この速度で投げ出されればただではすまない。
0.5秒の仕事。この換装は0.5秒でやらなければならない。
一度死んだ体と今の体を縫い付ける。簡単な事では無いけれど・・・・でも・・・・・。
傷ついた目を開けた時の絵が、今も目に残る。
瞬間、もう一度後襟を捕まれた。

「できたか!?」
あんまりにも一瞬だった。0.5秒を目指したのだから、当たり前だ。
あまりの速さに呆気にとられるも、その手には頼もしい質感。
「・・・・・迫るミサイルを叩き落す!!」
AK・・・・カラシニコフ。
がっちりと脇でホールドして、弾をばら撒いた。
バタタタタタタタタタッ!!!
キンキンと剃刀を割るような耳障りな音を立てて迫っていた黒塗りの剣が弾き飛ばされる。とりあえず一発撃墜。
「ちょ・・・突撃銃かよ!」
軽くない反動が夏帆のバランスを崩そうとする。
ミサイルはもう一発。
「単撃で落とす!対ショック!」
脇を閉め、ガンサイトを向かってくる剣に。
バンッ!
飛んでくる黒鍵の柄を狙い、一発だけの射撃。狙いも威力も十分。
向かってきたミサイルは全て撃墜された。・・・・・・2発は。
「へぇ!いい腕して「18時フォックス3!」
瞬時に次弾が飛んできた。
「くそがあああああああ!!!!!!!」
小さな体に予譲を掴み、短いスカートをはためかせて少女は加速する。
コンクリートを破壊しながら、命を削りながら。
「本体が・・・」
「あああんん!?」
エーテル探査。完了。
「んなアホな・・・」
探査結果は
「18時50mの位置だと!?」
全然離せてなかった。そのあまりの距離の無さに愕然とする。
がしかし、立ち止まるわけにはいかない。アレとまともに向かい合っては勝機は0。これはこのゲームのルールみたいなものだ。
ガンサイト越しに予譲は目を細める。
そこには夜の大通りを滑る/統べるように飛ぶ司祭・・・・もとい、天使が。
オッドアイと目を合わせただけで魂まで擂り潰されそうな圧力。
指が震える。そしてその震えた指は的確にトリガーを引いた。
「!?」
バタタタタタタタタタタッ!!!!!
弾道予測をするまでも無い。銃より放たれた弾丸は一直線に天使に向かって。直感・・・・何発かは着弾する。
「にれ!」
夏帆が叫ぶも・・・。
その時、天使の両肩に浮いていた聖書(いつ展開したのか?)からページがばら撒かれる。
一直線に向かっていた弾丸のすべては、そのページ一枚一枚に触れ、霧散した。
「ニューマ・・・・?いや・・・!」
そしてそのまま、開かれた聖書から細い光線が多数バラバラに放たれた。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
バタタタタタタタタ!
カラシニコフから吐き出される弾丸にエーテルを付与し、面積をソフトボールくらいに拡大し弾幕を張る。
光線は弾幕に触れて爆発、近くの光線をも巻き込んで大爆発を起こした。
「くそっ!レーザーファランクス・・・・そうか・・・ノムオの魂・・・・」
少女が何か呟くが、至近距離で起こった大爆発に耳が麻痺している。
そしてまだ続く爆発の中から黒い切っ先。
黒鍵はそのまま貫通してきた。
「バスタード!!!」
慎重に狙いをつける暇は無い。手当たり次第に弾をばら撒く。
先程の撃墜でわかったこと。コレは真っ直ぐにしか飛ばないモノ。一発でも着弾すれば、その機動を変えてやることができる。
キンッ!
耳障りな音がして一番近くに迫っていた黒鍵が弾かれ
「・・・・?」
黒塗りの剣にヒビが入り、白い光が漏れてきた。
「!?マズ・・・・」
そして剣はあっけなく内側から破壊された。白い光によって。
ヴヴヴヴヴヴヴ!!
その場に白い小さな太陽が発現し、空気もコンクリートも地面も、5mの範囲を擂り潰した。
「・・・・・・炸裂弾のつもり・・・か?」
幼稚だ稚拙だと馬鹿に出来ない破壊力が目の前で起こった。
「司のマグヌス・・・・くそ・・・まずいな・・・」
少女がまた呟く。
「何か知っている?のか?」
「・・・・・逃げるのが先だ・・・・うぉ・・・まじぃ・・・」
ちらりと進行方向を見ると
「・・・・・・ジーザス」
大通りが終了し、目の前には8階はありそうなビル。
このスキルは急に方向を変える事ができない。
立ち止まれば2発残っている炸裂弾仕様の黒鍵が。
「ど、どうす「飛ぶぞ!!!」
クン、と少女の体が少し沈む。馬鹿な。いかな能力者であれ、空を飛ぶ事は基本的には出来ない。
短距離ならば足を犠牲にする程のエーテルを射出して飛ぶ事ができるが、目の前のビルは8階はある。
途端、司祭の姿が斜め下に縮小した。
否、夏帆と予譲は今、空に向かって加速していた。
ビルの屋上から大きな、大きな月が顔を出す。まるで、月にまで飛んでいけそうな-
ドンッドン!!
下で2発の炸裂弾仕様に換装された黒鍵がビルに突き刺さって爆発、四散。
その炎をものともしないでこちらを赤と金の目で見る天使。
「拙い!早く着地を・・・!」
口にした途端、無限に加速するかとも思われた慣性が消滅、一瞬の無重力状態に突入する。
「飛ぶスキルだからな・・・・落ちるのは重力任せに・・・」
そんな悠長にはしていられない!
空中での方向転換が出来ない以上、今我々は究極に無防備に
天使の右手が光る。
きゅうん。
超超高密度のホーリーライト。きっと直撃すれば穴が開くなんて優しい事にはならな
想像するよりも早く、予譲の胸に光は着弾した。


「はっはー!死んだか?死んじまったか?」
夜空を彩る大爆発を見てはしゃぐめがねの男。
「・・・・・・・・主任・・・・あれはなんですか・・・・」
うってかわって深刻そのものの表情を浮かべるシルクハットを持った青年。
「あ?なんだと思う?ナンだろなwwwwwwwww」
ぎゃっはっはと笑うめがねの男。
「・・・・・・XXX(トリプルエックス/エクシオン)・・・まさかこんな所で見るとは・・・・」
ぎりと奥歯を噛む音。
「違うなwあれはXXXXX、名前はまだ無いけどな、それくらいはあるでw」
馬鹿な!といおうとして顔を上げるが・・・・この男が言うなら間違いは無いのだろう。
「XXXでも十分に人外だというのに・・・・一体・・・」
「直樹、限定空間の拡大を急げ。被害はこんなもんじゃなくなるぞwwwwwww」
「・・・・了解。主任が討って出るんですね?」
先程の光景は拡大して見ている。間違い無くあの高出力光学兵器は2人に着弾した。
そして、あの威力にはきっと・・・・耐えられないだろう。
「そう思ったんだけどなぁ・・・・あいつ等まだがんばってっからなw」
目を爆発が残るビルの上に戻す。あの破壊力に耐えたと・・・?
丁度煙から2人が落ちて姿を現した時だった。


