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Mirage-knight-cavalier04 黄昏の終り。 
2007.01.02.Tue / 22:08 
予譲の目には意識聡明なまま腹を裂かれ、内臓を掻き回されている少女の涙は見えない。
その目に見えるのはただ、赤錆びた大地と闇色より深い深緑にも似た地獄…ニブル戦役。
『予譲、お前はよくヤったよ。あぁ、まったくクソッタレなくらいな』
『はん、ママもてめぇの張り切りっぷりにはホーリージーザス、教会で離婚モンだw』
頭を撫でる武骨な手。軍人の大きな手。
予譲の目は見えない。至近弾を喰らい、出血がなんとか止まったばかりだ。
『LKではライフサーキットが焼き切れるまで戦って、儀体を変えて聖導騎士でもこの活躍。十字勲章が腹一杯食えるぜ』
硝煙の匂いと断続的に響く野戦砲の音に包まれた戦場で、男達は笑った。
『だから予譲、お前はもう帰れ』
『このクソッタレな地獄から』
『かあちゃんに会ったらよろしくな』
『まじで離婚してたら笑うなw』
『それにしても・・・あぁチクショウ、死にたくねぇな』
『ミッツは先月結婚したばかりだった』
『助けに戻らねぇとな』
『体だけでも帰してやらねぇと』
『あぁ、死にたくねぇ』
『だから予譲、お前はもう・・・・帰れ』
冗談では無い。此処までやった。此処までやらされた。なら死ぬまでやるだけだ。死ぬまでやらされるだけだ。
ガチャリとPTリーダーの持っていた突撃銃が哭く。待って欲しい。自分も行くのだと、見えない目を開いて見た彼等の姿は、輝いて見えた。
何か・・・・白い輝き。プラチナの、背中。

その姿を、今も見ている。


「………」
涙を目に一杯溜めた少女の顔がやっと意識に飛びこんできた。手には生暖かい内臓の感
触。自分はまたやってしまったらしい。
「ごめんよ。でも、痛くは無いはずだから」なるだけ優しく涙目に語る。右手で内臓を掻
き回しながら、左手で少女の口を押さえながら。
「ごめんよ。君の笑顔がとても輝いて見えたから。その体のどこかに、僕の探しているモノがあると思ったんだ」
額に汗が浮かぶ。痛覚を切っているだけで、自身には多少のダメージがある。少女の腹を裂いたダメージ。彼はいつも゛探しもの゛をする時、対象に゛献身゛をかける。故に死者は出い。ただ、神経に対する傷は別なのだが、専門的な知識を持たない彼にはわからない。
「怖いかい?怖いだろうね…。でも大丈夫。ちゃんと忘れられるから」
優しく、優しく語りかける。ニブル戦役から帰ってから、どういった訳か彼は他人の記憶に残らなくなっていた。その場その場で彼が望む対人関係が勝手に築かれ、そして忘れら
れてゆく。イレギュラーのような存在。
でも慣れたし、゛探しもの゛には好都合。ただ、あの日見た輝きだけを探して-
「さぁ、もう一探し」予譲は右手を激しく動かした。


「優しい分、サイコっぽいですねぇ」
唇を読んで予譲の言葉を吐いていた直樹が、まるで世間話しをするように、夕涼みをするように、長い髪を風に泳がせながら言った。
「うへぇ・・・キモチワリィwおもしれぇw」
片や屋根の上でアグラをかいたままのスーツの男性…iwaokunは玩具を見つけた子供のように目を輝かせる。
「さて、どうしましょうか」
くるりと此方を見やる直樹の目には、どうしましょうか?なんて曖昧な意思は感じない。
排除依頼を委託する目。
「そうだなぁ…」
殺してしまうのは簡単。喩え他の者には困難であれ、自身には関係無い。造作も無い事だ。故に惜しい。面白い素体。是非自分の組織に…。
「お?」
「あら」
゛探しもの゛をする予譲の背後…直線で約200m後方に、意外な二人組を発見した。
「直樹、人払いはしたんじゃないのか?」
゛能管゛の仕事は特務の中の特務。何かする時は、必ず特殊な空間が敷かれ、全てはその
中で行われる。
「空間師がミスりましたかね…」
直樹が今日…いや、今月に入って初めての真顔で言う。
「いやぁ、侵入者が特殊なだけかもしれんで」
iwaokunは上げかけた腰を再度屋根の上に下ろして、゛侵入者゛…ピンクと女子中学生…ニレコと夏帆を見た。

「パッキャマラーオーパッキャマラーオーヽ(・ω・)ノ」
「おー…」
「おーが小さい(・ω・)”」
「おー!…って何やってんだオレ…」
両手を振って大股で歩くニレコの後ろをトボトボ付いて歩く。何故このように情けない描写になっているかは、数時間前に戻って説明しなければならないのだが割愛させて頂く。
一応は夏帆の為…と言っておこう。
「ブラの具合はどうかね(・ω・)?」
「ぐぁ…てめぇ…」
割愛されませんでした。
「ちゃんとサイズに合ったモノしないと ダメ(・ω・)”」
「別に着けなくても…」
「淑女の たしなみヽ(・ω・)ノ」
「うげ…なんかワイヤーが当たって違和感が…」
「手洗いだからね。ヨレてたらぐーでパンチ(’3’」
「めんどくせぇなぁ…」
ニコニコ顔をさらにニコニコさせてズンズン進むニレコと、清純そうな可愛らしい顔を邪悪に歪めた夏帆は、特になんと云うことも無く限定空間に踏み込んだ。


「主任のとこのは…なんと言いますか…」
含み笑いを堪えながら隣でアグラをかいたスーツを見やる。
「オレの子みたいなモンだからな。かわいいだろ。あ?」
目と圧倒的な殺気が゛文句あるか?゛と尋ねてくる。直樹は、こんな側面を持つ上司が存外、堪らなく気に入っている。
「別に…wそれより、もうすぐ接近です。まさか゛認識゛はしないでしょうが…通りすぎるまで待ちますか?」
予譲とニレコ達の距離は直線で200mを切った。もし゛認識゛してしまえば、ニレコの特質上戦闘は避けられないだろう。
しかし、それは無いと直樹は言い切れる。かの”能力者”の”能力”は特別だ。常時攻性エーテルに対する備えをしているモノならば別かもしれないが、それとて多少の力なら効果が無い。
だからまぁ、特別彼等が通りすぎるのを待つ必要も、空間師に頼んで限定空間にする必要も無いのだ。
どうせあの能力にかかれば皆忘れてしまうのだから。
「オレがやってもえぇけどなぁ・・・ダルいなぁ・・・・」
我等が”能管”の主任はぶつくさとただ自分がダルい事を告げている。
まぁ彼がやらねば、誰にもどうしようもなさそうなのだ。ならば、ぶつくさ言っていてもやってくれるだろう。
と、思っていた事が直樹にもありましたまる。
「あぁ、そうだで!あいつらにやってもらおう!」
パチンと指を鳴らすiwaokun。
「まっ・・・・」
静止の声が発せられるよりも先に、それは起こった。


それは唐突に鼻についた。
血の香り。聖なる香り。
つい、ほんのついさっきまでまったく感じなかった匂い。それをまさに突然感じた。
「・・・・・・・(・ω・)」
「おい・・・にれこ・・・これは・・・」
一秒前までダラダラとブラのワイヤーに対する愚痴を言っていた夏帆(まめまめ)も気づいたようだ。なら、間違いない。
2人は無言で駆け出し、2ブロック先の角を曲がる。
そこは所謂大通りで、随分先までが見通せる。
濃密になってゆく血の匂い。
そして鼻先を擽る聖なる気配。
こちらは夏帆には感じられないだろう。もしかすると・・・・自分の仕事かもしれない。
目を”聖眼”に切り替えて、ニレコは大通りを見透かした。

「主任・・・なにやってんですか・・・」
5秒ほど呆れて声が出なかった。
「あ?ちょっとあいつらの神経接続をいじっただけだで」
事も無げに言う。
それはつまり、彼等に対してゴーストハック(心神強制介入)をやらかしたって事なのだが・・・。
「逮捕ですよ逮捕・・・しかもゴーストハックならそのまま”能管”の手によって暗殺です」
白手袋で両目を覆いながら告げる。
「ならお前がやるか?w」
メガネの奥で瞳が揺れる。実に楽しそうだ。
「遠慮します。・・・・まったく、私に主任が倒せる訳ないでしょうが・・」
屋根の上に腰を下ろす直樹。
「なら見とけ。多分起こるぞ」
「何がです?」
シルクハットを取り、屋根の上に置く。
「楽しい事にきまってんだろw」
今にもポップコーンとコーラを取り出しそうなiwaokunだった。


そして、夏帆は見通した。
暗闇の大通りを。
そこには、民家の壁にもたれかかるように男女が2人。
男性が女性の口を塞ぎ、右手を女性の腹部に突っ込んでいる。
特徴としては、何かの”能力”なのか、男性と女性が薄い青色の光でつながれていた。
「シィアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
前を走っていたニレコが、それを見ただけで加速する。聖書のページをばら撒きながら。
「待てニレコ!!プリーストじゃ戦闘職にはかなわねぇぞ!」
相手の力がわからないのに接近するのは得策では無い。しかも相手は少女の腹に手を突っ込むような・・・どちらかと言えば『オレ』寄りだ。
戦闘力に特化している可能性が高い。
ニレコと相手の距離は・・・・約100m。
なんとか・・・・間に合うか?
夏帆は駆けていた足を止め、その場でまだ実験すらろくにしていない『力』を練成し始めた。

走る度に近づいてくる血の匂いと聖なる気配でおおよその察しはついていた。
間違いない。この気配は聖導騎士だ。ちゃんと叙勲も受け、軍隊で訓練を受けた聖導騎士。
何者かに攻撃されているのなら助けよう。しかし、もし加害者側なら・・・・。
「聖罰」
後を走る夏帆に気づかれないように呟く。
もし聖罰をするなら、これが始めてになる。
そうならなければ良いと思う。
そうであれば良いと思う。
どちらだろう、わからない。
気持ちの整理がつく前に、曲がり角を駆け抜けた。
そして、”聖眼”で闇夜を見通す。
その”眼”は見た。聖導騎士が、少女の腹に手を突っ込んでいるのを。
距離は約100m。
聖書を練成し、力を籠めてばら撒き、駆ける力を増していく。
無意識に声が出た。
「シィアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


人の声とも獣の声とも区別のつかないような声で我に帰る。
ふと見ると、ピンク色の髪をした女性が駆け寄ってくる。
馬鹿な。
予譲はおじけた。
まさか見えているわけが無い。あの戦争が終わってから、誰も自分が見えなかった。ならこれも何かの間違いに違いないそうだきっとおれの背後に何かいるか何かあるにきまっていて彼女はそれを目指して走ってきてい
気がつくともう懐に入り込まれていた。
そして彼女は呟く。
「聖罰」
両掌で胸を弾かれた。


「へぇ、初めて見ますけどあれが聖罰の?」
「”審判”とか”執行”って奴だな。聖属性神経を強制的に停止させる殺し技。つーかうるせぇ。黙って見てろよwww」
「はいはい・・・」


「ぐぅ!」
突き出された両掌によって3mほど吹っ飛ばされて地面に着地する。
それにしてもおかしい。自分が他人にちゃんと識別されている事が。うれしい反面
「・・・・ィアアアアアアア!!!」
月を背に司祭は飛び蹴りの姿勢に入る。
蒼く光る双眸が、やけに恐ろしかった。
今は・・・・・迎撃!
「え」
盾が練成できない!
「アアアアア!!」
盾で受け止めるつもりだった槍のような飛び蹴りが空から襲い掛かる。
上半身を左に捩ってなんとか避ける。

「”邪鬼潰し”」
着地すると同時に司祭が右腕を振り上げ、捩れた横腹にハンマーのように振り下ろす。
ドゴン。
半身背中から地面に叩きつけられる。
拙い。戦闘中に地面に横になるなど、死と
「”三式・墓荒し”」
そのまま横腹を捻った踵で蹴り飛ばされ、地面の上をさらに3mほど滑らされる。
これもおかしい。たかが聖職者の蹴りに自分の防御点が突破されるはずが無い。
そして先程からの違和感。
体の自由が利きにくい。
地面を滑らされたお陰で、”敵”との距離があく。
詰め寄られる前になんとか体を起こした。
「まさか・・・噂の”聖罰”?」
聞いた事だけある。都市伝説の一つ。堕落した聖導騎士や聖職者を狩る、幻の組織。
ピンク色の司祭は答えない。ただ、その双眸を蒼色に光らせ
「AMEN」
とだけ。

今後もし仮にニレコが責められるような事があるのだとしたら、ただこの一点に尽きる。
この「間」
この会話の「間」
これさえなければ、全てが簡単に収まっていた。
2-1=1のように。


『基本概念練成・データフィードバック+保持完了・ワールド接続良好・ログイン・・・・成功。接続・・・・』
聖書のページをばら撒きながら突撃し始めたニレコを、その場で見ながら夏帆は自分のやるべき事をやっていた。
ニレコがどうしてしまったのかわからない。
司祭では騎士にも聖導騎士にも勝てはしない。そんなの基本中の基本だ。
しかし彼女はやる気満々で飛び出した。勝機?そんなのはあるわけが無い。
いつもどこか飄々としたニレコが血相を変えて飛び出す・・・・。
あの男のやっていた事が何かのトラウマに接触したのかもしれない。
ともかく、どんな理由があれこのままではニレコは殺されてしまうだろう。
しかし、そうはさせない。
別に特別な感情がある訳では無い。
ただ、ニレコは同じエンブレムをつける仲間だったから。
『状態・・・オールグレー。バグの存在を確認。使用は可能が非推奨』
まぁ・・・・ちょっと面倒だし、不安要素のある事しようとしてるし。
ニレコもきっと・・・・死ぬよりは・・・まぁ・・・・
『使用開始まで後5秒』
いいだろっ!
『ゴースト強制介入接続、開始』
拙い言い訳を頭の中で反芻しながら、夏帆の手より世界から盗み出した情報がニレコの背中目掛けて打ち出された。


早くこの目の前の男をぶち殺して戻らなければならない。
少女の手当てが待っているのだ。
それにしても奇妙。
先程からこの男ずっと何かにびっくりしているようだ。
これから殺されるというのに。
もしかして、聖職者に殴り倒された事にびっくりしているのだろうか?
ありえる。一線で戦って来ていた者にはショックだろう。
ありえるが・・・・やはり無い。死の恐怖には耐えられないのが人間であるはず。
それも否。あのような所業をする者を人間とする方が間違っている。
ならもういい。そんな事はもういいから、初めての聖罰を終えよう。
「AMEN」
短く早く、相手に祈りの言葉を。
そして、ニレコの意識は掻き消された。


目の前の司祭が祈りの言葉を終えて既に3秒が経過する。
がしかし、何も起こらない。
司祭は放心したようにその場に立ったまま、身動き一つ(瞬きの一つも)しない。
チャンスである。
司祭をこの隙に斬るか?
いやいやいや。それは出来ない。感情的なものは斬れと言うのだが、武器が練成できない。やろうと思えば多分できるとは思うのだが。それにきっと、それは拙い。ニトロの樽を蹴るがごとく。
では。
予譲は残されたただ一つの道・・・・逃走を開始する。
「待てゴルァ!!」
司祭に背を向けて走り出そうとした瞬間、さっそく呼び止められた。
もうすでに1人には認識されてしまったのだ。ならもう何が起こっても驚かない。
振り返るとそこには、いかにも清純ですといわんばかりの女子中学生(高校生?)がその顔を邪悪に歪ませて立っていた。
「・・・・彼女は知り合い?」
こんな時なのだけれど、人と話しをするのが久しぶりだと気がついた。
独り言だけの、数年間だったようなものだから。
「ああ!?見えねぇか?これがよぅ!」
少女は右手を握り、親指を立てて自分の左胸に突きたてる。そこには金色のエンブレム。
燃え上がるような金色の唐草盾模様に、目の醒めるような・・・・・蒼。
「あ・・・・・・・・・」
瞬きすらも忘れた司祭の胸にも同じ模様。
このエンブレムは・・・・・
「けりたまの・・・・いるギルド?」
「はぁ?」