「ぶはぁ!」
体に纏わりついていた煙が落下する体について来れずにはがれていく。
2人はまだ生きていた。
「なんで生きて・・・・?」
予譲は生きていた感動よりも、何故死んでいないのか、どうやって助かったのかが気になっていた。
この自分の胸に、あの光の圧力すら感じたというのに。
「これも専用のスキルでよぅ!ちょっといじったヤツだったけど、役にはたった!」
説明を受けたかったが、それよりも先に
「地面に落ちるぞ!着地はこっちでやっから絶対お前は足つけんなよ!そーゆースキルなんだからな!」
少し遠くまでも見渡せるような夜。まさかこんなところから眺めるとは思ってもいなかった。
ゆっくりと、しかし確実に夜景が下にズレてゆく。
どんどんと地面が近づいて・・・・・そのまま墜落―
「っしょおおおおおおお!!!!」
トン、と地面に降り立ちそのまままた加速を開始する夏帆。
「い・・・いまのは?」
「説明は後だっつってんだ・・・・おおおおまじいいいいいい!!!!」
今まで加速していたラインから体一つ分だけ急にズラす夏帆。
「!?」
驚いた瞬間、いまさっきまで走っていた地面に穴が開いた。
「・・・・げぁ」
ぴ、と頬に何かが当たった感触で夏帆を見る。
口から一筋の血を零していた。
「あ、当たったのか!?」
「・・・・あほぅ・・・直撃してたら死んでるっつーの。無理矢理ライン変えたからな。」
ぐっと右腕の袖で口を拭う。
体一つ分、右足を少し横にズラして走っただけで、体には恐ろしい程の負担がかかる。
この”加速”するスキルはそういったものらしかった。
瞬間、圧力。
キッと夜空を見上げると、先程飛び越したビルの屋上に人影。そこから降るように迫る黒い針が二本。
脅威は未だ、去ってはいなかった。

目の前を”1”が二つうろうろする。
気になる。気になる。
右手を伸ばせば、触れたものは”0”になる。
あれも”0”にしたい。したい。

夏帆は走りながら考える。
どうやってこの状況を打破するか。
戦闘すれば間違いなく負ける。ならば逃げるしかないのだが。
一体、どこへ?
砦とはまったく逆方向に走っている。
人通りの多いところにいけば、なんとかなるかもしれない。ニレコを鎮圧できる人間がいるかも?
いや、居ないだろう。今のニレコに勝てる人間なぞ、そうは居ない。そうは・・・・

「いた。」
1人いた。
たった一つの心当たり。
ふと、その心当たりが目の前でにやけたような気がして、夏帆は夜の街を睨んだ。
「くそが・・・・・」


「おーお、悔しそうな顔してんなおいwwwwwwww」
偶然である。
逃げる夏帆の正に正面、600mほど先にこの男がいたのは、絶対に偶然。
「そろそろ助けてあげてはどうですか?彼等にはあのバ「ぶち殺すぞ」
直樹は言おうとした言葉を飲み込む。言えば、本当に殺されてしまうだろう。彼はやるのだ。
一瞬だけ真顔になったメガネの男は、またにやけ顔に戻る。
「頼られるのは悪ぃ気はしねぇけどなwwwwwあいつには仲間がいるって大事な事を学んでもらおうかなw」
ぱちんとまた指を鳴らす。
この指が鳴って、ろくな事になった試しが無いのを直樹は良く知っていた。

「おーいメソー、豆大福まだー?・・・・あ?」
箸を持ったまま振り返った男は、完全に無防備だった。



「・・・・・それで、俺にどうしろと?」
ゲラゲラと笑い続けるメガネを余所に、できるだけ平静を保っているフリをする司祭の男。
「はぁ・・・しゅに・・・いや、軍曹に考えがあるようですけども・・・」
その”軍曹”は腹を抱えて笑っている。
「・・・・・豆大福の恨みは怖いぞ・・・・」
ぺきりと箸の折れる音。メガネはいっそう高らかに笑い出した。


「んううううううう!!!!」
バタタタタタタタタッ!!!!!!
全力射撃でなんとか追撃者の攻撃を防いでいる現状。
なおも夏帆は加速を続けるが、心なしか速度が落ちてきているような気がする。
追いつかれれば、終わり。
次の獲物は―
絶望という名の黒鍵8本。

「んでだ、ねちゃんには”これ”を使ってある”標的”を撃ってもらいたい」
ぽんっと出すにはあまりにも質量のある”これ”を事も無げに練成し、ねちゃんと呼ばれた男に渡す。
「これは・・・・・グランドクロス?」
成人男性の身の丈もありそうな巨大な十字架。否、十字架を模したハンマー。
「ただのグランドクロスじゃねーぞw」
「・・・・・青ジェムで作られたグランドクロス・・・・」
そう、月明かりに写るその巨大な十字架は良く見れば薄い青色を放っている。
「そんな馬鹿な・・・こんな巨大な結晶があるわけが「作ったで」
夏にしては涼しい風が吹いた。
「はぁ」
これがどれだけとんでも無い事かはあえて説明しない。が、なんとはなしにわかってもらえると思う。
「・・・それで、何を撃てって?」
巨大な十字架を肩に担いだ司祭がメガネを見やりながら尋ねる。
「それはおいおい・・・・ってやべぇな、騎兵隊でも送るか」
ドムドムと小さな爆発音がした方を見た。

二発。
たったの二発だけ逃した。
しかしそれでもゲームオーバーに十分事足りる、二発。
撃墜した黒鍵の煙を切り裂いて、二本の切っ先が迫ってきた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
カラシニコフを盾に変えて防ぐ!
もちろん間に合いはしない。黒鍵の切っ先は無常にも既に胸の前に。
予譲は、せめて今まで自分を担いで走ってくれた少女が無事であれば良いと願った。
「・・・・・・・・」
今にも突き刺さりそうだった剣先が胸の前から遠ざかる。何だ?何でだ?
「ッッッッッしょおおおおおおおおおおお!!!!」
見れば、少女は左腕を野球の投手のように弓なりに振りかぶり遠くの壁目掛けて投げつけていた。
自分を。
「やめ―」
遠ざかる少女と二発の黒鍵。
その内の一本が、少女の胸から生えたのを見た。


「おいおい・・・・修羅場だな・・・・」
焼き鏝を背中と胸に押し当てられたような感触を味わった瞬間、耳に聞こえてきた声。
今にも自分の胸から飛び出そうとしていた剣先がどんどんまた胸に戻っていく奇妙な光景。
うつ伏せに倒れこむ瞬間、必死で仰向けに倒れこんだ時に彼は完全に実体化した。
「やしろ・・・」
やしろと呼ばれた黒髪の青年は、切っ先を自分の血で汚した黒鍵の柄を持ったままニヤリと笑った。

「急に”転送”されてみりゃ武器も防具も説明もなんも無し。こりゃあれだ、”時間稼ぎ”って事でいいのかね?なぁ、ニレコ」
飛んできたもう一本の黒鍵の柄をなんなく掴み、二刀を構えるやしろ。
「やし・・・それは・・・・」
ぴしりとやしろが持っている二刀にヒビが入る。
「はん、やっぱ素手か」
割れそうな刀身を一瞥してニレコに投げ返す。聖書から放たれたレーザーファランクスになんなく撃ち落された。
「状況はまったく把握できねぇが・・・どうしたニレコ、その有様は」
演算能力と恒常性の強化、及び脚部の強化を同時に行う。
常人の数十倍に加速された演算能力がすべての事象をスローに見せる。
今正に練成されようとしている黒鍵の数は・・・・6
「全然遅ぇわ」
やしろは高速で踏み込み、ニレコの鳩尾に崩拳を当てる。
50cmほど宙に浮いたままのニレコは、直立不動の姿勢のまま3mほど後に飛ばされる。
飛ばされた先でやっと黒鍵が完成、目標目掛けて・・・・
「?」
目標をロスト。
「武器なんも無しで正解だわ軍曹。手加減が難しくなる」
声は殆ど真下から聞こえた。下を見やる。
やしろが沈み込んだ態勢のまま、両手を広げて飛び掛ろうとしていた。
近接迎撃開始。
左の掌に力を集束、はな・・
またもや目標をロスト。
一瞬前まで自分に飛び掛ろうとしていた男が目の前から消えた。
「あぶねぇな・・・流石の俺も”光”は見てからじゃ遅い。」
左斜め前のビルの3階部分に張り付くようにしてやしろは呟く。
ニレコは目標を再認識して、力を放出。
煌く光がやしろと呼ばれた男の頭を吹き飛ばした。


「えーと・・・え?終了?」
シルクハットを凹ませ、直樹は振り返る。
そこではメガネが司祭と雑談していた。
「・・・・豆大福・・・」
「だからよーそれはまた今度の楽しみに・・・」
団員が死んだというのに。
「主任・・・」
さすがの直樹もこの”ズレ”には一言謂わなければならないと感じた。
どれだけこの男が”ズレ”ていようとも。
「あー、死んでねぇ死んでねぇ。これくらいで死ぬなら俺が暇つぶしに殺してるわw」
手でシッシと追い払う仕草。
「そんな、見ても無いのに・・・」
光線はあの青年の頭に確実にヒットし、彼の脳を吹き飛ばした。確実にだ。
その脳漿が飛び散るのを、直樹は直に見ている。
それでも彼は言う。
「うっせーなwwwww死んでねぇってwwwwwそれによwwww」
やっとこちらを振り返る。
「送った騎兵隊は、1人じゃねぇでw」
自信満々の笑顔で。


ボンっと弾ける音を聞いて振り返ると、そこには顎から上を完全に消滅させられているやしろが、ビルの壁から落ちるところだった。
「くそ・・・・」
一瞥しただけで、なんの感慨も浮かばない。
彼と夏帆はそんなに仲の良い間柄ではないからだ。
しかし、一応仲間は仲間。脳は頼んでもいないのに、やしろの仇を討つ作戦を模索する。
無い。
まったくの皆無だ。
彼女が何かをしてあの”天使”を鎮圧するのは不可能でしかない。
ならば作戦は一つ。
ここは逃げる。完全に逃げ仰せ、あの”天使”が鎮圧できる唯一の心当たりを引き摺っても連れてきて、やしろの仇を取る。
これしか無い。
しかし、半分殺されたような体ではたして逃げられるか。
しかし!ここでこの手を這わしてでも前にやらなければ!
「逃げられない!」
夏帆はゆっくりと、でも確実に手を伸ばした。
「諦めない。その命を諦めない、その強さを助けます。あなたはもっと・・・なんとゆーか・・・捨て鉢に生きていると思ってました。」
黒いローブの袖から伸びた白い手が、伸ばした夏帆の手を掴んだ。

「てっーなおい・・・・」
地べたを這う夏帆に追撃をかけようとしていた”天使”はこの一言で目標を変えた。
いや”戻した”
その視線の先・・・・・先程”0”にした目標が、頭部より微かに湯気のようなモノを発てて立っている。
「そこまで容赦ねぇなら・・・俺も容赦なんてのぁ・・・・ちょっとだけにするぞ!」
男が眼を閉じ、そして開ける。
その眼は先程と同じに非ず。
黒い深遠から、濃密な紫へ。
そしてその身に纏う力の性質も、まったく別のモノになりかわっている。
目標再認識。再度の解析を・・・
「”路地裏の殺人鬼”!!!」
目の前の男は、いつの間にか右手に持った拳銃のようなモノを引き絞った。
バン。
弾道予測開始。迎撃を―
しかし、一直線に飛んでくるはずの弾丸はどこにも見当たらない。
そして再解析しようとしていた男の姿も。
ふいにズグリと右腹から何かが飛び出してきた。それは自分の血を纏い、赤色に輝く弾丸。
即座に超恒常性維持能力が発動。腹と背中の傷を修復にかかる。
「わざわざ傷口見てんじゃ・・・・ねぇ!」
声と同時にボキリと云う衝撃。
いつの間にか左後方に周りこんでいた男が、自分の首を左手で掴むと同時にへし折った音だ。
そしてほぼ同時にもう一つズグリと、今度は脳を抉られる感覚。
弾丸は、二発だった。

「しかし軍曹、これを全力で”撃つ”となると、街の形が変わるかもしんねーぞ?」
ずしりと身の丈程もある巨大な十字架を肩に担ぎながら司祭はメガネに尋ねる。
「おぅそんなモンはどうでも・・・・いや、さすがによくねーかwあーどうしたもんか・・・・ん、そろそろ終いか。ほれ”やしろ”」
メガネはまたパチンと指を鳴らした。

左手一本で宙吊りにされ、頭と腹に穴を開けられたまま、それでも”天使”はやしろを睨む。
再認識完了。攻撃再開。
ぎょん。
両手に集めた光を圧縮して首を後から持ったままの男目掛けて放つ。
「はんっ!」
しかしその光は男を貫かず地面に穴を開けただけ。
寸での所で手を放し、飛び退る男。追って第二射、第三射。今までの速度の倍で動く標的。
どれも尽く当たらず。
「・:・・・・・・:::::::」
直線の攻撃は不利と判断。ならば多角的に攻めるのみ。
”天使”は両肩に展開した”聖書”に力を集める。ランダムにばら撒かれる死の光。これで対象は今度こそ”0”に―
「?」
不意に体の向きが変えられた。直角に。その先には黒衣を纏い、目を紫色に輝かせた痩身の男が1人両手を体の前で交差した姿勢で立っている。
「ニレさん・・・まさか”堕落”を?いやいや、その姿は・・・”昇華”ですか。どっちみち・・・ちょっとこっち向いててもらいますけどもっ!!」
男の両指がギリリと締まる。同時に飛び退る男に狙い定めていた両手も体の内側に向けて締まり始めた。
「普通なら今頃細切れなんですけども・・・・やしろ!あんまり持ちません!」
「手間ぁとらせっか!」
見れば黒髪の男は構える。その両の手に握った二丁の拳銃を。
「”百死”」
バンバンっ!
二丁の拳銃から二度の発砲音。二つのマズルフラッシュ。当たり前の事だ。
しかしこの二丁は真っ当な拳銃にあらず。
殺して殺して殺して殺す為の拳銃。ただ、殺す目的の為だけの、ただ生命を奪う為だけの、ただただ、失わせる為だけの銃。
その目的を達成する為の全ては欺瞞で良いと。全てを売り払って、薙ぎ払って、打ち払って、手に入れた力。
その全てが、見たものそのままである筈が、無い。
「もいっちょお!!!!」
目の色が黒く変わると同時に後方に向けて”超”躍。後にあったビルに着地。ベキリとビルにヒビが走った。
そして男は吼える。
「ぐんそおおおおおおおおお”よこせえええええええええええええええええ”!!!!!!!!!!!」
瞬間、音が消えた。
誇張では無く、やしろがビルから”天使”に向けて突っ込んだ瞬間で音の壁を破った結果だ。
目では追える。いつの間に持ったのか、両手で真っ白な槍を持ったやしろが、自身その物を槍のように加速して”天使”に突き刺さる瞬間を。
雷が落ちたような音が事象よりも遅く鳴り響く中、それでも”天使”は倒れずにいた。
胸に大穴が開き、体を無数に穿たれ、その身すら薄紫の糸で縛られながら。
「これでも倒れねぇかよ・・・・ちくしょ・・・」
やしろは”天使”の足元にゴミのように”散らばって”いた。
これも誇張でも無く、本当に”散らばって”いたのだ。足を両足とも千切れ飛び、腕も一本見当たらない。首すらもげそうになって、胴体からは内臓がはみ出してそのピンク色を外気にさらしている。
「やしろ!ッのおおおおおおおおおお!!!!!」
金髪黒衣の青年はギリと両腕の交差と両指に力を入れる。
しかしこれ以上・・・・・
「まだ回復しませんか!」
「こりゃ流石に時間食うわ・・・バージル君・・・先に・・・」
「三文芝居やる間に回復しろおおおおおおおおお」
ボキン。
バージルと呼ばれた青年の右の中指がまったく逆の方向に折れ曲がった。
”天使”が右腕を強引に上げただけで。
「!!!!!」
それでもまだ締める。
ボキンボキン。
左の薬指と右の人差し指が折れる音。
少しずつ動きだす”天使”
結局、バージルの指は全てありえない方向に曲がった。
「~~~~~!」
ぶちり、と唇を噛み切る音。全ての指を折られて尚、バージルは両腕のみで”天使”を縛り続ける。
そして―
ゴキン。
その両腕も折られ、それでも、それでも尚
「”ブルーリンクス”!!!」
折れ曲がった右腕を伸ばし、やしろに青色の糸を投げた。
「おまっ!早く「退却しますよ!」
バージルが足元に転移結界を展開する。が、既に動けるようになった”天使”がそれを許す筈も無く。
バージルがやしろを引き摺り寄せるその前に。
「・・・・・・・飛んだ?」
両足の裏からエーテルを噴射させ、大空に真っ直ぐ飛び立った。