『予譲』
『ん?』
ベンチに座る男が2人。1人はサンドイッチをずっと見つめたまま。1人は本に目を落としたまま。
『悲しいって、なんだ』
『・・・・・それがわかってやっと、人間だよ。きっと』
『そうか』
『そうさ』


それは随分前に交わした友人との会話。戦争以前、彼が人だった後半の記憶。
「なんだてめぇ、krの連れ?」
胡散臭そうに顔を歪める少女。まったく、可愛らしい顔が台無しだ・・・・とは言うまい。
「ん・・・・同期でね。まだ彼はチェスの時、キングをずっとずーっと奥に並べているかい?」
「はん・・・・なんだてめぇ、それならそうと言いやがれ。あんなキチ○イみてぇな事してっからよぅ」
右手にはまだ先程の少女の血がぬるりと香る。
ああ・・・・まったく。そう言われても仕方が無いや。
「うん・・・・いやぁ・・・・ごめんよ。ちょっとした発作みたいなもんなんだ・・・」
「あーぁ、おい、なんか感じわりぃなぁおい。いくらkrの連れってもよぅ・・・まぁアイツの連れならなぁ・・・・やりかねねぇけどなぁ・・・」
ばりばりと頭をかいてバツの悪そうな少女。
どうやら戦闘は回避できそうだった。ほっと一息つく。
アバラと顔面が痛い。骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
「なぁニレコよぅ、こいつkrの連れだってよ」
そうだ、まだ完全に戦闘は終った訳では無い。なにしろ先程の司祭は・・・聖罰の可能性があるからだ。
「いきなりぶっ殺すのはやめてよぅ、ちょっと話しくらい聞いてみっか?なぁ?」
都市伝説にしか過ぎないけれど、もし聖罰というものがその伝説に違いないものなら、これで刃をしまうはずが無い。
「おいニレコ、返事くらいしろよ。なぁ?」
先程の体術、不思議だった。あの程度は錯乱していても避けれるはずなのだ。モンクでも無いただの司祭の拳。それが避けれない。そこになにか秘密が・・・。
「・・・・ニレコ?」
「?」
思索は急に打ち切られる。
目の前で起こる事に。
「・・・・・・・おい?」
少女の問いかけに先程から司祭は答えない。瞬きの一つもしない。何もしない。”まったく何もしない”
完全にパッシブな状態に見える・・・・が・・・・・。
「エーテル量増大・・・・あんた・・・・」
「おぅ・・・・なんかこれは・・・・・・・・・・・・・」
いや、正確にはまったくなにもしていない訳では無い。その証拠に、司祭を取り巻くエーテルが異常な値を示している。
「高速収斂を繰り返している?」
「わからねぇ・・・なんだ・・・これ・・・・」

ドクン。

脳の中が1と0に埋め尽くされる。世界が輝いて見える。
口をパクパクさせている少女と男が目の前に。なんだか目障りだったので、打ち払いたかった。その為の力が欲しかった。想えば。
力が溢れてくる。どこから?さぁ・・・・きっと、神の国から。

そうして『彼女』は生まれた。

「さらにエーテル増大!!なんだ!」
少女が一歩後下がる。
「まさか・・・いや・・・・さっきのはもう解除したはず・・・・」
司祭はいまだ身動きの一つもしない。ただ、今はもう司祭をとりまく空気が、エーテルが高速収斂を繰り返して逆巻きうねっている。
「こんなエーテル・・・・」
その数値はすでに人の身を越えた値。爆発四散すればキロに及ぶ破壊をもたらす。
「ニレコ・・・・」
少女が司祭の名を呼ぶと同時に、こっちを真っ直ぐに見据えた司祭の右目が朱色に焼ける。
次いで左目は金色に。
「!?」
司祭を中心に空気が爆ぜた。
そして現れたるは
「・・・・・・・・・・・・天使」
しらず呟いた言葉。それに相応しいその姿。
赤と金のオッドアイ。司祭の背には巨大な真っ白い羽が
「ぐっ!?」
天使の姿がグンと遠くなる。
地面が吹っ飛び、どんどん景色が流れ出した。
「がっ!」
息が苦しくて喉元に手をやると、自分の服が首にめりこんでいる。
そして襟には少女の手。
後から首裏をがっしりとつかまれて、少女は駆け出していた。天使を置いていくように。
「ちょ・・・・はな・・・」
「あほぅ!”あれを見て”駆け出さないなんて!てめぇ死にてぇのか!!」
少女は大股で駆ける。恐ろしい程の速度で。
「あ・・・・・あれ?」
目を凝らすが見えない。エーテルが目に通っていない。拡大表示が・・・できない。
「ちっ!話は後だ。とりあえずこの場を離れて・・・・」
後から摑まれた体は完全に宙に浮いている。どんな速さで走ればこんな事になるのか。
今は大通りを真っ直ぐに離れていっているだけ。
なんとか目にエーテルを通わせて、先程の天使をもう一目・・・・。
「?」
天使の代わりに違う物が見えた。
柄より白煙を上げて迫ってくる二本の黒鍵。それはまさに・・・・ミサイルのような。
「ふ・・・・フォックス2!!」
「あぁ!?なんだと!?」
間違い無い。アレはミサイル。貫通し、殺す物だ。
それが白煙を上げて迫ってくる。どんどんと、どんどんと。
「18時に感2!わき道に・・・」
「できねぇ!このスキルは真っ直ぐにしかいけねぇんだ!」
少女の足が完全に舗装された地面をガリガリと削る。知らないスキルだが・・・・戦場で使うには致命的すぎる。
いくら速くとも、迫る黒鍵のほうが若干速い。このままでは追いつかれてしまう。
「黙ってねぇで叩き落せ!」
至極当然の指示といえた。しかし、それができればとっくにやっている。
「ダメだ・・・・・」
「はぁ!?死ぬぞ!?」
一瞬だけ振り返った少女と目が合う。
「さっきからやってるけど・・・・概念兵装が作れない」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
そう、思えばさっきからおかしかった。
目にエーテルが通わなかったり、盾がうまく練成できなかったり。
司祭に胸を突かれたあたりからどうも・・・・
「ウィルスの類に感染してるのか・・・・」
右手を開いたり閉じたりする。・・・・鈍い。感覚の全てが一瞬遅れになる。
「なんとかなんねぇのかよ!」
ミサイルはどんどん間隔を狭めてくる。
このままでは・・・・
「その手を離して欲しい」
「はぁ!?何お前、”ここはオレが食い止める!”か?ダセwwwwwwwwww」
「違うよ」
冷静に迫る黒鍵を見る。
あれを叩くには飛び道具系の概念兵装が必要。しかしこのボディでは練成が出来ない。なら”ボディを変えるだけだ”
「一瞬だけでいい、ほんの一瞬だけ手を離して。その間に義体を換装するから」
「義体の換装ならこのままやれや!サーカスみたいな真似は・・」
「出来ないんだ。もう一つの義体はライフサーキットが焼けてる」
ロードナイトの義体はニブル戦役で死んだ。残り香がかすかにある程度。
それをかき集めて、手足だけでも換装する。と云うか、手足くらいしか換装できない。
完全な義体ならば、たとえどんな状況でも修練によって一瞬で切り替えれる。が、こんな特殊な場合だと他者からの接触ひとつでエラーが出る可能性がある。
「・・・・・でもダメだ!krの連れを殺す訳には・・・・ちぃぃぃ!!!そんなんどうでもよかったwwwwwタイミング合わせろよおおおおおおお!!!」
案を否定しながら後を見、思ったよりも近づいた黒鍵を見てやっと納得する。
「3・2・1!!!!」
瞬間、予譲は完全に宙に浮いた。

1秒では遅すぎる。置き去りにされてしまうし、この速度で投げ出されればただではすまない。
0.5秒の仕事。この換装は0.5秒でやらなければならない。
一度死んだ体と今の体を縫い付ける。簡単な事では無いけれど・・・・でも・・・・・。
傷ついた目を開けた時の絵が、今も目に残る。
瞬間、もう一度後襟を捕まれた。

「できたか!?」
あんまりにも一瞬だった。0.5秒を目指したのだから、当たり前だ。
あまりの速さに呆気にとられるも、その手には頼もしい質感。
「・・・・・迫るミサイルを叩き落す!!」
AK・・・・カラシニコフ。
がっちりと脇でホールドして、弾をばら撒いた。
バタタタタタタタタタッ!!!
キンキンと剃刀を割るような耳障りな音を立てて迫っていた黒塗りの剣が弾き飛ばされる。とりあえず一発撃墜。
「ちょ・・・突撃銃かよ!」
軽くない反動が夏帆のバランスを崩そうとする。
ミサイルはもう一発。
「単撃で落とす!対ショック!」
脇を閉め、ガンサイトを向かってくる剣に。
バンッ!
飛んでくる黒鍵の柄を狙い、一発だけの射撃。狙いも威力も十分。
向かってきたミサイルは全て撃墜された。・・・・・・2発は。
「へぇ!いい腕して「18時フォックス3!」
瞬時に次弾が飛んできた。
「くそがあああああああ!!!!!!!」
小さな体に予譲を掴み、短いスカートをはためかせて少女は加速する。
コンクリートを破壊しながら、命を削りながら。
「本体が・・・」
「あああんん!?」
エーテル探査。完了。
「んなアホな・・・」
探査結果は
「18時50mの位置だと!?」
全然離せてなかった。そのあまりの距離の無さに愕然とする。
がしかし、立ち止まるわけにはいかない。アレとまともに向かい合っては勝機は0。これはこのゲームのルールみたいなものだ。
ガンサイト越しに予譲は目を細める。
そこには夜の大通りを滑る/統べるように飛ぶ司祭・・・・もとい、天使が。
オッドアイと目を合わせただけで魂まで擂り潰されそうな圧力。
指が震える。そしてその震えた指は的確にトリガーを引いた。
「!?」
バタタタタタタタタタタッ!!!!!
弾道予測をするまでも無い。銃より放たれた弾丸は一直線に天使に向かって。直感・・・・何発かは着弾する。
「にれ!」
夏帆が叫ぶも・・・。
その時、天使の両肩に浮いていた聖書(いつ展開したのか?)からページがばら撒かれる。
一直線に向かっていた弾丸のすべては、そのページ一枚一枚に触れ、霧散した。
「ニューマ・・・・?いや・・・!」
そしてそのまま、開かれた聖書から細い光線が多数バラバラに放たれた。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
バタタタタタタタタ!
カラシニコフから吐き出される弾丸にエーテルを付与し、面積をソフトボールくらいに拡大し弾幕を張る。
光線は弾幕に触れて爆発、近くの光線をも巻き込んで大爆発を起こした。
「くそっ!レーザーファランクス・・・・そうか・・・ノムオの魂・・・・」
少女が何か呟くが、至近距離で起こった大爆発に耳が麻痺している。
そしてまだ続く爆発の中から黒い切っ先。
黒鍵はそのまま貫通してきた。
「バスタード!!!」
慎重に狙いをつける暇は無い。手当たり次第に弾をばら撒く。
先程の撃墜でわかったこと。コレは真っ直ぐにしか飛ばないモノ。一発でも着弾すれば、その機動を変えてやることができる。
キンッ!
耳障りな音がして一番近くに迫っていた黒鍵が弾かれ
「・・・・?」
黒塗りの剣にヒビが入り、白い光が漏れてきた。
「!?マズ・・・・」
そして剣はあっけなく内側から破壊された。白い光によって。
ヴヴヴヴヴヴヴ!!
その場に白い小さな太陽が発現し、空気もコンクリートも地面も、5mの範囲を擂り潰した。
「・・・・・・炸裂弾のつもり・・・か?」
幼稚だ稚拙だと馬鹿に出来ない破壊力が目の前で起こった。
「司のマグヌス・・・・くそ・・・まずいな・・・」
少女がまた呟く。
「何か知っている?のか?」
「・・・・・逃げるのが先だ・・・・うぉ・・・まじぃ・・・」
ちらりと進行方向を見ると
「・・・・・・ジーザス」
大通りが終了し、目の前には8階はありそうなビル。
このスキルは急に方向を変える事ができない。
立ち止まれば2発残っている炸裂弾仕様の黒鍵が。
「ど、どうす「飛ぶぞ!!!」
クン、と少女の体が少し沈む。馬鹿な。いかな能力者であれ、空を飛ぶ事は基本的には出来ない。
短距離ならば足を犠牲にする程のエーテルを射出して飛ぶ事ができるが、目の前のビルは8階はある。
途端、司祭の姿が斜め下に縮小した。
否、夏帆と予譲は今、空に向かって加速していた。
ビルの屋上から大きな、大きな月が顔を出す。まるで、月にまで飛んでいけそうな-
ドンッドン!!
下で2発の炸裂弾仕様に換装された黒鍵がビルに突き刺さって爆発、四散。
その炎をものともしないでこちらを赤と金の目で見る天使。
「拙い!早く着地を・・・!」
口にした途端、無限に加速するかとも思われた慣性が消滅、一瞬の無重力状態に突入する。
「飛ぶスキルだからな・・・・落ちるのは重力任せに・・・」
そんな悠長にはしていられない!
空中での方向転換が出来ない以上、今我々は究極に無防備に
天使の右手が光る。
きゅうん。
超超高密度のホーリーライト。きっと直撃すれば穴が開くなんて優しい事にはならな
想像するよりも早く、予譲の胸に光は着弾した。


「はっはー!死んだか?死んじまったか?」
夜空を彩る大爆発を見てはしゃぐめがねの男。
「・・・・・・・・主任・・・・あれはなんですか・・・・」
うってかわって深刻そのものの表情を浮かべるシルクハットを持った青年。
「あ?なんだと思う?ナンだろなwwwwwwwww」
ぎゃっはっはと笑うめがねの男。
「・・・・・・XXX(トリプルエックス/エクシオン)・・・まさかこんな所で見るとは・・・・」
ぎりと奥歯を噛む音。
「違うなwあれはXXXXX、名前はまだ無いけどな、それくらいはあるでw」
馬鹿な!といおうとして顔を上げるが・・・・この男が言うなら間違いは無いのだろう。
「XXXでも十分に人外だというのに・・・・一体・・・」
「直樹、限定空間の拡大を急げ。被害はこんなもんじゃなくなるぞwwwwwww」
「・・・・了解。主任が討って出るんですね?」
先程の光景は拡大して見ている。間違い無くあの高出力光学兵器は2人に着弾した。
そして、あの威力にはきっと・・・・耐えられないだろう。
「そう思ったんだけどなぁ・・・・あいつ等まだがんばってっからなw」
目を爆発が残るビルの上に戻す。あの破壊力に耐えたと・・・?
丁度煙から2人が落ちて姿を現した時だった。


「ぶはぁ!」
体に纏わりついていた煙が落下する体について来れずにはがれていく。
2人はまだ生きていた。
「なんで生きて・・・・?」
予譲は生きていた感動よりも、何故死んでいないのか、どうやって助かったのかが気になっていた。
この自分の胸に、あの光の圧力すら感じたというのに。
「これも専用のスキルでよぅ!ちょっといじったヤツだったけど、役にはたった!」
説明を受けたかったが、それよりも先に
「地面に落ちるぞ!着地はこっちでやっから絶対お前は足つけんなよ!そーゆースキルなんだからな!」
少し遠くまでも見渡せるような夜。まさかこんなところから眺めるとは思ってもいなかった。
ゆっくりと、しかし確実に夜景が下にズレてゆく。
どんどんと地面が近づいて・・・・・そのまま墜落―
「っしょおおおおおおお!!!!」
トン、と地面に降り立ちそのまままた加速を開始する夏帆。
「い・・・いまのは?」
「説明は後だっつってんだ・・・・おおおおまじいいいいいい!!!!」
今まで加速していたラインから体一つ分だけ急にズラす夏帆。
「!?」
驚いた瞬間、いまさっきまで走っていた地面に穴が開いた。
「・・・・げぁ」
ぴ、と頬に何かが当たった感触で夏帆を見る。
口から一筋の血を零していた。
「あ、当たったのか!?」
「・・・・あほぅ・・・直撃してたら死んでるっつーの。無理矢理ライン変えたからな。」
ぐっと右腕の袖で口を拭う。
体一つ分、右足を少し横にズラして走っただけで、体には恐ろしい程の負担がかかる。
この”加速”するスキルはそういったものらしかった。
瞬間、圧力。
キッと夜空を見上げると、先程飛び越したビルの屋上に人影。そこから降るように迫る黒い針が二本。
脅威は未だ、去ってはいなかった。

目の前を”1”が二つうろうろする。
気になる。気になる。
右手を伸ばせば、触れたものは”0”になる。
あれも”0”にしたい。したい。

夏帆は走りながら考える。
どうやってこの状況を打破するか。
戦闘すれば間違いなく負ける。ならば逃げるしかないのだが。
一体、どこへ?
砦とはまったく逆方向に走っている。
人通りの多いところにいけば、なんとかなるかもしれない。ニレコを鎮圧できる人間がいるかも?
いや、居ないだろう。今のニレコに勝てる人間なぞ、そうは居ない。そうは・・・・

「いた。」
1人いた。
たった一つの心当たり。
ふと、その心当たりが目の前でにやけたような気がして、夏帆は夜の街を睨んだ。
「くそが・・・・・」


「おーお、悔しそうな顔してんなおいwwwwwwww」
偶然である。
逃げる夏帆の正に正面、600mほど先にこの男がいたのは、絶対に偶然。
「そろそろ助けてあげてはどうですか?彼等にはあのバ「ぶち殺すぞ」
直樹は言おうとした言葉を飲み込む。言えば、本当に殺されてしまうだろう。彼はやるのだ。
一瞬だけ真顔になったメガネの男は、またにやけ顔に戻る。
「頼られるのは悪ぃ気はしねぇけどなwwwwwあいつには仲間がいるって大事な事を学んでもらおうかなw」
ぱちんとまた指を鳴らす。
この指が鳴って、ろくな事になった試しが無いのを直樹は良く知っていた。

「おーいメソー、豆大福まだー?・・・・あ?」
箸を持ったまま振り返った男は、完全に無防備だった。



「・・・・・それで、俺にどうしろと?」
ゲラゲラと笑い続けるメガネを余所に、できるだけ平静を保っているフリをする司祭の男。
「はぁ・・・しゅに・・・いや、軍曹に考えがあるようですけども・・・」
その”軍曹”は腹を抱えて笑っている。
「・・・・・豆大福の恨みは怖いぞ・・・・」
ぺきりと箸の折れる音。メガネはいっそう高らかに笑い出した。


「んううううううう!!!!」
バタタタタタタタタッ!!!!!!
全力射撃でなんとか追撃者の攻撃を防いでいる現状。
なおも夏帆は加速を続けるが、心なしか速度が落ちてきているような気がする。
追いつかれれば、終わり。
次の獲物は―
絶望という名の黒鍵8本。

「んでだ、ねちゃんには”これ”を使ってある”標的”を撃ってもらいたい」
ぽんっと出すにはあまりにも質量のある”これ”を事も無げに練成し、ねちゃんと呼ばれた男に渡す。
「これは・・・・・グランドクロス?」
成人男性の身の丈もありそうな巨大な十字架。否、十字架を模したハンマー。
「ただのグランドクロスじゃねーぞw」
「・・・・・青ジェムで作られたグランドクロス・・・・」
そう、月明かりに写るその巨大な十字架は良く見れば薄い青色を放っている。
「そんな馬鹿な・・・こんな巨大な結晶があるわけが「作ったで」
夏にしては涼しい風が吹いた。
「はぁ」
これがどれだけとんでも無い事かはあえて説明しない。が、なんとはなしにわかってもらえると思う。
「・・・それで、何を撃てって?」
巨大な十字架を肩に担いだ司祭がメガネを見やりながら尋ねる。
「それはおいおい・・・・ってやべぇな、騎兵隊でも送るか」
ドムドムと小さな爆発音がした方を見た。

二発。
たったの二発だけ逃した。
しかしそれでもゲームオーバーに十分事足りる、二発。
撃墜した黒鍵の煙を切り裂いて、二本の切っ先が迫ってきた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
カラシニコフを盾に変えて防ぐ!
もちろん間に合いはしない。黒鍵の切っ先は無常にも既に胸の前に。
予譲は、せめて今まで自分を担いで走ってくれた少女が無事であれば良いと願った。
「・・・・・・・・」
今にも突き刺さりそうだった剣先が胸の前から遠ざかる。何だ?何でだ?
「ッッッッッしょおおおおおおおおおおお!!!!」
見れば、少女は左腕を野球の投手のように弓なりに振りかぶり遠くの壁目掛けて投げつけていた。
自分を。
「やめ―」
遠ざかる少女と二発の黒鍵。
その内の一本が、少女の胸から生えたのを見た。


「おいおい・・・・修羅場だな・・・・」
焼き鏝を背中と胸に押し当てられたような感触を味わった瞬間、耳に聞こえてきた声。
今にも自分の胸から飛び出そうとしていた剣先がどんどんまた胸に戻っていく奇妙な光景。
うつ伏せに倒れこむ瞬間、必死で仰向けに倒れこんだ時に彼は完全に実体化した。
「やしろ・・・」
やしろと呼ばれた黒髪の青年は、切っ先を自分の血で汚した黒鍵の柄を持ったままニヤリと笑った。

「急に”転送”されてみりゃ武器も防具も説明もなんも無し。こりゃあれだ、”時間稼ぎ”って事でいいのかね?なぁ、ニレコ」
飛んできたもう一本の黒鍵の柄をなんなく掴み、二刀を構えるやしろ。
「やし・・・それは・・・・」
ぴしりとやしろが持っている二刀にヒビが入る。
「はん、やっぱ素手か」
割れそうな刀身を一瞥してニレコに投げ返す。聖書から放たれたレーザーファランクスになんなく撃ち落された。
「状況はまったく把握できねぇが・・・どうしたニレコ、その有様は」
演算能力と恒常性の強化、及び脚部の強化を同時に行う。
常人の数十倍に加速された演算能力がすべての事象をスローに見せる。
今正に練成されようとしている黒鍵の数は・・・・6
「全然遅ぇわ」
やしろは高速で踏み込み、ニレコの鳩尾に崩拳を当てる。
50cmほど宙に浮いたままのニレコは、直立不動の姿勢のまま3mほど後に飛ばされる。
飛ばされた先でやっと黒鍵が完成、目標目掛けて・・・・
「?」
目標をロスト。
「武器なんも無しで正解だわ軍曹。手加減が難しくなる」
声は殆ど真下から聞こえた。下を見やる。
やしろが沈み込んだ態勢のまま、両手を広げて飛び掛ろうとしていた。
近接迎撃開始。
左の掌に力を集束、はな・・
またもや目標をロスト。
一瞬前まで自分に飛び掛ろうとしていた男が目の前から消えた。
「あぶねぇな・・・流石の俺も”光”は見てからじゃ遅い。」
左斜め前のビルの3階部分に張り付くようにしてやしろは呟く。
ニレコは目標を再認識して、力を放出。
煌く光がやしろと呼ばれた男の頭を吹き飛ばした。


「えーと・・・え?終了?」
シルクハットを凹ませ、直樹は振り返る。
そこではメガネが司祭と雑談していた。
「・・・・豆大福・・・」
「だからよーそれはまた今度の楽しみに・・・」
団員が死んだというのに。
「主任・・・」
さすがの直樹もこの”ズレ”には一言謂わなければならないと感じた。
どれだけこの男が”ズレ”ていようとも。
「あー、死んでねぇ死んでねぇ。これくらいで死ぬなら俺が暇つぶしに殺してるわw」
手でシッシと追い払う仕草。
「そんな、見ても無いのに・・・」
光線はあの青年の頭に確実にヒットし、彼の脳を吹き飛ばした。確実にだ。
その脳漿が飛び散るのを、直樹は直に見ている。
それでも彼は言う。
「うっせーなwwwww死んでねぇってwwwwwそれによwwww」
やっとこちらを振り返る。
「送った騎兵隊は、1人じゃねぇでw」
自信満々の笑顔で。


ボンっと弾ける音を聞いて振り返ると、そこには顎から上を完全に消滅させられているやしろが、ビルの壁から落ちるところだった。
「くそ・・・・」
一瞥しただけで、なんの感慨も浮かばない。
彼と夏帆はそんなに仲の良い間柄ではないからだ。
しかし、一応仲間は仲間。脳は頼んでもいないのに、やしろの仇を討つ作戦を模索する。
無い。
まったくの皆無だ。
彼女が何かをしてあの”天使”を鎮圧するのは不可能でしかない。
ならば作戦は一つ。
ここは逃げる。完全に逃げ仰せ、あの”天使”が鎮圧できる唯一の心当たりを引き摺っても連れてきて、やしろの仇を取る。
これしか無い。
しかし、半分殺されたような体ではたして逃げられるか。
しかし!ここでこの手を這わしてでも前にやらなければ!
「逃げられない!」
夏帆はゆっくりと、でも確実に手を伸ばした。
「諦めない。その命を諦めない、その強さを助けます。あなたはもっと・・・なんとゆーか・・・捨て鉢に生きていると思ってました。」
黒いローブの袖から伸びた白い手が、伸ばした夏帆の手を掴んだ。

「てっーなおい・・・・」
地べたを這う夏帆に追撃をかけようとしていた”天使”はこの一言で目標を変えた。
いや”戻した”
その視線の先・・・・・先程”0”にした目標が、頭部より微かに湯気のようなモノを発てて立っている。
「そこまで容赦ねぇなら・・・俺も容赦なんてのぁ・・・・ちょっとだけにするぞ!」
男が眼を閉じ、そして開ける。
その眼は先程と同じに非ず。
黒い深遠から、濃密な紫へ。
そしてその身に纏う力の性質も、まったく別のモノになりかわっている。
目標再認識。再度の解析を・・・
「”路地裏の殺人鬼”!!!」
目の前の男は、いつの間にか右手に持った拳銃のようなモノを引き絞った。
バン。
弾道予測開始。迎撃を―
しかし、一直線に飛んでくるはずの弾丸はどこにも見当たらない。
そして再解析しようとしていた男の姿も。
ふいにズグリと右腹から何かが飛び出してきた。それは自分の血を纏い、赤色に輝く弾丸。
即座に超恒常性維持能力が発動。腹と背中の傷を修復にかかる。
「わざわざ傷口見てんじゃ・・・・ねぇ!」
声と同時にボキリと云う衝撃。
いつの間にか左後方に周りこんでいた男が、自分の首を左手で掴むと同時にへし折った音だ。
そしてほぼ同時にもう一つズグリと、今度は脳を抉られる感覚。
弾丸は、二発だった。

「しかし軍曹、これを全力で”撃つ”となると、街の形が変わるかもしんねーぞ?」
ずしりと身の丈程もある巨大な十字架を肩に担ぎながら司祭はメガネに尋ねる。
「おぅそんなモンはどうでも・・・・いや、さすがによくねーかwあーどうしたもんか・・・・ん、そろそろ終いか。ほれ”やしろ”」
メガネはまたパチンと指を鳴らした。

左手一本で宙吊りにされ、頭と腹に穴を開けられたまま、それでも”天使”はやしろを睨む。
再認識完了。攻撃再開。
ぎょん。
両手に集めた光を圧縮して首を後から持ったままの男目掛けて放つ。
「はんっ!」
しかしその光は男を貫かず地面に穴を開けただけ。
寸での所で手を放し、飛び退る男。追って第二射、第三射。今までの速度の倍で動く標的。
どれも尽く当たらず。
「・:・・・・・・:::::::」
直線の攻撃は不利と判断。ならば多角的に攻めるのみ。
”天使”は両肩に展開した”聖書”に力を集める。ランダムにばら撒かれる死の光。これで対象は今度こそ”0”に―
「?」
不意に体の向きが変えられた。直角に。その先には黒衣を纏い、目を紫色に輝かせた痩身の男が1人両手を体の前で交差した姿勢で立っている。
「ニレさん・・・まさか”堕落”を?いやいや、その姿は・・・”昇華”ですか。どっちみち・・・ちょっとこっち向いててもらいますけどもっ!!」
男の両指がギリリと締まる。同時に飛び退る男に狙い定めていた両手も体の内側に向けて締まり始めた。
「普通なら今頃細切れなんですけども・・・・やしろ!あんまり持ちません!」
「手間ぁとらせっか!」
見れば黒髪の男は構える。その両の手に握った二丁の拳銃を。
「”百死”」
バンバンっ!
二丁の拳銃から二度の発砲音。二つのマズルフラッシュ。当たり前の事だ。
しかしこの二丁は真っ当な拳銃にあらず。
殺して殺して殺して殺す為の拳銃。ただ、殺す目的の為だけの、ただ生命を奪う為だけの、ただただ、失わせる為だけの銃。
その目的を達成する為の全ては欺瞞で良いと。全てを売り払って、薙ぎ払って、打ち払って、手に入れた力。
その全てが、見たものそのままである筈が、無い。
「もいっちょお!!!!」
目の色が黒く変わると同時に後方に向けて”超”躍。後にあったビルに着地。ベキリとビルにヒビが走った。
そして男は吼える。
「ぐんそおおおおおおおおお”よこせえええええええええええええええええ”!!!!!!!!!!!」
瞬間、音が消えた。
誇張では無く、やしろがビルから”天使”に向けて突っ込んだ瞬間で音の壁を破った結果だ。
目では追える。いつの間に持ったのか、両手で真っ白な槍を持ったやしろが、自身その物を槍のように加速して”天使”に突き刺さる瞬間を。
雷が落ちたような音が事象よりも遅く鳴り響く中、それでも”天使”は倒れずにいた。
胸に大穴が開き、体を無数に穿たれ、その身すら薄紫の糸で縛られながら。
「これでも倒れねぇかよ・・・・ちくしょ・・・」
やしろは”天使”の足元にゴミのように”散らばって”いた。
これも誇張でも無く、本当に”散らばって”いたのだ。足を両足とも千切れ飛び、腕も一本見当たらない。首すらもげそうになって、胴体からは内臓がはみ出してそのピンク色を外気にさらしている。
「やしろ!ッのおおおおおおおおおお!!!!!」
金髪黒衣の青年はギリと両腕の交差と両指に力を入れる。
しかしこれ以上・・・・・
「まだ回復しませんか!」
「こりゃ流石に時間食うわ・・・バージル君・・・先に・・・」
「三文芝居やる間に回復しろおおおおおおおおお」
ボキン。
バージルと呼ばれた青年の右の中指がまったく逆の方向に折れ曲がった。
”天使”が右腕を強引に上げただけで。
「!!!!!」
それでもまだ締める。
ボキンボキン。
左の薬指と右の人差し指が折れる音。
少しずつ動きだす”天使”
結局、バージルの指は全てありえない方向に曲がった。
「~~~~~!」
ぶちり、と唇を噛み切る音。全ての指を折られて尚、バージルは両腕のみで”天使”を縛り続ける。
そして―
ゴキン。
その両腕も折られ、それでも、それでも尚
「”ブルーリンクス”!!!」
折れ曲がった右腕を伸ばし、やしろに青色の糸を投げた。
「おまっ!早く「退却しますよ!」
バージルが足元に転移結界を展開する。が、既に動けるようになった”天使”がそれを許す筈も無く。
バージルがやしろを引き摺り寄せるその前に。
「・・・・・・・飛んだ?」
両足の裏からエーテルを噴射させ、大空に真っ直ぐ飛び立った。