「・・・はあ?あれ・・・ちょっと飛んだってレベルじゃないですよ?」
あっけに取られすぎてあんぐりと口を開けて見ていた直樹が、半ば独り言の用に言う。
「おいwwww丁度いいでwwwwwwwww」
夜なのに右手で庇を作って空を見やる”軍曹”
「まぁ・・座標が分かれば撃てるのは撃てるけど・・・どこまでいったんだ?」
月にかかる雲に大穴を開けて、ニレコは空に飛んでいってしまった。
「ありゃあ成層圏は突破したなw」
たいしたもんだでwと”軍曹”は笑う。
「えーと・・・・・解決?」
「ばっか、んなわけねーべな。おぉ、ついに熱圏突入wwwwこれぁあれだ、面倒だからこの辺全部焼き払うつもりだでwwwwwww」
「熱圏て・・・・もう宇宙ですよ・・・」
奇しくも、”軍曹”の予感は的中する。


面倒だった。ただただ面倒だった。
幾度”0”にしても起き上がってくる男。それを助けようとする男。
最初から既に面倒だった。
男を担いで走る女。その背からちいさなちいさな棘を飛ばしてくる男。
面白かったのは最初だけだ。もうつまらない。”0”にして、次の”1”を探そう。
これだけ離れた。もう星そのものが視界に全て収まる所まで。
ここからでも目標は驚く程鮮明に見える。
全ての力を照射して、あの辺り一面を”0”にしてしまおう。
面倒なのだから。
虚ろなその目には、本来美しいはずの星すら見えていない。


ここに最初から居たにも関わらず、久しぶりに本編に加わるモノがいる。
「(・ω・)”」
体を何かに乗っ取られ、白い空間に閉じ込められた彼女・・・・ニレコ。
その空間には操縦席のような椅子が一脚と、そして外を映している巨大なスクリーンが一枚。
しかしその操縦席には、ハンドルも操縦桿も無い。
「きちゃったよ うちゅう (・ω・)”」
はらーっと自分の住んでいた星を眺める。
「きれいだ な(・ω・)”」
今度は非常に真っ当な感想を聞けたのだが、今はそれ所では無いような気もする。
急にスクリーンが拡大表示される。そこに映し出されたのは・・・
「おー!やしろんにバージル君だ!おーぅい!!((・ω・))」
まぁ見える訳も聞こえる訳も無いのでした。
「(´・ω・`)まぁね」
椅子の上でぐったりしてみる。あーぁ、みたいな。
ベキベキベキベキ!
「お お(・ω・)?」
急に球体だった白い空間が内側にへこみ始めた。
そしてスクリーンの左斜め下にある剣や本のアイコンの隣にある数字が激減。
「なんか まずい 予感だ!(・ω・)!!」
しかし緊張感は無かった。

「”軍曹”、おれは思うんだが」
「なんだいねちゃん」
辺りには気持ちの良い風だけが、これから起こるかもしれない大災害をかけらも感じさせず漂う。
「撃つのはいい。だが、避けられると思うぞ」
詳しい説明を”軍曹”がまったくしない為、脳内で作戦を保管していたネッド。
その作戦では、これからこの両手に持った100%ブルージェムストーン製のグランドクロスで自分の特殊スキル”shooting opera”を撃つ事だろうと思う。
限りなく光に近い速度で敵を穿つ”shooting opera”
しかし、それでもこの距離。それも、ニレコには恐らくこちらが見えている。
ならば、避ける事も可能だと思われるのだ。
弾は一発限り。それ以上は、いかに”軍曹”がこのヘンテコな兵器を持って来ようがこっちが持たない。
「あぁ、避けられるだろうなぁ」
あっさりと認められた。
「だから、保険を用意するで。しかもねちゃんよ、そのまま当てたら恐らくニレコは死んでまうでよ」
そしてまた、不吉しか呼ばない”軍曹”の指が鳴る。

「香車特殊能力”神風”発動!!直進して最初に当たった敵を含めて周囲3セル内の敵を道連れに!!」
盤上の香車が光り、敵陣に突撃し爆発する。
「わざわざ壁を一枚削るとは・・・兄者はわかりやすい・・・ナイト特殊能力”ランスチャージ”発動!風穴広げろ!」
盤上のナイトが光り輝き、香車のいなくなった場所から突撃、たまたま居合わせた桂馬を串刺しにして盤上の端まで突撃した。
「ひへへ・・・潰しあえ潰しあえ・・・玉特殊能力”双子の王座”発動!玉に軍事を託して王が内政を執る!ダイスロール!!・・・・なにぃ!?ファンブル!!ビショップに政権を奪われただとぅ!?」
ぐんにゃり、と盤上の三分の一が紫色の霧に包まれる。
がしゃん。
”軍曹”に盤はあっさりと蹴り倒された。
「「「あああ!!!」」」
「ってここはどこ!?」
白髪の青年は辺りを見回す。
「エーテル感知から一秒たらずでの強制空間転移・・・”軍曹”ですな」
両目に大きな傷のある黒髪の青年は事態を一瞬で把握し、落ち着きはらっていた。
「あぶねぇ・・・・ボロ負けするとこだったぜぇ・・・・」
針金を思わせる痩身の青年は冷や汗を拭っていた。
「おめぇらは・・・・なんの遊びを・・・・」
「将棋とチェスとSLGを合わせた画期的なゲームを・・・」
地面に散らばった将棋の駒とチェスの駒とサイコロ。
傍目にはまったく意味がわからない・・・。
「・・・・まぁええで、非常事態だ。作戦はロキ君の頭に送っておいたでな。後で確認するように。そいじゃ」
一歩横にズレル”軍曹”。そこには黒いパジャマの上下を来たまだ少年の面影を残した男が1人足元に光り輝く魔方陣を展開していた。
「行きつ・・・・必ず戻れ!」
ビッ、と右手の人差し指と中指だけで遊んでいた3人の男を指す。
「アイス君、ちょっ・・・・」
語尾も溶けるように、3人は姿を消した。
「生きて戻れるんでしょうな・・・・」
「さぁねwwwwwwwwww」
無責任な笑い声だけが、夜空に響く・・・・。

目の前が真っ暗だった。誇張でなく、まったくの真っ暗。むしろ、まったくの”無”だ。
「・・・・・・・・!!!!」
弟者とジョン!!!!と叫んだつもりだったのだが、声は体内から出た途端に響かず消えた。
「!??!?」
姿勢もままならない。まっくらな水槽に入れられたようだった。
襲いかかる不安。
永遠に近い一秒後、袖を誰かが引く。

振り返ると、良く知った弟の大きく傷の残った顔と、眠っているかのように漂うジョンの姿。
バックに青色の星を背負って。
「まったく・・・・いきなり宇宙空間に放り出すなんて・・・・」
弟は愚痴りながら袖をさらに強く引いた。
「はわー・・・・宇宙かよ・・・・」
口に出してから気付く。
「あ、声が出る。」
さっきまで出なかった声が今ははっきりと発音できる。
「エナジーコートで兄者も包みましたからな。声と息はなんとか・・・って動かない!姿勢制御が大変なんだから!」
愚痴る声をさらに大きくして指先から色々な方向に向けてナパームビートを撃つ弟者。
「あ、そうか・・・無重力だからか・・・」
無重力下での姿勢制御は非常に難しい。少しでも動けば、その慣性でどこまでも飛んでいってしまう。ではどうするか。まったく逆の方向に、まったく同じ力をかけてやれば良いのである。
言うは易し、行うは難し。弟者はそれから暫くナパームビートの連射だった。
ジョンは・・・・その作業を少しでも楽にする為だろうか?さっきから熟睡しているように見える。
「・・・・・暴れるからつい・・・・・」
もうし訳なさそうに見えてはいない目を伏せる弟者。
熟睡というよりは、気絶らしかった。
「まぁ・・・・なんとか所定の位置についたわけですが」
ふぅと肩から荷を下ろしたように呟く弟者。
「軍曹の作戦って?」
「ふむー・・・まぁメールします・・・」
喋るのが億劫なのか、電脳でメールを送ってくる弟者。開くとすっごいチャラ描きの絵とぐちゃぐちゃの字が。
「えー・・”門の使用を許可、剣で削って盾でマーカーの指す位置に反射しれ”」
物凄く適当な作戦所だった。
「いやまぁいつもの事だけれど・・・・」
いつもだった。
「意訳すると、”なんか飛んでくるからそれの威力なりなんなりを削ってこの位置に反射しなさい”ってことですか」
ぴ、と星の上に赤色のマーカーが付く。網膜に直接投影されているらしかった。
「へへぇ、門の使用を許可ねぇ」
「うむ・・・・非常事態なんだろうね・・・ってジョン回復早いな」
「取り柄だからね!」
びっと親指を立てるジョン。涙は無重力下では球となって漂った。

再び地上。
屋根の上で男が青色の十字架をバットのように構えている。
「4番~バッター、ねっどすばーすーwwwwwwww」
隣では眼鏡の男がゲラゲラと笑い転げる。
「そろそろやるけど・・・・全員の避難は?」
ヴンと目の前に画像が展開される。そこには直樹を初め、横にされた夏帆や見知らぬ男もいる。やしろは気付いたのかこちらに手を振っていた。
「じゃあいっちょやるか・・・・軍曹」
「ん?」
「多分気絶すると思うから、後よろしく」
「ん、任せろ」
そう言って前を向き、左足を前に踏み出す。
ゴンッ!!
ただの屋根では確実に踏み抜く強力な踏み込みを、見たことも無い方陣が支える。その左足に体重は移しながら、ネッドはあらん限りの力で十字架を振る。
「ロックンロール!!!!!!」
真っ白の矢が、月明かりしかない空を切り開いて行く。


全ての兵装をチャージ。先程までいた空間をロック・オンする。
殲滅率は400%を越える。これであれらは間違いなく”0”だ。
その後のことなんて知らない。今ですら、知らない。

白い球体の部屋は、最早ニレコの座っている椅子だけにまで縮小していた。
「どうかんがえても まずい(・ω・)”」
画面の右下にある剣やら本やらの数値が赤色の0に。
なんとなく、自分の魂を削っているような気がしてならない。
しかしその椅子に操縦桿は無い。
彼女には、指一本すら動かす事は出来ない。
画面が拡大され、1人の男が写った。
その男は今にも手に持った十字架を振りぬこうと・・・
「まず(・ω・)”」
そこから放たれるモノの弾道予測はドンピシャで自分自身だった。

全砲門開放・・・・・発射。
無感動に自分自身のトリガーを引き、今にも攻撃をしてこようとしていた男に向けて攻撃を放った。
これであの辺り一帯は焼け野原・・・・”0”になるだろうと。
撃った瞬間、相手のエーテル値が増大。何かの攻撃が放たれたと予測。
回避運動開始。
と同時に光りの矢が左腕を消滅させて通りすぎていった。
勝った。
自分の放った攻撃を見ようにも、着弾の衝撃が影響しているのかノイズだらけで見えない。
その瞬間、ニレコは、いや天使は衝撃によって意識が途絶えた。

その数分前。
「さて・・・・・弟者にジョン、準備は?おk?」
「いつでも」
「あぁ・・・アレイシアに会えるなら」
白髪の青年を挟んで右に弟者と呼ばれた青年。左にジョンと呼ばれた白衣の青年。
その2人を繋ぎとめるかのように、三者の間には青色の線が光る。
「なら・・・”ゲート・オープン!封印解除。解除コードは・・・・」
”軍曹”から送られて来たランダムの英数を打ち込む。
「”使用者識別コード・・・ID破裂の人形、十字架の魔術師、白衣の悪魔”!!」
バチンッ、と薄い青色に光っていた線が紫色に。
「”フィードバックスタート!フィールド・・・・ニブルヘイム5”!!!」
白髪の青年が広げた掌に無数の英数字が下から上に流れ、そして”門”は開かれた。
シュルシュルと首元から湧いてでるように溢れた黒い外套に包まれる魔術師。
真っ白な白衣が返り血で真っ赤に染まり始める痩身の男。
魔術師の見えていなかったはずの瞳に、紫色の光が宿る。
楽しそうに、でもどこか冷めているようだった白衣の男の手には見たこともない紫色の花が一輪。
ガチンッと、どこかで歯車の噛み合う音が聞こえた。

瞬間、飛来。
白い矢が3人に向かって直撃コースで飛んで来た。
当たれば塵も残らない程のエーテル量。しかしその光りは花を手にした男の前で動きを止める。
「アレイシア・・・・守っておくれ」
手の中の花が粉々に砕け、一瞬だけ色白の女性を映した後、真っ赤で透明なガラスのようにかわり光りを阻んだ。
「亜WせDRFTGYふじこLP;@:」
バチンッ。
白髪の青年が意味不明な言葉を吐いて、目から血を流して気絶する。
「過負荷で兄者のヒューズが飛んだか。ジョン、急げ」
「にぃよ、解っているとも。さぁ、わら兄の事は任せて早く」
「もう終わっている。後は呼ぶだけだ」
無重力下では上も下も無い。勝手に頭の方を上と決めた魔術師が上を見やる。
そこには暗闇に輝く5本の針。
それがこっちに向かって迫ってくる。
針と言った。それはそこからではあまりにか細く、そして頼りなかったからだ。
それが近づいてくる。
訂正しよう、それは巨大な十字架。
全長で数キロにも及ぶ、黒くて紫色の、十字架。
ぎりぎりぎり。
歯車の鳴る音と共にその5本は違わず白い光の塊に立ち、そして消えた。
「規定の数値にまでエーテルを減少させたぞ・・・・軍曹」
魔術師の呟きが終わる前に、光りの塊は反射された。

摩擦によってプラズマ化した空気に体を焼かれながら、ニレコは自意識を取り戻した。
強化されていた肉体のお陰で生きてはいるが、長くは持つまい。
緋色に焼ける眼前。漆黒の宇宙。
ただそれを
「きれいだ な(・ω・)”」
と思って、目を閉じる寸前に見た幻覚ともなにともいえない誰かの、小さな小さな手を掴んでその目を閉じた。

「撃墜完了・・・ですか。」
なんとも後味の悪い結果となってしまった。
空には一際光り輝く星のようなものが見えるだけ。さすがにあの天使すら生きてはいられないだろう。
「”あれ”はおれのもんだでな。絶対手放さねぇよw」
「何か手が?」
「まぁ見てろ、本当のXXX(トリプルエックス/エクシオン)を見せてやるで」
直樹には、なんの事か見当もつかなかった。