「・・・はあ?あれ・・・ちょっと飛んだってレベルじゃないですよ?」
あっけに取られすぎてあんぐりと口を開けて見ていた直樹が、半ば独り言の用に言う。
「おいwwww丁度いいでwwwwwwwww」
夜なのに右手で庇を作って空を見やる”軍曹”
「まぁ・・座標が分かれば撃てるのは撃てるけど・・・どこまでいったんだ?」
月にかかる雲に大穴を開けて、ニレコは空に飛んでいってしまった。
「ありゃあ成層圏は突破したなw」
たいしたもんだでwと”軍曹”は笑う。
「えーと・・・・・解決?」
「ばっか、んなわけねーべな。おぉ、ついに熱圏突入wwwwこれぁあれだ、面倒だからこの辺全部焼き払うつもりだでwwwwwww」
「熱圏て・・・・もう宇宙ですよ・・・」
奇しくも、”軍曹”の予感は的中する。


面倒だった。ただただ面倒だった。
幾度”0”にしても起き上がってくる男。それを助けようとする男。
最初から既に面倒だった。
男を担いで走る女。その背からちいさなちいさな棘を飛ばしてくる男。
面白かったのは最初だけだ。もうつまらない。”0”にして、次の”1”を探そう。
これだけ離れた。もう星そのものが視界に全て収まる所まで。
ここからでも目標は驚く程鮮明に見える。
全ての力を照射して、あの辺り一面を”0”にしてしまおう。
面倒なのだから。
虚ろなその目には、本来美しいはずの星すら見えていない。


ここに最初から居たにも関わらず、久しぶりに本編に加わるモノがいる。
「(・ω・)”」
体を何かに乗っ取られ、白い空間に閉じ込められた彼女・・・・ニレコ。
その空間には操縦席のような椅子が一脚と、そして外を映している巨大なスクリーンが一枚。
しかしその操縦席には、ハンドルも操縦桿も無い。
「きちゃったよ うちゅう (・ω・)”」
はらーっと自分の住んでいた星を眺める。
「きれいだ な(・ω・)”」
今度は非常に真っ当な感想を聞けたのだが、今はそれ所では無いような気もする。
急にスクリーンが拡大表示される。そこに映し出されたのは・・・
「おー!やしろんにバージル君だ!おーぅい!!((・ω・))」
まぁ見える訳も聞こえる訳も無いのでした。
「(´・ω・`)まぁね」
椅子の上でぐったりしてみる。あーぁ、みたいな。
ベキベキベキベキ!
「お お(・ω・)?」
急に球体だった白い空間が内側にへこみ始めた。
そしてスクリーンの左斜め下にある剣や本のアイコンの隣にある数字が激減。
「なんか まずい 予感だ!(・ω・)!!」
しかし緊張感は無かった。

「”軍曹”、おれは思うんだが」
「なんだいねちゃん」
辺りには気持ちの良い風だけが、これから起こるかもしれない大災害をかけらも感じさせず漂う。
「撃つのはいい。だが、避けられると思うぞ」
詳しい説明を”軍曹”がまったくしない為、脳内で作戦を保管していたネッド。
その作戦では、これからこの両手に持った100%ブルージェムストーン製のグランドクロスで自分の特殊スキル”shooting opera”を撃つ事だろうと思う。
限りなく光に近い速度で敵を穿つ”shooting opera”
しかし、それでもこの距離。それも、ニレコには恐らくこちらが見えている。
ならば、避ける事も可能だと思われるのだ。
弾は一発限り。それ以上は、いかに”軍曹”がこのヘンテコな兵器を持って来ようがこっちが持たない。
「あぁ、避けられるだろうなぁ」
あっさりと認められた。
「だから、保険を用意するで。しかもねちゃんよ、そのまま当てたら恐らくニレコは死んでまうでよ」
そしてまた、不吉しか呼ばない”軍曹”の指が鳴る。

「香車特殊能力”神風”発動!!直進して最初に当たった敵を含めて周囲3セル内の敵を道連れに!!」
盤上の香車が光り、敵陣に突撃し爆発する。
「わざわざ壁を一枚削るとは・・・兄者はわかりやすい・・・ナイト特殊能力”ランスチャージ”発動!風穴広げろ!」
盤上のナイトが光り輝き、香車のいなくなった場所から突撃、たまたま居合わせた桂馬を串刺しにして盤上の端まで突撃した。
「ひへへ・・・潰しあえ潰しあえ・・・玉特殊能力”双子の王座”発動!玉に軍事を託して王が内政を執る!ダイスロール!!・・・・なにぃ!?ファンブル!!ビショップに政権を奪われただとぅ!?」
ぐんにゃり、と盤上の三分の一が紫色の霧に包まれる。
がしゃん。
”軍曹”に盤はあっさりと蹴り倒された。
「「「あああ!!!」」」
「ってここはどこ!?」
白髪の青年は辺りを見回す。
「エーテル感知から一秒たらずでの強制空間転移・・・”軍曹”ですな」
両目に大きな傷のある黒髪の青年は事態を一瞬で把握し、落ち着きはらっていた。
「あぶねぇ・・・・ボロ負けするとこだったぜぇ・・・・」
針金を思わせる痩身の青年は冷や汗を拭っていた。
「おめぇらは・・・・なんの遊びを・・・・」
「将棋とチェスとSLGを合わせた画期的なゲームを・・・」
地面に散らばった将棋の駒とチェスの駒とサイコロ。
傍目にはまったく意味がわからない・・・。
「・・・・まぁええで、非常事態だ。作戦はロキ君の頭に送っておいたでな。後で確認するように。そいじゃ」
一歩横にズレル”軍曹”。そこには黒いパジャマの上下を来たまだ少年の面影を残した男が1人足元に光り輝く魔方陣を展開していた。
「行きつ・・・・必ず戻れ!」
ビッ、と右手の人差し指と中指だけで遊んでいた3人の男を指す。
「アイス君、ちょっ・・・・」
語尾も溶けるように、3人は姿を消した。
「生きて戻れるんでしょうな・・・・」
「さぁねwwwwwwwwww」
無責任な笑い声だけが、夜空に響く・・・・。

目の前が真っ暗だった。誇張でなく、まったくの真っ暗。むしろ、まったくの”無”だ。
「・・・・・・・・!!!!」
弟者とジョン!!!!と叫んだつもりだったのだが、声は体内から出た途端に響かず消えた。
「!??!?」
姿勢もままならない。まっくらな水槽に入れられたようだった。
襲いかかる不安。
永遠に近い一秒後、袖を誰かが引く。

振り返ると、良く知った弟の大きく傷の残った顔と、眠っているかのように漂うジョンの姿。
バックに青色の星を背負って。
「まったく・・・・いきなり宇宙空間に放り出すなんて・・・・」
弟は愚痴りながら袖をさらに強く引いた。
「はわー・・・・宇宙かよ・・・・」
口に出してから気付く。
「あ、声が出る。」
さっきまで出なかった声が今ははっきりと発音できる。
「エナジーコートで兄者も包みましたからな。声と息はなんとか・・・って動かない!姿勢制御が大変なんだから!」
愚痴る声をさらに大きくして指先から色々な方向に向けてナパームビートを撃つ弟者。
「あ、そうか・・・無重力だからか・・・」
無重力下での姿勢制御は非常に難しい。少しでも動けば、その慣性でどこまでも飛んでいってしまう。ではどうするか。まったく逆の方向に、まったく同じ力をかけてやれば良いのである。
言うは易し、行うは難し。弟者はそれから暫くナパームビートの連射だった。
ジョンは・・・・その作業を少しでも楽にする為だろうか?さっきから熟睡しているように見える。
「・・・・・暴れるからつい・・・・・」
もうし訳なさそうに見えてはいない目を伏せる弟者。
熟睡というよりは、気絶らしかった。
「まぁ・・・・なんとか所定の位置についたわけですが」
ふぅと肩から荷を下ろしたように呟く弟者。
「軍曹の作戦って?」
「ふむー・・・まぁメールします・・・」
喋るのが億劫なのか、電脳でメールを送ってくる弟者。開くとすっごいチャラ描きの絵とぐちゃぐちゃの字が。
「えー・・”門の使用を許可、剣で削って盾でマーカーの指す位置に反射しれ”」
物凄く適当な作戦所だった。
「いやまぁいつもの事だけれど・・・・」
いつもだった。
「意訳すると、”なんか飛んでくるからそれの威力なりなんなりを削ってこの位置に反射しなさい”ってことですか」
ぴ、と星の上に赤色のマーカーが付く。網膜に直接投影されているらしかった。
「へへぇ、門の使用を許可ねぇ」
「うむ・・・・非常事態なんだろうね・・・ってジョン回復早いな」
「取り柄だからね!」
びっと親指を立てるジョン。涙は無重力下では球となって漂った。

再び地上。
屋根の上で男が青色の十字架をバットのように構えている。
「4番~バッター、ねっどすばーすーwwwwwwww」
隣では眼鏡の男がゲラゲラと笑い転げる。
「そろそろやるけど・・・・全員の避難は?」
ヴンと目の前に画像が展開される。そこには直樹を初め、横にされた夏帆や見知らぬ男もいる。やしろは気付いたのかこちらに手を振っていた。
「じゃあいっちょやるか・・・・軍曹」
「ん?」
「多分気絶すると思うから、後よろしく」
「ん、任せろ」
そう言って前を向き、左足を前に踏み出す。
ゴンッ!!
ただの屋根では確実に踏み抜く強力な踏み込みを、見たことも無い方陣が支える。その左足に体重は移しながら、ネッドはあらん限りの力で十字架を振る。
「ロックンロール!!!!!!」
真っ白の矢が、月明かりしかない空を切り開いて行く。


全ての兵装をチャージ。先程までいた空間をロック・オンする。
殲滅率は400%を越える。これであれらは間違いなく”0”だ。
その後のことなんて知らない。今ですら、知らない。

白い球体の部屋は、最早ニレコの座っている椅子だけにまで縮小していた。
「どうかんがえても まずい(・ω・)”」
画面の右下にある剣やら本やらの数値が赤色の0に。
なんとなく、自分の魂を削っているような気がしてならない。
しかしその椅子に操縦桿は無い。
彼女には、指一本すら動かす事は出来ない。
画面が拡大され、1人の男が写った。
その男は今にも手に持った十字架を振りぬこうと・・・
「まず(・ω・)”」
そこから放たれるモノの弾道予測はドンピシャで自分自身だった。

全砲門開放・・・・・発射。
無感動に自分自身のトリガーを引き、今にも攻撃をしてこようとしていた男に向けて攻撃を放った。
これであの辺り一帯は焼け野原・・・・”0”になるだろうと。
撃った瞬間、相手のエーテル値が増大。何かの攻撃が放たれたと予測。
回避運動開始。
と同時に光りの矢が左腕を消滅させて通りすぎていった。
勝った。
自分の放った攻撃を見ようにも、着弾の衝撃が影響しているのかノイズだらけで見えない。
その瞬間、ニレコは、いや天使は衝撃によって意識が途絶えた。

その数分前。
「さて・・・・・弟者にジョン、準備は?おk?」
「いつでも」
「あぁ・・・アレイシアに会えるなら」
白髪の青年を挟んで右に弟者と呼ばれた青年。左にジョンと呼ばれた白衣の青年。
その2人を繋ぎとめるかのように、三者の間には青色の線が光る。
「なら・・・”ゲート・オープン!封印解除。解除コードは・・・・」
”軍曹”から送られて来たランダムの英数を打ち込む。
「”使用者識別コード・・・ID破裂の人形、十字架の魔術師、白衣の悪魔”!!」
バチンッ、と薄い青色に光っていた線が紫色に。
「”フィードバックスタート!フィールド・・・・ニブルヘイム5”!!!」
白髪の青年が広げた掌に無数の英数字が下から上に流れ、そして”門”は開かれた。
シュルシュルと首元から湧いてでるように溢れた黒い外套に包まれる魔術師。
真っ白な白衣が返り血で真っ赤に染まり始める痩身の男。
魔術師の見えていなかったはずの瞳に、紫色の光が宿る。
楽しそうに、でもどこか冷めているようだった白衣の男の手には見たこともない紫色の花が一輪。
ガチンッと、どこかで歯車の噛み合う音が聞こえた。

瞬間、飛来。
白い矢が3人に向かって直撃コースで飛んで来た。
当たれば塵も残らない程のエーテル量。しかしその光りは花を手にした男の前で動きを止める。
「アレイシア・・・・守っておくれ」
手の中の花が粉々に砕け、一瞬だけ色白の女性を映した後、真っ赤で透明なガラスのようにかわり光りを阻んだ。
「亜WせDRFTGYふじこLP;@:」
バチンッ。
白髪の青年が意味不明な言葉を吐いて、目から血を流して気絶する。
「過負荷で兄者のヒューズが飛んだか。ジョン、急げ」
「にぃよ、解っているとも。さぁ、わら兄の事は任せて早く」
「もう終わっている。後は呼ぶだけだ」
無重力下では上も下も無い。勝手に頭の方を上と決めた魔術師が上を見やる。
そこには暗闇に輝く5本の針。
それがこっちに向かって迫ってくる。
針と言った。それはそこからではあまりにか細く、そして頼りなかったからだ。
それが近づいてくる。
訂正しよう、それは巨大な十字架。
全長で数キロにも及ぶ、黒くて紫色の、十字架。
ぎりぎりぎり。
歯車の鳴る音と共にその5本は違わず白い光の塊に立ち、そして消えた。
「規定の数値にまでエーテルを減少させたぞ・・・・軍曹」
魔術師の呟きが終わる前に、光りの塊は反射された。

摩擦によってプラズマ化した空気に体を焼かれながら、ニレコは自意識を取り戻した。
強化されていた肉体のお陰で生きてはいるが、長くは持つまい。
緋色に焼ける眼前。漆黒の宇宙。
ただそれを
「きれいだ な(・ω・)”」
と思って、目を閉じる寸前に見た幻覚ともなにともいえない誰かの、小さな小さな手を掴んでその目を閉じた。

「撃墜完了・・・ですか。」
なんとも後味の悪い結果となってしまった。
空には一際光り輝く星のようなものが見えるだけ。さすがにあの天使すら生きてはいられないだろう。
「”あれ”はおれのもんだでな。絶対手放さねぇよw」
「何か手が?」
「まぁ見てろ、本当のXXX(トリプルエックス/エクシオン)を見せてやるで」
直樹には、なんの事か見当もつかなかった。

幻影騎士団砦、その中庭にスーツを雑に羽織った男が立っている。
少女を肩車して。
「なぁマリエル、ほんとにここか?ここでいいのか?」
肩の上の少女は嬉しそうに答える。
「”ここに来て”って手を引いたの。彼女はその手を取ったよ」
数秒後、火の玉が彼等の真上に落ちてきた。