幻影騎士団砦、その中庭にスーツを雑に羽織った男が立っている。
少女を肩車して。
「なぁマリエル、ほんとにここか?ここでいいのか?」
肩の上の少女は嬉しそうに答える。
「”ここに来て”って手を引いたの。彼女はその手を取ったよ」
数秒後、火の玉が彼等の真上に落ちてきた。

「呆れた・・・・あの”シルバー”がいる限り、蘇生は効くと?」
「のりちゃんは仲間思いだでw心配いらねぇ」
「まったく・・・・・この件、上にはなんと?」
「べっつにー?あ、新団員が2人追加だな」
”軍曹”は眼鏡を取って2人の男を見る。直樹と、まだ目をぱちぱちしている名前の無い男を。
この入団でまだ一揉め二揉めあるのだが・・・・それはまた別の話。
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Family @JusticePaladin Vol 5 
2006.08.13.Sun / 16:33 
「ゼウス、すいません。目標を見失いました。」

「そうか」

「索敵後、殲滅します。」

「そうか。」

プチ・・・・

ゼウスに一様の報告をして、再度ヤツラを見つけて、荷物の奪還、破壊をしなければ無くなった。

「しかし、逃げられるとは思いませんでしたね。」

「だな、相手を舐めすぎてた。あ、君もぅ帰っていいよ、ここからは機動力のある俺らで探すから、先に本部に戻っててねwww」

「はぃwわかりました。それでは」

そう言われたハイプリーストは本部に戻っていった。


「さーて、どうすっか?広さが獲りえのモロクの砂漠・・・・探すってもなぁ~」

「格好つけてプリさん帰すから。」

「うっさい」

「でも、“荷物“には手傷を負わせましたから、一旦どこかで、止まっていると思いますよ。」

「そうか、そんなら俺は地上から、お前は上空から探すとするか。こんなやっつけ仕事をしくじったら笑いもんになっちまうよ。」

「そうですね。パラディンとWIZ如きに逃げられたとあっては・・・しかも幻影騎士団所属の・・・・・」
「まったくだ・・・・・」








これから先をどうしようかと考えているうちに、箱の中の女の子が目を覚ました。

「????どこ?だれ?・・・・キャアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――!!」

・ ・・・・助けて、神様・・・・・・

「あのね、お嬢ちゃん。おにぃさんもあなたがダレなのか知りたいな。」

「・・・・・」

「怖くないから、平気だよ。見た目は変だけどねw」

「弟者、うるさいぞw」

「見た目から言えばそうなるじゃんwwwwだってwwwwwwだっせぇし」

「そんな、見た目だけのミニグラスなんか俺はつけない!男は黙ってアイアンケインだ!」

こんなやりとりを見ていた少女が口を開いた。

「えぇーと。私は・・・・」

少女が名前を口にしようとした瞬間!!

『居た!!!』

その声と同時に、影が出来た・・・
「見つかった!!??速すぎるぞ!!!!」

『おぉ~箱の中身は女の子かwいい趣味してんなwww』

『無駄口叩いてないで、行きますよ。』

『あいよ。今度は油断してぇぞ!!!!この糞が!!!!!!!!!』

背中に女の子を背負い、さくらに跨った。

「心配しなくて、いいよww俺が守るからね。」

少女はただ頷くだけだった。

やりますか。抜き身にした、サーベルを握り返す。今度は間違いなく逃げる事は出来ないだろう。ならばどうする・・・・


戦うしかない!!!!!!!守るべきものの為に!!!!

「行くぞ!弟者!!!」

「はいよw」

さっき少しだけ戦った感じで判った。まともやって勝てる相手でもない、各自撃破できる相手でもない。ならば二人で一人づつ殺しに行くしかない。

『ほぉ~その判断は正解だぜ、パラディン君。心配するな、俺が一人でお前ら二人の相手をしてやる。上のヤツには手を出せはさせないw。お荷物背負ってるしな。都合もいい。久々に俺を楽しませろよ。』

なんなんだ、こいつは・・・バカなのかそれとも相当自分の力に自信があるのか・・どっちかは判らないが、誘いに乗ってきてくれたのだから、ありがたい。好機は一度あるかないかだ、その好機を逃してはならないな。

「いくぞ!!弟者!!」
コクっと頷いた瞬間、動き始めた。

相手の武器は槍。長所としては間合いが遠い事、俺のサーベルの倍以上の間合いが存在する。しかし、懐にはいってしまえば、こっちのもんだ。
弟者のSGの詠唱に合わせて懐に潜り込む!!
しかし・・

『背中の荷物が邪魔だよなあああああああああああ』
そういいながら、突っ込んでくる。槍を構えたまま、キメラごと来た。SGが間に合わない!!確実に俺に向かってくるのか思えば・・・その標的は弟者だった!

『詠唱中のWIZってのはカモだ!的だ!そのくらい常識だろうが!』

槍が弟者を貫く。しかし、ダメージを受けたのは俺だ。そうww俺は献身を掛けていたのだ。弟者にもこの少女にも。

『ほーいいねぇwwお前、最高かもなwwww。決めた、おい!ハデス。』

『なんですか?』

『そのWIZはお前にやるよ。俺はこの荷物付きのパラと遊びてぇ。』

『悪い癖ですよ・・・まったく。判りましたよ。そのWIZは私が担当しますね。』

『頼むわwww』

こいつ、おかしいぞ!弟者のSGのど真ん中で、平気な顔して会話してやがる!!
アンフロなのか・・・ダメージを負ってる感じでもない・・・どうなってやがる。

『おい、あんま舐めた攻撃してっと、サックと殺しちまうぞwwwもっと俺を楽しませろよ!!!!!!!!!』

さくらに鞭を入れた。止まっていてはまずい、自分ひとりならいいが、今回は背中に少女を背負いながら戦わなければならない。
「弟者!紐きれるで。なんとかがんばってくれ。」
「OK~」
Family @JusticePaladin Vol 4 
2006.07.30.Sun / 14:09 
開けるべきか。開けざるべきか…迷う…なぜならば、俺は知っている・・・
軍曹を怒らせた二人組のことを…スキルも無いのに空を飛んだことを・・・・

でもこの色、匂いは、どうかんがえても人の血の匂いだ…この箱の中には人が入っている。十中八九、違いなく、100%の確率で・・・・
俺はトランスポーターだ荷物を届けるのが仕事!
荷物が生きているなら生きている状態で・・・しかし、この箱の中身がバラバラの死体とかだったらどうしよう・・・

「さっき考えただろ!俺!俺はトランスポーターだ!軍曹!任務の為この箱を開けます!」

両手を空に高々と上げ、いつもは信じもしない神様に祈る。
「アーメン!!」

バキバキ
木箱に打ち付けてある釘など関係なく木箱を破壊した。(上蓋だけw)
そこには・・・・・女の子が居た・・・・・なんで?

体育座りの状態で眠っているのか、石化状態なのか、判らないが左足から出血している事が確認できた、そして箱を開けた衝撃と出血している痛みで、意識が戻り初めている。とりあえずヒールを掛けよう。出血を止めないといけないとなぜか強く思った。

どうしてか・・・・

「考え事してる時に悪いんだけど兄者、どうするの?荷物が生きてる女の子とか、謎だら
けなんですけども」

弟者の言う通りだった。どうするか・・・・・・・・・・
今にも起きそうだし・・・・・どうしよう・・・・どうしよう・・・・・逃げちゃ駄目だ逃げちや駄目だ・・・・・
違う――――――――――!!!
さくらも心配そうに女の子を見てない・・・・壊した上蓋で遊んでいる・・・・・薄情者・・・・・
どうするの?って顔で見てくる弟者、関係ないって感じのさくら。
決定権は俺にあるらしい・・・・・

「どーすっかね・・・・・・・・いや、本当に。」
Family @JusticePaladin Vol 3 
2006.07.23.Sun / 18:04 
 わからない事だらけだが、奴等は戦闘態勢に入っている。

『こちら、アポロン。ゼウス聞こえますか?目標を発見しました。』

『うむ、了解した。直ちに回収せよ。以上だ。』

『了解。』

「おい、ハデス。仕事に取り掛かるぞ。」

「了解しました。」

やる気だ、こいつら。

その瞬間、奴等に何所からかはわからないが、支援が飛んできた。

速度上昇!