「呆れた・・・・あの”シルバー”がいる限り、蘇生は効くと?」
「のりちゃんは仲間思いだでw心配いらねぇ」
「まったく・・・・・この件、上にはなんと?」
「べっつにー?あ、新団員が2人追加だな」
”軍曹”は眼鏡を取って2人の男を見る。直樹と、まだ目をぱちぱちしている名前の無い男を。
この入団でまだ一揉め二揉めあるのだが・・・・それはまた別の話。
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Mirage-knight-cavalier03 黄昏の色。 
2006.07.11.Tue / 21:18 
「やぁ予譲さん」
「おはようパン屋さん。モカをショートで。それとクロワッサン一つテイクアウトね」
「あ、おはよう予譲さん。たまにはウチの野菜もかっとくれよー」
「おはようおばさん。野菜は食べたいけどお昼にはちょっとなぁw」
「晩にでも買って帰って彼女に何か作ってもらいな!」
「あははw」
朝の通勤時間。騎士団官舎前の通りはいつも通り賑わっている。
忙しそうに通り過ぎるサラリーマンの群れ。朝食を立ったまま食べているもの。
座ってコーヒーを飲みながら朝刊を読むもの。
電脳で誰かと通信しながら早足で遠ざかるもの。
これが騎士団官舎前の日常。
その中の1人、予譲も例外に漏れずいつものコーヒーショップでいつものコーヒーと、昼食を買って店を出た。
聖導騎士団後方支援大隊第四中隊所属114小隊勤務、予譲の一日はこうして始まる。
紺か黒のスーツ。ネクタイも紺か黒で統一し、黒革をなめしたブリーフケース。左手に新たに昼食を入れた紙袋を携えて騎士団官舎に入った。
彼の仕事は所謂『背広組』である。
もっとも、『背広組』とはいってもキャリアやエリートと言われる人間の事では無い。
要は”前線に出ない”騎士や聖導騎士を揶揄した言葉。
なぜ騎士や聖導騎士であるのにも関らず前線に出ないのかは色々理由がある。
前の戦場でトラウマを負った者。
”能力”が戦闘向きでは無い者。
戦闘に関する技術の低い者。
他にも個人の都合であったり、権力者の身内だったり、その理由は様々だ。
予譲はしかし、そう言った理由で『背広組』になっている訳ではない。
本人の希望による、配属である。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
騎士団官舎の屋根の上、非常に目の良い者か、その手の”能力者”でしか見る事のできない不可視の何物かは、騎士団官舎に入る予穣を確認した後、その場から本当に消えた。


「ふーむ・・・・」
昼休み、騎士団官舎の丁度目の前にあるオープンカフェの机にポスターを広げて朝買っておいたクロワッサンをかじる。
一口かじってはコーヒーを一口。
そして
「ふーむ・・・」
の繰り返し。クロワッサンはもう随分かじられてしまっている。
「やっぱりフレーズはこっちの・・・・うーん・・・いや・・・こっちのが・・・・」
定規を当てているポスターには、今風にアレンジされた白い十字架が書いてある。
手元のメモには
”治安の維持、改善の為、市民の皆さんの協力を!!”
の文字。
彼、予譲の勤める『114小隊』は所謂”広報部”であった。
「あ、予譲さん。今日もポスター作りかい?」
「やぁパン屋さん。おいしくいただいてますよ」
もう殆ど無くなってしまっていたパンを挙げて笑顔を向ける。なじみのパン屋さんだ。
「いやぁ・・・よく解らないけど、大変だねぇ。文字なんてどこに書いてあっても同じだろう?」
「いやいや、そんな事無いですよ。インパクトなんかは重要ですからねぇ」
「ふーん・・・そんなモンなのかねぇ」
パン屋さん、と呼ばれた男がポスターを両手で掴みまじまじとその今風の十字架を眺める。
「あの・・・・」
「あぁ、悪いね。最近目が薄くなっちまってさぁ」
「いや、それはいいんだ。それよりもさ・・・・」
「うん?」
「その手・・・・・」
「手?」
ポスターを持ったまま、自分の手を見るパン屋。それは紛う事無く42年付き添ってきた自分の手だ。
「いやーなんといいますか・・・職人の手っていいますか・・・がっしりしてますねぇ」
パン屋は、一瞬だけキョトンとして
「わはははwそりゃ毎日修行ですよ。今までも修行、これからも修行w」
と言い、機嫌よく笑いながら立ち去った。その後姿を、予譲はなんともいえない優しげな目で見送り、見えなくなるとまたポスターに向かって悩み始めた。

その晩、パン屋は事故で両手に大怪我を負う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
翌朝、毎日立ち寄ってコーヒーとパンを買っていたなじみの店が開いてなかった。
「あら予譲さんおはよう。パン屋さんねぇ、事故でパン焼けなくなったんだって。」
「えぇ!?事故・・・・ですか・・・・。どれくらでまたあの美味しいパンが食べれるんでしょう・・・・」
「さぁねぇ・・・リハビリとかしなきゃダメらしいよ」
「そうですか・・・・」
八百屋のおばさんに店が開いていない経緯を聞き、やっぱり薦められた野菜を丁重に断り、予譲はその場を離れた。

結局、長年染み付いてきた習慣が突然抜ける事も無く、コーヒーを求めて店を覗いて周る。いつもとは違う店で気分を買えてカフェオレを頼み、ドーナツを2つ買って店を後に。
するとその店から見える路地に、風船が束ねられているのが見えた。
「?」
いつもはまったく気にしていなかった路地。裏路地では無く、何店かの店も見える。
その店舗の前に、朝日を反射して輝く風船の束が気になった。
「時間は・・・・・」
時計を見やる。大丈夫、出勤まではまだ暫くあるし、何より騎士団官舎は目の前だ。
ちょっと見ていく事にした。

大通りから路地に入って店舗数で言えば3店、民家も含めると5件目にその店はあった。
わざとたどたどしい字で書かれた店名の看板、木製の新しい扉。
その扉の脇には、大通りからでも見えた風船の束と、チラシが積み上げられている。
「んーと・・・?」
チラシを一枚手に取ってみる。そこには
『本日オープン!アルベルタ大阪で腕を磨いた店長があなたの髪をヤングな感じに!今なら騎士様、聖導騎士様に限り30%OFF!!』
と書かれてあり、その文字の下には各種料金が書かれている。
無意識に自分の髪の長さ・・・・ショートに入るのだろう・・・の料金を見てみる。
「ふむ・・・・・」
ちょっとお高い。いつも髪を切ってもらっている美容院よりは200円ほど。
しかし、いつもの美容院は少し遠い場所にある。騎士団官舎の前にあるのは非常に有利といえた。
広報とはいえ、ポスターを貼る場所に挨拶に行かなければならない事もある。そう言った場合、美容院に立ち寄って髪を直してもらったりもする。
その度に毎回あの美容院までいくのは・・・・・面倒だった。
それにアルベルタ大阪といえば商業激戦都市と言われる所だ。そこで腕を磨いて来たと言うのであれば、腕の方は信用してもいいかもしれない。
よし、ちょっと昼休みにでも覗いてみようか、なんて考えていた時、店の置くから一人の女性が椅子を抱えて出てきた。
「あ、予譲さん!おはよう!」
その女性は、栗色の髪をストレートに腰まで伸ばした、少し背の高い綺麗な・・・というよりはカッコイイといわれるタイプの女性で、その笑顔は朝日を反射する風船に負けないくらい、輝いていた。
「うん、おはよう。この店は君が?」
看板を見て、女性を見る。
「そう!ついに独立開業!!!っく~長かったぁ!!」
目をぎゅっと瞑り、ばっとひまわりの様に笑う。きっと長い修行時代を思い出していたのだろう。
「ほーう・・・腕の方は確かなんだろうねぇ?」
「朝一から試してみるぅ?お客さん第一号の名誉と、すんばらしい髪型を提供しますっ!」
元気いっぱいの笑顔を見ていると、憂鬱な出勤が少しだけ楽になった。
「いや、もう遅刻しそうだからね。昼休みに寄らせてもらうよw」
チラシをバッグに入れて踵を返す。
背後から「絶対だよー!」と声が聞こえた。


「ここはもうちょっと・・・そう・・・・それくらい・・・・」
「・・・でここは・・・・このくらい?」
「そうそう、あ、そこはあんまり切らないで!」
昼休みに覗く、と約束した通り昼休みに店に行き、そのまま今は大きな鏡の前。
元々は髪を切る気なんてなかったのだが、まぁこれからまた新しいポスターの委託先に行く事もあり切って貰うことにした。
・・・・・なんとなく強引に押し切られた気がしないでもないが。
しかしまぁ、この腕ならば文句は無い。
「・・・・はいっ!完成!!」
ばさーっと胸にかけられていたクロスを大仰に取り去る。
「ちょーっと若者っぽくしてみたけど・・・・仕事に差し支えはないよね・・・?」
おっかなびっくり言っているそぶりが可愛らしい。
「んー・・・まぁ実際まだ若いしwこのくらいなら平気だよw」
鏡の中、緩急のついたショートヘアになった自分をまんざらでも無い様子で眺めて言う。
「はぁぁぁぁ、良かったぁ・・・・短くは出来ても長くは出来ないからねぇw」
本当に心配していたのだろう。安堵とともに自然と笑顔が漏れる。
「・・・・・・・」
「ん?どうかした!?どこか気に入らない!?」
知らず彼女の笑顔を凝視していたのだろう。
真顔で。
「いやいやいやw笑うと可愛いじゃん」
「おだててもお会計は4000zになりまーす」
自分は苦笑し、彼女はもう一度笑った。


その晩、美容師の彼女は事故に遭い意識不明の重体となる。


午前02時。
街の灯も随分と少なくなり、人の気配も薄くなった頃。
街の中心にある大教会の屋根の上、二つの歪みがほぼ同時に実体化した。
1人は男性。三つ揃えのタキシードにシルクハットといった少し風変わりな格好。
もう1人も男性。メガネに黒いスーツといったまっとうな格好。
シルクハットの男性は異常なまでに似合っていて、メガネの男性は異常なまでに似合っていなかった。
「毎晩毎晩熱心な事で・・・今晩もやってますよ」
シルクハットの男性が屋根の上に腰掛ながら話しかける。
「死者がでねぇって話だけども・・・本当か?」
メガネの男性も屋根の上にそのまま腰を下ろしながら問う。
「信じれないのも無理は無いですけどね・・・・あれで死なないなんて」
ぽさり、とシルクハットを取り、髪を風になびかせる。
その表情は、まるで夕涼みに来た様。
「しかし記憶を消し、傷を消し、暫くのリハビリを負わせる・・・か」
メガネの男性がぼりぼりと頭を掻く。
「さて、あの”能力者”の”能力”は恐らく記憶操作と感覚操作だと思われますがどう・・」
「恐らく?」
白手袋をはめた両手を顔の前で合わせて問いかけ初めていた男性の言葉を、メガネの男性の声が遮る。
「2週間監視して恐らく?」
似合っていないメガネの奥、双眸がもう1人の男性を貫く。
「・・・・はい。なにせ調査員が全て記憶喪失になってしまってましたから」
魂まで貫きそうな瞳におじける事無くさらっと言う。
「”能管”の調査員が全員なぁ・・・直樹、お前殺れねぇか?」
「無理ですね」
白手袋は即答する。
「今までの調査で解った事ですが、彼は球形に範囲200m程の結界を持っていて、結界内での記憶操作を無意識に行っています」
「無意識って事は・・・・寝てる時も?」
「ご明察です」
夜風に髪がなびく。
「どんなに威力のある武器を持って行っても、何をしに行ったのかわからなくなっては意味がありません。」
「200mオーバーの長距離射撃は?」
「彼はクルセイダーです。射撃は効かない」
「ディフェンダーか・・」
「ま、それで”ぐんそー”に来てもらったわけですハイ」
「仕事中は主任と呼べ・・・・にしても面倒くせぇなぁ・・・」
メガネの男性がまた頭を掻く。
『無い無い無い無い・・・・どこにも無い・・・これじゃない・・・・』
直樹と呼ばれた男性が歌うように口ずさむ。唇を読んだのだろう。
「宝探しなら地面でも掘ってろって・・・・」
メガネの男性が吐き棄てるように言う。

その視線の先。
少女が背中を壁に押し付けられ、腹を縦に切り裂かれている。
目には大粒の涙。口には手が添えられており、きっとうめき声しか出せない。
そして腹の中に手を突っ込まれ、掻き回されている。
何かを手探りで探すように掻き回しているのは背広の男性。
背広の名は、予譲と言う。



Mirage-knight-cavalier02 Max end 
2006.05.30.Tue / 19:38 
ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
ぱらぱらりと葉を風が揺らす音。
次に温度。
肌に纏わりつく空気の密度。心地よい密度。
そうして『私』は眼を開ける。


「ううん・・・・」
見慣れた部屋の見慣れたソファで身を起こす。
ちょっとリラックスするつもりが寝入ってしまったようだった。座る前には陽の当っていなかった左腕に、今は陽光が窓から注がれている。
大して眠ったつもりは無いけれど、それでも一時間は経ってしまったかもしれない。
幻影騎士団の砦、そのリビング兼食堂にある海猿のソファは寝心地が良い。クッションはわらびーが持ってきたものだけれど。
そんなに高価なモノでは無いと言っていたから、私も購入しようかな・・・。
あ、でも今月は思ったより出費が激しいしなぁ・・・うーん・・・まぁいざとなれば色々やり方はあるし・・・うーん。
そんな事をソファで足をぶらぶらさせながら考えていると、目の前に2人の男が向かい合って座っているのが見えた。
「ふ・・・中々やりますな、無影卿」
「ふふ・・・ジャギ卿こそ中々のお手前で。このポーン等気品すら感じる。」
ジャギと無影がタキシードでチェスをしていた。
私は卒倒した。

「おっと、みるきー嬢が眼を覚ましましたぞ、ジャギ卿」
「ふむ、しかし今また眠りに落ちているようですが?」
0.5秒で覚醒した。
しかし・・・今日はハロウィンであっただろうかいや違う(即否定)
自分の記憶が途切れたり改竄されたりすることはありえない。
「ジャギに無ちゃん・・・・なんて格好でなんてものをしてるの・・・・」
未だに伏し目がちに問う。直視するとまた卒倒しそうだったからだ。
「ウップス。無影卿、これは如何な質問か?」
「ふむ・・・・寝覚めが悪かったのかもしれませんね・・・お嬢、体に変調はありませんか?」
無影が胸にさしたハンカチ(白)を颯爽と目の前に差し出してくる。
条件反射で受け取ってしまい、口を覆うとほのかに薔薇の匂いがした。
私はまたも卒倒しそうになる。
「ハハハハハ、無影卿は嫌われた様ですな」
「なんと・・・・レディ、私めに何か粗相がございましたか?」
さも心配だといわんばかりの顔でこちらを見る『無影卿』
それを面白がってお上品に茶化す『ジャギ卿』
わけがわからなかった。
「無影卿、どうにもみるきー嬢の具合が悪いらしい。チェスは一旦置いて・・・」
「むむ、ジャギ卿、それはなりませんぞ。貴族と貴族のチェスは謂わば戦のようなモノ。それを差し置く事はまかりなりませんぞ」
僧兵と精錬師の成れの果てだろうが・・・。
「然り、だがそれでも真の貴族とはレィディを第一に尊重するモノでは?」
「それはもちろん!しかし目前の戦とレィディとは秤にかけられぬ・・・」
「・・・・チェスを続けて・・・私はちょっと席を外します。」
とりあえずこの異空間から離脱する事に決めた。とゆーか、長くいると命に支障をきたしそうだ。
席を立って出口に向かう。そこで、まだ左手にハンカチを持っている事に気がついた。
「あ・・・これ・・・」
洗濯して返そうなんて上品な事はこの砦の者には必要ないだろうと考え、机の上にでも置こうとする。
「OH!それはレディへのプレゼントですよ。ハンカチをレディに返されるなぞ、生き恥にしかなりませんからなぁ」
「ハハハ!無影卿の言う事には一理も二理もありますなぁ!ハハハ!」
何も考えないで周れ右。
どうも異星人の会話に思えて仕方ない。
ハンカチ(白、薔薇の香り)はリビング兼食堂の出口にあるゴミ箱に捨てることにした。