相手はグリフォンにキメラ・・・こっちはグランペコか。足の速度から考えると逃げ切るのは不可能か。

「さくら!こいつを飲め」

俺はさくらに速度変更ポーションをグィっと飲ませた。これでなんとかなるかも知れない。後は俺の腕次第かw

一気に砂漠を駆け抜け奴等が迫って来た。

「っは!行くぞ!!!!さくら」

俺はさくらの手綱を引き、奴等に向かっていく。だが、2対1どう見ても劣勢である。

「ホッホーやる気になったらしいな。見上げた根性の持ち主だ。こいつは楽しめそうだ」

「仕事ですからね、さっさと片付けましょう。」
「つれないねぇ~www」

片方のロードナイトが剣を抜き、もう一方のロードナイトは槍を構えた。

空気が変わった。場が動く感覚になった。その瞬間・・・


「出てこーい!!!弟者!!!!」

空間が捻じ曲げられているのが肌に伝わる。
次の瞬間。空に穴らしきものが開いた・・・・・

WIZが出てきた・・・・・

「なんだあれ・・・・・・」

「僕達の知らないスキルですね。突然変異なんですかね。」

人の事をモノみたいな言い方で話す二人。しかし流石にビックリしてる気持ちが片方のロードナイトからは伝わる。
現れたWIZ。それは俺の弟「ロキ」だ。

「兄者呼んだのか、用は?って、なるほどね。」

「頼むぜw」

「ハィハィwww」

奴等の予備動作を感知したのか、ロキはいきなりFW(ファイヤーウォール)を張った。
空高くまで伸びる炎。キメラに乗っているロードナイトの足止め(かなり短い時間だけど)にはなったが、グリフォンに乗った方にはそこまで利いてる様子はない。

「おっし!!!逃げるぞ!!!!!!」

「♪~」

さくらを反対方向に向けて、一気に鞭を入れたw

「ハイヨー!!!!」

脱兎の如くの速度で逃げた。

「!」

弟ロキの事を忘れていた・・・しかし

「なんで浮いてるの?」

「いいでしょーw楽だよ、これ」

空に浮いて、着いてきている・・・一体どこでそんなおいしいスキルを取得したのか・・いいなぁ~それ。

「だいぶ離れたな、これで一安心。少しは時間が稼げるだろう、この間に戦うか逃げるかを決めないと。」

「そうだな、兄者。そんでね、言っていいのかな?これ」

「ん?なんだい、弟者」

「いやね、木箱の端っこの方が赤いんだけど、これ血なのかな?」

「はぇ???赤い?血?何言ってるの?」

「見ればわかるから、見てみなって。」

ゆっくりと振り返り、背中にある木箱を下ろし、様子を見る事にした。
そして・・・・・・

「なんじゃこら―――――――――――――――――――!!!」

木箱の端が確かに赤く染まっていた。
Mirage-knight-cavalier03 黄昏の色。 
2006.07.11.Tue / 21:18 
「やぁ予譲さん」
「おはようパン屋さん。モカをショートで。それとクロワッサン一つテイクアウトね」
「あ、おはよう予譲さん。たまにはウチの野菜もかっとくれよー」
「おはようおばさん。野菜は食べたいけどお昼にはちょっとなぁw」
「晩にでも買って帰って彼女に何か作ってもらいな!」
「あははw」
朝の通勤時間。騎士団官舎前の通りはいつも通り賑わっている。
忙しそうに通り過ぎるサラリーマンの群れ。朝食を立ったまま食べているもの。
座ってコーヒーを飲みながら朝刊を読むもの。
電脳で誰かと通信しながら早足で遠ざかるもの。
これが騎士団官舎前の日常。
その中の1人、予譲も例外に漏れずいつものコーヒーショップでいつものコーヒーと、昼食を買って店を出た。
聖導騎士団後方支援大隊第四中隊所属114小隊勤務、予譲の一日はこうして始まる。
紺か黒のスーツ。ネクタイも紺か黒で統一し、黒革をなめしたブリーフケース。左手に新たに昼食を入れた紙袋を携えて騎士団官舎に入った。
彼の仕事は所謂『背広組』である。
もっとも、『背広組』とはいってもキャリアやエリートと言われる人間の事では無い。
要は”前線に出ない”騎士や聖導騎士を揶揄した言葉。
なぜ騎士や聖導騎士であるのにも関らず前線に出ないのかは色々理由がある。
前の戦場でトラウマを負った者。
”能力”が戦闘向きでは無い者。
戦闘に関する技術の低い者。
他にも個人の都合であったり、権力者の身内だったり、その理由は様々だ。
予譲はしかし、そう言った理由で『背広組』になっている訳ではない。
本人の希望による、配属である。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
騎士団官舎の屋根の上、非常に目の良い者か、その手の”能力者”でしか見る事のできない不可視の何物かは、騎士団官舎に入る予穣を確認した後、その場から本当に消えた。


「ふーむ・・・・」
昼休み、騎士団官舎の丁度目の前にあるオープンカフェの机にポスターを広げて朝買っておいたクロワッサンをかじる。
一口かじってはコーヒーを一口。
そして
「ふーむ・・・」
の繰り返し。クロワッサンはもう随分かじられてしまっている。
「やっぱりフレーズはこっちの・・・・うーん・・・いや・・・こっちのが・・・・」
定規を当てているポスターには、今風にアレンジされた白い十字架が書いてある。
手元のメモには
”治安の維持、改善の為、市民の皆さんの協力を!!”
の文字。
彼、予譲の勤める『114小隊』は所謂”広報部”であった。
「あ、予譲さん。今日もポスター作りかい?」
「やぁパン屋さん。おいしくいただいてますよ」
もう殆ど無くなってしまっていたパンを挙げて笑顔を向ける。なじみのパン屋さんだ。
「いやぁ・・・よく解らないけど、大変だねぇ。文字なんてどこに書いてあっても同じだろう?」
「いやいや、そんな事無いですよ。インパクトなんかは重要ですからねぇ」
「ふーん・・・そんなモンなのかねぇ」
パン屋さん、と呼ばれた男がポスターを両手で掴みまじまじとその今風の十字架を眺める。
「あの・・・・」
「あぁ、悪いね。最近目が薄くなっちまってさぁ」
「いや、それはいいんだ。それよりもさ・・・・」
「うん?」
「その手・・・・・」
「手?」
ポスターを持ったまま、自分の手を見るパン屋。それは紛う事無く42年付き添ってきた自分の手だ。
「いやーなんといいますか・・・職人の手っていいますか・・・がっしりしてますねぇ」
パン屋は、一瞬だけキョトンとして
「わはははwそりゃ毎日修行ですよ。今までも修行、これからも修行w」
と言い、機嫌よく笑いながら立ち去った。その後姿を、予譲はなんともいえない優しげな目で見送り、見えなくなるとまたポスターに向かって悩み始めた。

その晩、パン屋は事故で両手に大怪我を負う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
翌朝、毎日立ち寄ってコーヒーとパンを買っていたなじみの店が開いてなかった。
「あら予譲さんおはよう。パン屋さんねぇ、事故でパン焼けなくなったんだって。」
「えぇ!?事故・・・・ですか・・・・。どれくらでまたあの美味しいパンが食べれるんでしょう・・・・」
「さぁねぇ・・・リハビリとかしなきゃダメらしいよ」
「そうですか・・・・」
八百屋のおばさんに店が開いていない経緯を聞き、やっぱり薦められた野菜を丁重に断り、予譲はその場を離れた。