部屋を出てすぐに、廊下の先からドスドスと音を立ててわらびーが歩いてくるのが見えた。
「む!わらびーめ!」
「お、みるきか!!!!」
どうにも『!』の数がいつもより多い気がする。そしていつになく大声な気がする。
「なんだなんだ!元気いっぱいだな奴隷野朗!!」
とりあえず街に出ようと考えていたので、足にする事にした。
「奴隷野朗とは挨拶だな!!がはは!まぁいい、ちょっと待ってろ!!!」
お前は誰だ。
そんな単語が脳裏を掠める。
そしてわらびーは一つの部屋の扉の前で立ち止まり
「弟者ああああ!!!勝負じゃああああああ!!!!」
私の鼓膜をぶち破るつもりとしか思えない雄叫びを上げた。
「こ、殺す気かわらびーめ!!!」
足を蹴って見る。
タイヤを蹴ったような感触がして気持ち悪くなって引いた。
「兄者かああああああ!!!?懲りん男じゃのおおおぅううううううう!!!!」
間髪入れずに部屋のドアが内側からぶち破られ、中からロキが現れた。
なぜかタンクトップ一枚で、マッチョだった。
私は卒倒した。

「おおお!?どうしたみるきー!」
倒れる寸前にわらびーにがっしりと体を支えられる。むちゃくちゃがっしりと。
気持ち悪くなってまたもや0.5秒で覚醒した。
「がはは!みるきーの顔を見よ兄者!嫌がってるぜ!」
「馬鹿な!ワシのこの丸太のような腕が気に食わんと!?」
「兄者の腕には美しさがまったくない!美しいとは・・・・」
ぐぐぐっと腕を曲げるロキ。その腕に幾本もの筋肉の筋が浮き上がる。
「こうゆーことだー!!わはははは!!!」
「気分が悪いからちょっと・・・」
もう此処に居てはいけないような気分になってきたので、足早に去る。
背中から声が聞こえる。
「今日こそワシが勝つんじゃあああああ!!!!」
「はっ!STRカンストのオレに兄者ごときが勝てると思うてかー!!!」
殴りWIZだったらしい。


隣の部屋でも男が2人椅子に腰掛けてTVを見ている。
”能力者”のTV鑑賞は珍しい。
既に電脳化をしているはずなので、脳内に直接映像を投影する事ができるからだ。
そしてその映像は他者と共有する事ができる。
「ちょ・・・おま・・・それは流石に・・・・」
男の1人、ノム3は何故かTVを見て赤面している。いや、初めて見る表情だからこれが赤面なのかどうなのかわからないけれど。
顔を真っ赤にして、両手で眼を塞いで(もちろん指の間から見ている)TVにちょっと斜めに構える感じ。
「うはwwwwwたまんねwwwwwwww」
もう1人の男、海猿はいつもスーツのくせに、今日はTシャツにジーンズを膝丈で切ったパンツと非常にラフな格好だ。
「ちょ・・・音くらい消そうよ・・・」
「ばかwwww音が無いと全然ダメだってwwwwwww」
顔を真っ赤にしてリモコンでVOLを下げようとするノム3に、それを力ずくで辞めさせようとする海猿。
TVに写っていたのはエロ動画だった。
しかも結構ハード目。
私はry
「亜qwせdrftgyふじこlp;!?」
卒倒と覚醒をほぼ同時に起こし、手近にあるものを2人に投げつける。
「うわっ!ちょっ!ちがっ!違うんだって!海がこれ!」
「ちょwwwwおれのせいwwwwwwww」
手をぶんぶんと振って否定するノム3とゲラゲラと笑い続ける海猿。
投げつけるものが無くなったと同時に部屋から飛び出す。
まったく、こんな白昼に何をやらかしてるんだあいつらはっ!!
この件ばかりは軍曹に言いつけてやろうと心に決めて、砦から飛び出した。




「ふははははっ!さすがのまじかるテッサと謂えど杖が無ければ手も足も出まい!!」
「・・・・くぅっ・・・・!!!!」
そっきまで晴れていた空がいつの間にか曇っていて、その空にはなぜかいつも着ている服を灰色に染めたバージルが浮かんでいる。
その視線の先には、1人のマジシャン少女が苦虫を噛み潰したような表情でバージルを睨みつけていた。
ちなみにバージルの目の下には不自然な程に黒いクマができており、まじかるテッサと呼ばれたマジシャン少女は不自然な程短いスカートを穿いて、金色の大きな鈴で金色の髪を纏めている。
「そぅれ!これでも食らえ!」
灰色バージルが中空で両腕を交差させると、まじかるテッサの足元にヒドラが八体も!?
「きゃっ!」
「ははははは!たっぷり可愛がってもらうがいい!!」
中空のバージルは超嬉しそう。
なんだこのエロゲーみたいな展開は。
あきれ返ってみている間にも、ヒドラの触手がまじかるテッサに伸びる!!!
その触手がまじかるテッサの足に触れる瞬間!
「いやーーーーーー!!!!!!」
ぼっかーん!!!
目をぎゅっと瞑ったまじかるテッサが叫ぶと同時に何かよくわからない強力な力がまじかるテッサを中心に爆発しヒドラを皆殺しにした!(句読点なし。一気にお読み下さい)
「えええい小癪な!!ならこれならば・・・・・ぬッ!?」
さっきの「ぼっかーん」で起こった土煙を両腕でばさばさとはらっていた灰色バージルの表情に緊張が走る。
土煙の中心から黄金色の光が漏れ出す。
だんだんと煙が晴れ、その中から出てきたのは・・・
「絶対・・・・絶対許さないんだからぁ!!」
額に謎の紋章を浮かび上がらせたまじかるテッサだった!
風でばたばたと不自然に短いスカートがなびくが、決してパンツは見えない。
「ぬぅ!!その紋章は!やはり貴様・・・・アトランティスの血を・・・!!」
もう設定とかどうでも良くなってくるような事を灰色バージルが無責任に叫ぶ。
「来なさい!!まじかるステッキ”愛羅武憂”ううううううううううう!!!!!」
まじかるテッサが右手を天に掲げると同時に、上空を覆っていた雲が円形に晴れ渡りそこから光り輝く黄金の杖が現れた!
『説明しよう!まじかるステッキ”愛羅武憂”は普段は海中深くに眠っているアトランティス帝国の武器庫に奉納されており、その帝国の王家の血を引く者の召喚に応じて空間両断跳躍能力を発揮してその手に現れるのだ!!!』
「だれっ!?」
目の前の展開に何もかもついて行けてなかったので、もちろん耳元で怒鳴られるなんて考えもしなかった。
「おれだったりして」
ジョンだった。声優使いまわしらしい。
「えーーーい!」
振り返ると、空中の灰色バージルにまじかるテッサがフロストダイバーの凍結を成功させている所だった。
「ぬぁぁぁ!!」
空中でカチンコチンに凍りつくバージル。それでも浮かんでいるのは意地か根性か。
「成敗!!」
すばばばばばばばばばばっ。
その氷結した灰色バージルにサンダーストームをぶち当てるまじかるテッサ。
「ぐうう・・・・おのれぇ・・・・・」
真っ黒こげになって、体の節々から火を噴く灰色バージル。爆発しそうな予感がした。
「このままで・・・・済むと・・・・思うなよおおおおおお!!!!」
どがーんっ。
やっぱり爆発した。
その爆発を背中に受けながら
「自己破産をして借金取りから逃げられても、私からは逃げられないわっ!!!」
まじかるテッサは決めポーズと決めセリフをきっちりキメていた。


軽い眩暈。
ああ・・・この感触はもうなんだか慣れてしまった・・・卒倒の予感・・・・。
今回は誰も受け止めてくれそうにないから、なんとか地面に着くまでに意識が飛びますように。
痛いのは



ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
何か単一の音。人の声?いや、これは人の怒号?
それと共に金属を何かで強く弾くような鋭い音。
次は嗅覚。
一度大きく吸い込んでしまったその匂いが鼻から離れない。
噎せ返るような・・・・・火薬の匂い。
まじかるテッサの魔法のせいかもしれない。こんな量の火薬は。
目が覚めたら・・・そうだ、軍曹に会いに行こう。のりちゃんでもねちゃんでもいい。
砦のみんながどうかしてしまったって、言いに行こう。
そうして『私』は眼を開ける。


「・・・・・るなっ!距離に気をつけて!!」
「馬鹿!頭を出すな!死にたいか!!」
目覚めは最悪。
心地もなにもあったもんじゃない、最悪の目覚め。背中にあたる何かが、金属なのか激しく背を刺す。
「・・・・・っつぅ・・・・」
顔を顰めて目をこじ開ける。
いきなり埃が目に入った。
「っつ・・・・」
目をこすろうと手を挙げて、その手が掴まれた。
「?」
「みるき・・・・良かった・・・気がついたか」
何かがこすろうとしていた目に触れる。見えないけど、柔らかい布のような感触。
でもその声には聞き覚えがある。
「・・・・わらびー?」
「おう、わらびーだぞ。みるき、さっきの爆発で気を失ってさ、中々覚醒しないから心配してたんだ」
「んむー・・・・わらびーめー・・・」
バチバチと何かが弾ける音、チキチキと何かが削れる音が絶えず聞こえてくる。
「むー・・・・夢を見てた・・・・」
目に当てられていたやわらかい布を手に取って、自分で埃の入った目を丁寧に拭う。
「ん?どんな?」
「んー・・・・ジャギと無影が貴族でわらびーとロキ君がマッチョでノム君と海君がエロ動画見ててテッサちゃんがまじかる少女でバージル君が悪の司祭だった」
自分で言っててやっぱり卒倒しそうな配役に我ながら感心する。いや、寒心か。
「ぶwなんだそりゃww」
ふき出すわらびー。そりゃ私だってそんなの聞いたら精神がどうかしたのかと思うけれど。
「笑うなっ!わらびーめ!」
ぽかりと殴ってやろうと思ってなんとか目を開けた先。
「あぁ・・・でも、その夢の方がよかったかも」
わらびーが涙の痕が残る顔で微笑んでいた。


「へっ・・・みるきが目ぇ覚ましてもなぁ。」
そのわらびーの後で、見慣れない兜が見えた。
「・・・・・まめちゃん?」
その兜のせいで一瞬わからなかったが、その左目の下の涙タトゥーは間違いなくまめちゃんだ。
いつもは『髪型が崩れるしダセェからしない』と言っていたまめちゃんが、今は無骨な兜を頭に載せている。
「よぅ、気がついたか」
ナイフを左手に持ち、そのまま手を挙げる。
私とわらびーとまめちゃんの背中には所々ささくれ立った鉄板が一枚。
全員その鉄板に背中を預けて、座り込んでいる状態だ。
「まめー、向こうの様子はどう?」
わらびーがまめちゃんの方に向いて尋ねる。
「あー、ちらっとしか見えなかったけどまだ海とピンクが見えたからニレは無事だろ。」
空いた右手で指す方向には、同じように鉄板が床に突き刺さっている。そこから確かにピンク色の髪がチラチラ見えていた。
「もう一つ向こうは?」
「わかんね。電通はこの距離だからな・・・盗聴してくださいって言ってる様なもんだくそったれ。」
ベーッと舌を出して悪態をつくまめちゃん。
状況がまったくつかめないし、2人の会話も意味がわからない。
とりあえず状況を確認しようと、中腰になって鉄板から顔を出す。
土煙と炎に包まれて見難かったけど、ソレはしっかり見えた。
床に伏せるけりたまの姿。上半身だけになって、既に光子化していたけれど。
「危ない!!」
わらびーが覆いかぶさるように床に引き摺り倒してきた。
そのままの状態で見た事を自分なりに考えてみる。
「・・・・・・・・・・・・」
呆然とした。一瞬だけ見た部屋の装飾からしてここは幻影騎士団の砦の中。しかも、この部屋の広さの規模は2Fの大広間しかありえない。
そこがこんなありさまで、けりたまはあきらかに絶命していた。
一体・・・どこのギルドが攻めて来たというのだろう・・・。
「どこのギルドが・・・・」
ついつい思った事が口に出てしまった。気にはしていない、してはいけない、Gvギルドなら人の死は当たりまえのものだと割り切っていた心が、けりたまの死に揺さぶられていた。
「みるき・・・・」
「はっ!”どこのギルド”だと?ハハハ、こいつ爆風で吹っ飛ばされてキオクソーシツになっちゃったらしいぜw」
有り得ない。自分の”記憶”は失われる事も改竄される事も捏造される事も無い。それはそういった仕組みだからだ。
”世界は起こった事を忘れない”のだから。
しかしそれでも記憶が無い。しかも、まったくだ。
目を覚ます前の記憶がはっきりしないのでは無い。まったく、抜け落ちている。
この状況での判断は不可能。情報が少なすぎる。それでもいくつかの推理はできたけれど。
「オレ達の敵はなぁ・・・・・ははは・・・・」
自虐的に笑うまめちゃん。自分でこれから言わんとする事がそれ程おかしいのだろう。
「”幻影騎士団”さ」
そういってついに爆笑した。


事の始まりは一通の電通。
『幻影所属のモノは2F大広間に集まるように』
とiwaokun名義で出されたもの。
丁度明日がGvだった為、その打ち合わせに集まっていたギルドメンバーの殆どと、”MI”から代表でマドラ・社が2F大広間に集合した。
そして、これからその打ち合わせが行われようとしていたその場で、iwaokunがいきなり言い放った言葉。
『皆には死んでもらうことになったでな』
これが全ての引き金だった。
最初その場に集まった人間は皆、Gvに備えて緊張しているだろうギルドメンバーに冗談の一つでも投げかけているように見えた。
が、そのiwaokunの雰囲気が、両脇にネッドとのりちゃんを従えた時にがらっと変わる。
一番最初に自我を取り戻したのはけりたまだった。
「散れえええええええええ!!!!」
叫びながら自身の能力を全開にして、大広間の内面を覆っている特殊装甲の壁を引き剥がして地面に立て、障害物にした。
そしてやっと皆が自我を取り戻し、その障害物に身を隠そうとした時、iwaokunの剣でけりたまは両断された。
一撃で。
その状況を目にしたニレコが飛び出し、そこにネッドの青い光線が走る。3本の光。
飛び出したニレコの危機を感じたジャギが、ニレコの腕をつかんで障害物の陰に引き戻し、その反動で自身が障害物の外に。
三本の光は違わずジャギの体に命中し、ジャギはその場で光子化して消えた。
それを見て逆上した社が槍を片手に躍り出て、それを援護する為にめぐが銃を構える。
めぐの機銃掃射をネッドとのりちゃんの2人がキリエで防いでいる間に社はiwaokunに接敵。その槍を振りかざす。
が、その槍がiwaokunの喉を切り裂くより一瞬先、”ザ・シルバー”のりちゃんの腕から銀色の細い糸が伸びて社自身を絡め採る。
そしてそのまま壁に貼り付けられた。
『社か・・・中々死なんからそのままでええでな』
「ぶーん」
のりちゃんが社に絡めていた糸の数を増やす。
シュコン。
めぐが3人にむけてグレネード弾を発射。命中爆破し、対象が煙に包まれる。
その隙により強力な火器を練成しようとめぐが手の銃を光に戻した瞬間、その胸に槍が生えた。
『煙でそっちから見えなくてもな、こっちから見えないとは限らんで』
めぐは絶命の言葉も無く、光になって消えた。
そしてその煙が晴れる直前、ノム3が右手から”ラグナロク”を発射。またもや爆発と、それに伴う爆煙で何も見えなくなった。
その時の衝撃で、私は意識を失ったらしい。


キンッ!
と酷く現実的な鋭い金属音で意識が回想と思考の海から引き上げられる。
そっと身を守っている障害物から顔を出すと、iwaokunに打ち込むマドラの姿が見えた。
そして、その少し後で光の束を撃つノム3の姿も。
平穏時には決して見ることができない2TOPだ。
キンッ!
また鋭い音。
マドラの剣をiwaokunの剣が弾く音だ。
『はははwこんだけ防げればマドラ流は免許皆伝だべなw』
「・・・・・・シィッ!!」 
斬檄のイメージが空を切る。
マドラの剣は通常の剣ではない。その”能力”を持ってして、既に攻撃というよりは現象に近い物となっている。
”限定空間内切断能力”
それはその空間に突然起こる”切断”という”現象”
故に、マドラの思考を読んでその現象の軌道を避ける、のならばまだ解る。
が、iwaokunはその剣を”受けている”
その”切断”は斬り始めと斬り終わりが無い。つまり、向かってきて遠ざかる、みたいなモノとは訳が違う。
マドラが思考して、”現象”が起こるまでコンマ数秒。
たとえ思考が読めていても、剣をその軌道に合わせるのは不可能に近い。
・・・・・iwaokunは未来視か思考制御ができるのかもしれない。
そこまで思い至った時、またわらびーに引き摺り倒される。
「わらびーめぇぇぇぇぇ!!!」
「だから危ないって!!」
すぐ頭の上、さっきまで自分の顔があった所を青い光線が通過する。
「・・・・わ・・・わらびーめ・・・・っ!」
ついつい声が震えてしまった。
がしゃんっ。
大きな音がして、金属音が途絶える。
懲りずに顔を出してみると、マドラの超大型両手剣が床に落ちて光になりかかっている。
そしてiwaokunの剣はマドラの体を貫通していた。
『攻撃はそこそこ。でも防御はからっきしだなおいw』
マドラの胸から蛍が飛び立つように光が漏れる。
「モイモイいいいいいいい!!!!」
社の絶叫が木霊する。
『うるせぇな。ねちゃん、黙らせて』
ネッドの右手が上がり、その腕から光の線が4本ほど社に向かって伸びる。
その瞬間、iwaokunの前にスマックが現れた。
”現れた”と表現してまったく語弊は無い。なんの挙動も無く、その場にたどり着いたのだから。
「”富嶽貫通”」
ただの右正拳に見える。が、その威力がただの正拳では無い事は”裏幻影”のモノならば全員知っている。
『おっ』
驚いたように反射的に挙げた左手に、スマックの”富嶽貫通”は受け止められる。そのまま拳を握られた。
「・・・・・・・・ちぃ・・」
「スマァァァァ!いくぞおおおおお!!!!」
スマックの舌打ちと同時に御影が障害物から飛び出し、光に包まれた両手をかざす。
御影の得意技、マグヌスエクソシズムの五乗掛け。
その詠唱を中段させるべく、ネッドが光線を放つ。が、その光線は御影に当たる直前で捻じ曲がった。
「今のオレには聖属性攻撃はきかんっ!!」
御影の体に浮かび上がる”聖紋”がそうさせるのか、指向性しかないはずの光線がぐにゃりと曲がっては目標からはずれる。
『司君、まだスマ君はオレの手の中だで?一緒に殺す気か?』
iwaokunは先程掴んだスマックの手を開放していない。
「そいつに聞いてみるといい!」
既に光の方陣を3つ完成させた御影が吼える。
スマックの体の中心は、星を閉じ込めたように光っていた。
『ふーん・・・”士魂”か』
”士魂”はスマック最終奥義。自爆である。
威力の程はわからないけれど(自爆なんてした事なくて当たり前だが)この砦くらいは地上から消滅させてしまうだろうとの事。
根拠も何もないが。
『二重の捨て身攻撃か・・・・おもしれぇw』
ネッドは両手を合わせて10本の光線を御影に向けて照射。全て捻じ曲がってしまい、命中しない。
「効かんと言っているだろう・・・がっ!?」
「うちもおるよ」
4つ目の方陣を完成させて、ネッドの光線を捻じ曲げて居た御影の胸に銀色の糸が4本貫通する。
方陣は光を失って消えてゆく。
「・・・・・司っ・・・・・!」
振り返って崩れ落ちる御影にむかって言ったその言葉が、スマックの最後の言葉になった。
『おもしれぇけど、これでおしまいだで』
空いた右手が易々とスマックの体を貫通する。その血まみれの手には・・・・・スマックの心臓。
2人は同時に体の中心から光になった。
「司っp・・・すまっp・・・・・」
わらびーが歯軋りをする。その顔の部分のやや下に青い光線が着弾、ネッドが顔を出すのも容赦しない。
「これで”幻影騎士団”も終わりだな・・・・へっ、それともあの3人がいれば”幻影騎士団”ってかwわらえねぇw」
まめちゃんがガムを噛みながら履き捨てるように呟く。
『おいおい、前にいるのノム君だけになったで?助けにこねぇとw』
「みるるー!おいでー。うちと遊ぼうー」
「海君、相棒死んじゃったなぁ!どうする?なぁ、どうする?」
”最強の幻影”と”緋色の瞳”と”銀色”が談笑するように語り掛けてくる。
『どうせならお前等、一斉にかかってこねぇ?もう飽きちまったでな、それにみんなで”うおー!”って来れば勝てるかもしれんでw?』
笑みを含んだ声が苛立ちを誘う。
「そうだよ・・・まめちゃん、軍曹は範囲攻撃を使ってない。もしかしたら範囲攻撃は持ってないのかも」
「ばーか。そんな仮定だけで命を晒せるかっつーのwまぁどの道待ってても緩やかに全滅するだけだけどなwだから・・・誰か踏み出すだろうよ」
最初は楽しそうに喋っていたのに、最後の方はとてもつまらなさそうだった。
とても。
のりちゃんが右手から伸びる糸で社を押さえつけながら左手の糸で障害物を撫で斬りにし始める。
ノム3はiwaokunへ集中砲火。ネッドの対爆対炎対冷対地防壁を一枚一枚剥がしにかかる。
iwaokunはその前身に対魔法防壁、対魔法耐性障壁を作り状況を見ている。
ネッドの青い光線が一枚の鉄板に当たり、そこに穴を穿った時その雄叫びは上がった。
「しあああああぁああぁぁぁぁぁ!!!」
ヴェルトが両手に持てるだけのナイフを持って鉄板から飛び出す。
その影には同じくナイフを両手に構えたデッドが潜む。
と、同時にまたiwaokunの前に人影が”現れる”。
『お、やる気になったか』
「いや全然。死ぬの怖いに決まってるでしょうがw」
無影が巨大な斧を持ってiwaokunに立ち塞がる。

「ちっ・・・ほら言わんこっちゃねぇ」
まめちゃんが指した先は丁度ヴェルトが飛び出した先だ。
「まめちゃん、オレらも・・・・・」
わらびーが騎兵剣を握りなおす。
「あーあ、どうせ勝てやしねぇってのに・・・まぁ最後くらい派手にやっか。おら、行くぞ」
中腰になったまめちゃんが走り出す。鉄板の外・・・・地獄に。
「うん・・・みるき」
急に紳士な目で見られてびっくりする。
「みるきはここから出ないで。誰か・・・きっと誰かがなんとかしてくれるから。頭下げて、顔出さないでね」
「わ・・・わらびー・・・わらびーめ!」
わらびーはズレる兜を直しながら、まめちゃんの後に続いて走り出した。
地獄へ。
丁度2人に先行する形で海猿が鉄板から飛び出す。そしてネッドの青い光線を一手に受けた。
が、その光線は全て体に当る手前で捻じ曲がる。
大気の精霊に干渉して、光の屈折率を変えたのかもしれない。


そして、今立っているのは”最強の幻影”と”緋色の瞳”と”銀色”と”盤上のACE”の4人のみ。
奇襲はあっさりと迎撃され、一人一人確実に殺されていった。
今最後に死んだ海猿が光に帰ろうとしている。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
無限機関を搭載しているはずのノム3が肩で息をする。先程の奇襲に合わせて”ラグナロク”を連射したからかもしれない。
『まぁ・・・思っていたより楽しかったでな』
もうiwaokunの周りには対魔法防壁も対魔法耐性障壁も無い。ネッドの支援防壁すら無い。
ただ剣を体の前で地面に刺し、両手を柄に乗せてノム3を見る。
その眼差しは驚く程穏やかだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
がしゃり、と未だシュウシュウと音を立て、煙の立つ右腕を上げるノム3。
『これで、終わりだで』
その頭に、iwaokunの剣が振り下ろされた。

そして私の意識は暗転する―


結局、『私』は色々な世界に意識を持って飛び込んだ。
ノム3がおかしくなってしまう世界。
ヴェルトがおかしくなってしまう世界。
テッサがおかしくなってしまう世界。
バージルと海猿が2人同時に殺戮を開始する世界。
わらびーがおかしくなってしまう世界。
みんなが狂ってしまった世界。
その中でも一番多かったのが、”iwaokunとのりちゃんとネッドが幻影騎士団を殺戮する世界”だった。
概要は同じ。
幻影騎士団が集められ、iwaokunが殺戮を宣言。
そこから少しだけ違っていたりする。
最初にけりたまが障害物を呼び寄せるのは高確率で起こる事なのだが、その後うまくiwaokunの攻撃を回避して生き延びる世界。
もちろん、最後には全滅してしまうのだが。
そして、これもあまり関係は無いのかもしれないが、幻影メンバーが死ぬ順番がちょこちょこ違う。
ジャギがニレコを助けなかったり、スマックが先に死んで御影が逆上したり、海猿が最初に死んだり。
そんな、死の世界を何十回も見た。
けれども、その中でiwaokunが倒れる事は結局、一度もなかった。

そして、幸せな幻影騎士団もまた、一度もなかった。


ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
ぱらぱらりと葉を風が揺らす音。
次に温度。
布地を透過して感じられる人の体温。柔らかい暖かさ。心地よい感触。
そうして『私』は眼を開けた。

「ん?みるるー、目が覚めた?」
優しい声が降ってくる。
そして頭の下には柔らかい感触。
すぐに膝枕をされている事に気がつく。
「ん・・・・んんー・・・・・」
陽光が目蓋を貫いて眩しい。
「うぁー・・・幸せそうに寝てやがんなぁ・・・落書きしていい?w」
「ダメダメ、ねちゃんはいつもそんなことゆー」
ほっぺたを抓られたお陰で意識が急浮上する。
「ほらー、起こしたー」
目蓋をぎりぎり開いた先には、逆光でシルエットだけになったのりちゃんが見えた。
「んぐ・・・・・夢見てた・・・・」
くしゃっと顔をのりちゃんの太ももに押し付ける。暖かい。
「夢?どんな夢?」
「悪い夢・・・・とっても酷い・・・・夢・・・・」
そこまで言って今まで体験した『夢』の内容を思い出す。
「Σ」
「きゃあっ!」
膝枕の上で緊急起動。のりちゃんはびっくりしてのけぞってしまった。
「おお?」
ネッドも驚いてこっちを見ている。
「ここはっ!?ここはどこ!?」
現在地の確認。青空が見えるという事は、砦の庭かもしれない。
「え?幻影砦の庭・・・だけど?」
のりちゃんとネッドは芝生に直接腰掛けていた。
そのすぐ近くにランチボックスが4つ。
「おらー!フルハウスだ!どうだ!参ったか!!」
「ぬぅ・・・ワシは2ペア」
「オレなんてブタ・・・くそぅジャギめ・・・やるな」
「あーあ、おれもブタだー。くっそーついてねぇなー」
砦の中、一番庭に近いあたりからジャギや海猿、ヴェルトの声が聞こえ、カードを持って騒いでいる姿も見える。
「こうですの?こうすればいいんですの?」
「いやーおれパラディンだからなぁ・・・まぁそれでいいんじゃないかなぁ・・・」
「スク水でやればもっと良いんじゃないか「やあっ(はーと)」
「ジョンの阿呆・・・・」
少し離れた芝生の上で、わらびー一家が養女にナイフ投げを教えている。
ジョンとロキは芝生の上に座り、それを近くで眺めていた。
柔らかい陽光にピクニック装備のメンバー。
この『世界』は・・・・・
とても幸せそうな『世界』。
でも、先程言ったように今まで見た”幻影騎士団”に幸せがあった事は無い。
この風景も何度が見た。そしてこの幸せな風景は、これから壊れるのだ。
1人の暗殺者の手によって。
「・・・・iwaokun・・・軍曹はどこ!?」
がばっと身を乗り出し、反り返ったのりちゃんの眼前まで近づく。
「え?多分執務室にいると思うけど・・・・あ!みるるー!」
『執務室』と聞こえた辺りで駆け出す。もし私が見たことのある『あの世界』なら急がなきゃいけない!
「もう・・・ちょうどお昼時なのに・・・・」
無念そうなのりちゃんの声が、背中に痛かった。


カッカッカッカッカッ!
赤いピンヒールが砦の床を刻み、廊下にけたたましくその音が反響する。
走るのに向いていないその靴がもどかしくなり、その場に脱ぎ捨てて裸足で駆け出す。お気に入りだったんだけどなぁ・・・
そして息も絶えかけた頃、やっと執務室の前についた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋の外からでもわかるこの存在感。間違いなく幻影騎士団・団長iwaokunはこの中にいる。
何度も何度も、ギルドメンバーを殺戮した”最強の幻影”
扉に触れて押し開けようとした時、扉は勝手に開いた。
誘われる様に、中に入る。

『なんだ、みるきか。只事じゃない気配だったで、びっくりした』
陽光が差し込む執務室の中、iwaokunはいつもの馬鹿デカイ机の上で手を合わせ、こちらを見ている。
その手の脇には、まだ湯気の立つカップが一つ。
いつも天井に届けといわんばかりにそそり立つ書類の柱は、今日は無い。
だからか、iwaokunはいつもよりやわらかな表情をしていた。
「iwaokun・・・デッドは?デッドがどこにいるか、知らない?」
そう、私が見た『夢の世界』でこの幸せをぶち壊しにするのはただ1人の暗殺者・・・デッド。
彼はいきなり砦の庭に現れると、その能力”Air”で瞬く間にわらびー、アルセリーナ、エレナ、ロキ、ジョンを毒殺する。
そして、砦での乱戦。
ピクニックはぐちゃぐちゃに汚された。
『デッド?んー・・・周囲5kmにはおらんで。どうかしたか?』
わかるらしかった。
デッドはいない・・・・それでも安心は出来ない。
誰がいつおかしくなるか、わからないからだ。
「ねぇiwaokun・・・・あなたは、なんで幻影騎士団を作ったの?」
時間が惜しい。何か起こってからでは遅すぎる。その為に繰り出した、色々な意味を含んだ最強の質問。
今まで軟らかだったiwaokunの顔に、一瞬だけ緊張が走る。それもほんの一瞬の事で、また軟らかな顔に戻った。
『まぁ・・・・みるきは知ってるだろうから言うけどな。おれは”能力管理委員”のモノだで』
言いながら眼鏡を取るiwaokun。
”能力管理委員会”知っている。
それは表向きは存在しない事になっている特務機関。裏の機関まで知っている者の中でも、ごく一部しか全容を知らない特務中の特務。
その活動内容は”能力者の管理・運営・処分”
管理とは”能力者”の数と個性を調べ、その位置を常に把握する事。
運営とは”能力者”に王都を助けるような仕事を秘密裏にさせる事。
処分とはX(シングルエックス)以上と判断された”危険能力者”の暗殺。
この三つ。
『ほら、そこの窓からエレナがナイフ投げして遊んでるのが見えんだろ?』
指差された窓から庭を見ると、確かにそこにはわらびー一家が遊んでいるのが見える。エレナは楽しそうに笑っていた。
『エレナはXX判定を受けている』
「え?」
おかしい。確かに、彼女の才能と能力は恐ろしいモノがある。XX(ダブルエックス)判定も頷けるものだ。
しかし、それならば既に”能管”に処分されていなければおかしいのだ。
『エレナだけじゃないでな。庭にいるアルセリーナ以外全員・・・もっと言えば、幻影騎士団所属のメンバーは全員がX判定以上を受けている』
なんて事だ。
それならば、ギルドメンバー全員が処分対象になっている事になる。
『しかもな、うちのメンバーは殆どがその精神が重篤な者ばかりなんだ』
精神が重篤・・・・・・。
今までに見た『夢の世界』でおかしくなってしまったメンバーを思い出す。
それは例外無くギルドメンバーに起こっていた。
『さて、いくらみるきでもここまでだで。後は自分で判断してくれ』
カップを傾け、まだ暖かい液体を口に含むiwaokun。
「iwaokun・・・私はiwaokunがネッドとのりちゃんと一緒にメンバーを虐殺するのを”見た”」
『・・・・・・・・そうか』
「何度も何度も・・・・・それを”見て”きたっ!」
『そうか・・・・・辛かったな』
反論しない。それはiwaokun自身、その可能性がある事を示唆する。
『でも・・・・・』
言葉を続けるiwaokun
『この世界に虐殺は無い。保証する。おれはやる気無いし、メンバーの誰にも変調は起こってない』
庭から楽しそうな声が聞こえてくる。
そこではまだピクニックが続いていて、わらびー一家にネッドとのりちゃんも加わっていた。
柔らかな日差しに、心地よい風。芝生の緑っぽい匂いが運ばれてきて。
やっと見つけた、幸せな世界。
『なぁみるき・・・・”この世界”でやっていかないか。この世界には辛い事は無い。みるきを傷つけた色々な物は・・・無い』
窓の外、庭ではみんなが楽しそうにはしゃいでいる。
正直を言えば、さっきから混ざりたくて仕方無い。傍らにおいてあるランチボックスを見た時、きゅうとお腹が鳴った。
「う・・・・・」
うん、と頷こうとした。『この世界でやっていきたい』と。早く庭に出て遊びたかったし、お腹も減っていた。
何より、あんな残酷な世界をもう見たくは無かった。
そして頷く瞬間、フラッシュバック。
風にさらわれるように消えた社。
けりたまの壮絶な死。
ノム3の散り様。
ニレコの悲痛。
愕然とするわらびーの顔。
全てが一瞬で映り、そして消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメ」
擦れる声で誰にも聞こえないように呟く。
『どうして?』
それでも目の前の魔人には聞こえてしまったようだ。
そう、”どうして?”
自分は幸せを求めて夢を見続けた。そしてそれはここにある。
みんなと遊びたい。お腹も減った。
残酷なのはもう嫌・・・・・・。
なのに”どうして?”
もう先程のフラッシュバックは起こらない。
今なら全然言い直せるだろう。
けれど。
「私には、やる事があるから」
前だけを向いて、恐ろしいiwaokunの目を真っ直ぐに見て、自分で決めた。
『・・・・・・・・・そうか。』
iwaokunはうっすらと笑って、手近な紙を一枚手に取る。そしてその上にペンを走らせた。
『ほれみるき。仕事だで。』
そして、書き終わった紙を机の上で滑らせる。
『今度はおつかいじゃないでな。しっかりやれ』
手に取った紙には
”帰還命令:元の世界に戻って、やるべき事を成せ”
「うんっ!」
白いワンピースの少女は、くしゃっと指示書を握りつぶして『この世界』から消えた。数滴の涙を、煌かせて。