結局、長年染み付いてきた習慣が突然抜ける事も無く、コーヒーを求めて店を覗いて周る。いつもとは違う店で気分を買えてカフェオレを頼み、ドーナツを2つ買って店を後に。
するとその店から見える路地に、風船が束ねられているのが見えた。
「?」
いつもはまったく気にしていなかった路地。裏路地では無く、何店かの店も見える。
その店舗の前に、朝日を反射して輝く風船の束が気になった。
「時間は・・・・・」
時計を見やる。大丈夫、出勤まではまだ暫くあるし、何より騎士団官舎は目の前だ。
ちょっと見ていく事にした。

大通りから路地に入って店舗数で言えば3店、民家も含めると5件目にその店はあった。
わざとたどたどしい字で書かれた店名の看板、木製の新しい扉。
その扉の脇には、大通りからでも見えた風船の束と、チラシが積み上げられている。
「んーと・・・?」
チラシを一枚手に取ってみる。そこには
『本日オープン!アルベルタ大阪で腕を磨いた店長があなたの髪をヤングな感じに!今なら騎士様、聖導騎士様に限り30%OFF!!』
と書かれてあり、その文字の下には各種料金が書かれている。
無意識に自分の髪の長さ・・・・ショートに入るのだろう・・・の料金を見てみる。
「ふむ・・・・・」
ちょっとお高い。いつも髪を切ってもらっている美容院よりは200円ほど。
しかし、いつもの美容院は少し遠い場所にある。騎士団官舎の前にあるのは非常に有利といえた。
広報とはいえ、ポスターを貼る場所に挨拶に行かなければならない事もある。そう言った場合、美容院に立ち寄って髪を直してもらったりもする。
その度に毎回あの美容院までいくのは・・・・・面倒だった。
それにアルベルタ大阪といえば商業激戦都市と言われる所だ。そこで腕を磨いて来たと言うのであれば、腕の方は信用してもいいかもしれない。
よし、ちょっと昼休みにでも覗いてみようか、なんて考えていた時、店の置くから一人の女性が椅子を抱えて出てきた。
「あ、予譲さん!おはよう!」
その女性は、栗色の髪をストレートに腰まで伸ばした、少し背の高い綺麗な・・・というよりはカッコイイといわれるタイプの女性で、その笑顔は朝日を反射する風船に負けないくらい、輝いていた。
「うん、おはよう。この店は君が?」
看板を見て、女性を見る。
「そう!ついに独立開業!!!っく~長かったぁ!!」
目をぎゅっと瞑り、ばっとひまわりの様に笑う。きっと長い修行時代を思い出していたのだろう。
「ほーう・・・腕の方は確かなんだろうねぇ?」
「朝一から試してみるぅ?お客さん第一号の名誉と、すんばらしい髪型を提供しますっ!」
元気いっぱいの笑顔を見ていると、憂鬱な出勤が少しだけ楽になった。
「いや、もう遅刻しそうだからね。昼休みに寄らせてもらうよw」
チラシをバッグに入れて踵を返す。
背後から「絶対だよー!」と声が聞こえた。


「ここはもうちょっと・・・そう・・・・それくらい・・・・」
「・・・でここは・・・・このくらい?」
「そうそう、あ、そこはあんまり切らないで!」
昼休みに覗く、と約束した通り昼休みに店に行き、そのまま今は大きな鏡の前。
元々は髪を切る気なんてなかったのだが、まぁこれからまた新しいポスターの委託先に行く事もあり切って貰うことにした。
・・・・・なんとなく強引に押し切られた気がしないでもないが。
しかしまぁ、この腕ならば文句は無い。
「・・・・はいっ!完成!!」
ばさーっと胸にかけられていたクロスを大仰に取り去る。
「ちょーっと若者っぽくしてみたけど・・・・仕事に差し支えはないよね・・・?」
おっかなびっくり言っているそぶりが可愛らしい。
「んー・・・まぁ実際まだ若いしwこのくらいなら平気だよw」
鏡の中、緩急のついたショートヘアになった自分をまんざらでも無い様子で眺めて言う。
「はぁぁぁぁ、良かったぁ・・・・短くは出来ても長くは出来ないからねぇw」
本当に心配していたのだろう。安堵とともに自然と笑顔が漏れる。
「・・・・・・・」
「ん?どうかした!?どこか気に入らない!?」
知らず彼女の笑顔を凝視していたのだろう。
真顔で。
「いやいやいやw笑うと可愛いじゃん」
「おだててもお会計は4000zになりまーす」
自分は苦笑し、彼女はもう一度笑った。


その晩、美容師の彼女は事故に遭い意識不明の重体となる。


午前02時。
街の灯も随分と少なくなり、人の気配も薄くなった頃。
街の中心にある大教会の屋根の上、二つの歪みがほぼ同時に実体化した。
1人は男性。三つ揃えのタキシードにシルクハットといった少し風変わりな格好。
もう1人も男性。メガネに黒いスーツといったまっとうな格好。
シルクハットの男性は異常なまでに似合っていて、メガネの男性は異常なまでに似合っていなかった。
「毎晩毎晩熱心な事で・・・今晩もやってますよ」
シルクハットの男性が屋根の上に腰掛ながら話しかける。
「死者がでねぇって話だけども・・・本当か?」
メガネの男性も屋根の上にそのまま腰を下ろしながら問う。
「信じれないのも無理は無いですけどね・・・・あれで死なないなんて」
ぽさり、とシルクハットを取り、髪を風になびかせる。
その表情は、まるで夕涼みに来た様。
「しかし記憶を消し、傷を消し、暫くのリハビリを負わせる・・・か」
メガネの男性がぼりぼりと頭を掻く。
「さて、あの”能力者”の”能力”は恐らく記憶操作と感覚操作だと思われますがどう・・」
「恐らく?」
白手袋をはめた両手を顔の前で合わせて問いかけ初めていた男性の言葉を、メガネの男性の声が遮る。
「2週間監視して恐らく?」
似合っていないメガネの奥、双眸がもう1人の男性を貫く。
「・・・・はい。なにせ調査員が全て記憶喪失になってしまってましたから」
魂まで貫きそうな瞳におじける事無くさらっと言う。
「”能管”の調査員が全員なぁ・・・直樹、お前殺れねぇか?」
「無理ですね」
白手袋は即答する。
「今までの調査で解った事ですが、彼は球形に範囲200m程の結界を持っていて、結界内での記憶操作を無意識に行っています」
「無意識って事は・・・・寝てる時も?」
「ご明察です」
夜風に髪がなびく。
「どんなに威力のある武器を持って行っても、何をしに行ったのかわからなくなっては意味がありません。」
「200mオーバーの長距離射撃は?」
「彼はクルセイダーです。射撃は効かない」
「ディフェンダーか・・」
「ま、それで”ぐんそー”に来てもらったわけですハイ」
「仕事中は主任と呼べ・・・・にしても面倒くせぇなぁ・・・」
メガネの男性がまた頭を掻く。
『無い無い無い無い・・・・どこにも無い・・・これじゃない・・・・』
直樹と呼ばれた男性が歌うように口ずさむ。唇を読んだのだろう。
「宝探しなら地面でも掘ってろって・・・・」
メガネの男性が吐き棄てるように言う。

その視線の先。
少女が背中を壁に押し付けられ、腹を縦に切り裂かれている。
目には大粒の涙。口には手が添えられており、きっとうめき声しか出せない。
そして腹の中に手を突っ込まれ、掻き回されている。
何かを手探りで探すように掻き回しているのは背広の男性。
背広の名は、予譲と言う。




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