「・・・・・行っちゃった?」
執務室の入り口でのりちゃんが部屋を覗き込んでいる。
『あぁ、行ったで。』
その言葉を聞いて、部屋の中に入ってくる。
「あーあ、あのみるるーもかーいかったのになー」
『仕方ないで。そうなる事だったんだし』
「とかなんとか言って心配してるくせにー」
『手がかかる子程可愛いって言うでなぁ』
2人は執務室の中で顔を合わして笑った。



ぼんやりとした何か赤いイメージ。
それは部屋のようでもあり、赤色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。いや、『今の私にとっては』か。
何もかもを隠し、でも本当は何も無い。そんな寂しい色。
どこまでも、どこまでも―

沈殿していたイメージは無い。
だから意識が浮上した感覚も無い。
右手にはキラキラと光に帰ってゆく”指示書”。
赤錆を連想させる大地を、同じく赤焼けに焼けた空から見下ろす。
そこには白亜の砦。今は所々に焼け焦げた痕の残る、幻影騎士団の砦。
その屋上で1人の・・・いや、一体が半分になったモノが慟哭する。
「あああああああああ!!!!痛いっ!感覚を遮断した筈なのに痛い!なんだ・・・・この痛みは・・・・そして・・・なんだこの液体はああああああ!!!!!!」
顔を半分削ぎ取られ、体はボロ布のマントのみになったロキが、残った目から”液体”を流す。
その目の前には・・・・人一人分の・・・・残骸。
「オレはこいつを知っていた?馬鹿な。会った事も・・・見た事も・・・ぐぅ!!」
半分になった頭を半分になった片手で覆う。
「知っていた・・・いや・・・知っている・・・!?でも・・・わからない・・・・」
その残った目から零れる”液体”を拭われもせず、残骸に降り続ける。
だからそっと耳に呟く。
『ノム3』と。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ロキはその場所から消えた。
残るのはノム3の残骸のみ。
その残骸を左手で一掴みする。
「・・・・・・・・・・・・ノム君・・・・・・・・」
それは持って行く事にした。
どんな物でも、遺体には代わり無いのだから。
右手に握った紙が、殆ど光の砂になって消える。
けれど、そこに書いてあった文字の意味だけは消えない。

「私は、やるべき事を成す」
助け出すのがお姫様じゃないのは、この際ご愛嬌だっ!!
Mirage-knight-cavalier01 
2006.05.28.Sun / 23:01 
「だからよぅ、オレは言ってやったのよ、チェンジ」
スペードのジャックとハートの8をテーブルの上に捨てて、配られたカードを開く。
「・・・・ッデム・・・」
「あぁ・・そのジャックがあれば・・gg」
「用があるなら幻影の砦に来いってよっ・・・もっかいチェンジだっ!」
投げるようにクラブの2とダイヤの5をテーブルに捨てる。
「ジャギよ・・主はなんでも看板かけすぎじゃ・・・わしは良い。コール」
「あぁ・・・そのクラブの2があればぁ・・・ggg」
「んだよー、仕方ねぇじゃん。オレここに住んでんだし。ってコールかよ・・・なんでたった5回のチェンジで手が揃うんだよ・・・」
「わしは3回しかチェンジしとたらんがの」
「おれはもうおっけー。かかってきなさい」
「海はポーカーフェイスなのに良い手が来るとロッキンチェアーを揺する癖を治すがよい・・・」
「ばっ!あいすんあいすん!そんな癖無いよ!作らないでよ!」
「わははっ!うーみー、次から勝負だぜーw」
「今回は?」
「うるせーっ」
「んん・・・・おれはどうすっかなぁ・・・やっぱチェンジ」
「はいはい」
海猿が捨てられたカードの枚数を横目で見て、同じだけのカードを配る。3枚。
「Vやんは手堅いよなぁ・・・ってポーカーで粘るのを手堅いっつーのかわかんねぇけど」
うあーっとソファーにもたれかかるジャギ。陽光が目にかかってまぶしい。自分の手もまぶしいばかりの・・・・ブタ。
「うしっ、これならいけそうな気がしてきた。」
ぱたりこ、とカードを伏せる。
「まぁジャギがブタだから最下位はなかろうて・・」
「ちょ、ばかっ!おれはすげーよ!?すげー手だからよっ!もっかいチェンジしろって。しろってーーーー」
言い始めと言い終わりでテンションが全然違った。もう諦めたのかもしれない。
窓際の陽だまりL字ソファでだべりながらのポーカー。
最下位のモノは上位すべての人間に10k支払いのペナルティ。
平和な休日の、暇潰し。
「じゃあみんなおkだね?チェンジなしだね?」
海猿が自分のカードを手に取る。カードを見た瞬間、やはりロッキンチェアーは揺れたかもしれない。
「あーいーよいーよ、ほれ」
ばららっとテーブルの上に手を晒す。・・・・・・やっぱりブタだった。
「ジャギぃ・・・オープンって言ってから手は出せよぉ・・・ったくしょうがないなぁ・・・オープ」
「ちょっと待った。」
「お?」
「ぬ?」
「うぇ?」
カードの開示を止めた者以外が変な声を出して挙動を止める。
それは・・・
「Vちゃん、どうかした?トイレ?」
陽だまりが一部だけ影になった場所にいた、ヴェルト。
「いや、ちょっと連絡が入ってね。すぐに出かけなきゃいかん」
今までソファと一体化していたジャギが元気に起き上がる。
「んだ?揉め事か?」
「主はそーゆーの好きじゃのぅ・・・」
アイスが呆れた目をジャギに投げかける。
「いんや、ぐんそーがね、お呼び」
右の人差し指でコメカミをトントンと叩きながら憂鬱極まりないといった感じのヴェルト。
さーっと顔色が白くなるモンクとチャンプ。
「そ・・・そりゃ急がないとねっ!」
「お・・・おおっ!やべーぜ!ぶっ殺されちまうっ!」
「いや殺しはせんじゃろう・・・さすがに・・・」
「甘いっ!」
「あめぇっ!」
海猿から後頭部を、ジャギから逆水平チョップを食らうアイス。
「ジャギやんいつものゆったげてっ!」
「おう聞きたいかおれの武勇伝っ!」
海猿とジャギの即興コントが始まっていた。
「V、官舎まで”飛ぶ”か?」
そのコントを見事にスルーしてアイスが尋ねてくる。
「あ、いや、ついでに買い物もするからさ。ありがとw」
陽だまりから身を引いて、出口に向く。
日陰の中からの陽だまりはまた一段と輝いて見えて。
コントをする海猿とジャギ。それを苦笑しながら見るアイス。
掛け替えの無い仲間達も、やっぱり輝いて見えた。その情景を、一枚の絵のように心に書きとめる。
そしてその絵に背を向けて、ヴェルトは部屋を出た。

「おい、そういやポーカーどうすんの」
コントから我に返ったジャギが自分のどうしようも無い手を見ながら言う。
「そのままにしておけば助かったものを・・・・阿呆じゃのぅ・・・」
「せっかくだからオープンしよっか。最下位はジャギで決定だしw」
「うるせーっ!あ、わかった!!Vやん逃げたんだ!!オレのブタよりも酷い手だったから!」
ジャギがテーブルを飛び越えてヴェルトの居た椅子まで飛ぶ。
「いやそれよりも酷い手って・・・」
「ふへへへへへっ!しっかり徴収してやっからなあああああああwwwww」
テーブルの上に伏せられていたカードを捲る。
エースのスリーカードだった。
「なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!!!!!」



「おいてめぇ幻影のモンか?」
砦を出て直ぐ、変な男三人組に捕まる。
「へ?」
「てめぇ今この砦から出てきたろ?見てたんだぜ」
「おぅ、見てた見てた」
それはなんとも奇妙な三人組で、服装はなんか全身サイズオーバーなダボダボな感じ。
1人なんて作業着・・・とゆーかツナギだった。
ジャギかお前等。
「ここにジャギって馬鹿がいるだろ?おい」
胸倉を摑まれる。
「いやそりゃいるけども」
面倒だから抵抗もしないでおく。
「おれ達ぁそいつに用があるんだわ。ちっと呼んで来てくんね?」
ひょろ長い方が顔に凄みを(多分)利かせて顔を近付けてくる。
3人の胸には見たことも無いエンブレム。あー、これはあれか、さっき話してた奴等か。
「中に入って自分達で用件伝えればぁ?おれ急いでるし」
ぐっ、と体が持ち上がる。摑まれた胸倉が捻られた。
「許可無く砦に入ったら砦の防衛なんたらが作動すんだろぉ!?あぁ!?」
それは砦が無人の時だけだ。阿呆。
これで大体アタリが付いた。砦も取得した事がないような弱小ギルドのチンピラ。
これで間違い無さそうだ。ジャギの馬鹿。もうちょっとマシなのに喧嘩を売れよな・・。
「それは無人の時だけだからさぁ・・・」
さっきから捻られている胸倉が少し痛い。そのちくちくとした痛みが蓄積されて行き、なんだか勘に触る。
「面倒だなぁ・・・」
何より自分は急いでいる。先程の二人が言ったように殺される事は無いだろうが、それでもギルドマスターの機嫌は損なわれるだろう。
それはプラスでは無い。マイナスだ。
そのマイナスと、白昼砦の前に死体が三つ散らばる事による風評被害のマイナスを比べてみる。
・・・・前者だな。
ヴェルトはその二つを比べて、風評被害のマイナスを受ける事にした。
「・・・・・・」
3人から見えない位置でナイフを練成し、さぁこれからバラそうかと思った矢先に胸倉から手が離れた。
「やっぱりいい。自分達で声かけてくる」
今まで胸倉を掴んでいた男がすたすたと砦の中に入っていく。
「えー、ヤッていきましょーよー」
背の小さい男が後に続く。
ひょろ長い男だけがその場に残り、蛇を思わせる目で睨んできた。
「・・・・命拾いしたな」
そしてそう言って二人の後に続く。
練成したナイフを手の中で光に帰す。
どうやらチンピラも長生きする術は知っているらしい。


砦の塀伝いに歩いて騎士団官舎へ向かう。
幻影騎士団の砦は王都は王都でも街外れにある為、歩いて行くには少し距離がある挙句、道はあぜ道、商店の一つも無い。人通りすら滅多に無い。
あー、やっぱあいすんに飛ばしてもらえば良かったか。
なんて後悔し始めた頃、まだ遠く・・・でも真正面から声がかかる。
「ヴェールトさーん!こーんにーちわー!!」
「んー??」
頭の上で小さなモノが右に左に世話しなく揺れている。・・・・手を振っている?
「おー」
右手だけ挙げて挨拶。いや、誰かまだわかんないけども。
豆粒みたいだった人影がどんどん拡大されて、やっと判別がつくようになった。
「あー、お前かぁ」
目の前には、大きな木製のカートを引いて、少しずれたゴーグルを頭に載せた商人の少女。
「わからなくて手ー振ってたんですかっ」
よっこいしょっとカードの持ち手を地面に下ろして立ち止まる。
「いや普通見えないから・・・・お前目ぇいいんだなぁ」
確かに目は大きいような気がするが、目の大きさと視力は関係あっただろうか?
「ヴェルトさんの猫背は特徴ありますからーw」
いひひ、と笑ってカートを漁る。またいつものヤツだろうか。

いつだったか、そんな昔では無い頃にこの少女とは出会った。少女とは言っても言動が幼いだけで15歳らしいが。
幻影の砦の前で絡まれていたのを助けた・・・・事になるのかなぁアレ・・・・。
『おぜうさん、一緒にお茶でもいかがですグハァ!?』
砦に帰り着くなり見つけた商人の女の子をいきなり口説き出した無影の脇腹を蹴っ飛ばす。
「ったく・・・・もう性別が女ならなんでもいいのかあんたは・・・」
商人の少女は口をぱくぱくさせている。まぁ・・・おれでもすると思うが。
見れば、頭に装備したゴーグルが少しズレている。
気になったので直してやった。
「なぁ嬢ちゃん、ここは人通りも少ないしこんな女ならなんでも良いって変態もいる。しかも砦の中にはまだペド狂人のわらびーってのがいて・・」
「ショバ代でありますっ!さー!」
さっと機敏に差し出された少女の両手の上に赤ポーションが一個。
ヴェルト:赤ポーション一個獲得。
「話は聞こうな?」
「苦手でありますっ!さー!」
聞いちゃいねぇ。
「まぁほら・・・危ないからさ・・・」
「はっ!大丈夫でありますっ!危なくなったらこの・・・斧・・・でっ・・・・」
カートから斧を両手で引きずり出・・・・せてなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ガゴンッ!
中途半端に引きずり出された斧がカートから落ちる。
「Σ」
そっちの方が危なかった。
「この斧で一撃でありますっ!さー!」
地面にめり込んだ斧を指差してぴっと敬礼。
持ち主が一撃そうだった。
「・・・はぁ・・・」
めり込んだ斧を片手で引き抜いてカートに載せてやる。
そのまま何も言わずに砦に。
「あ、あのーっ!ここで商売しても・・・・・?」
背後から声がかかる。
右のポケットに違和感。探ってみると、いつもの癖でねじ込んでいた赤ポーションが一つ。
「ショバ代もらっちまったしなぁ・・・・勝手にしなさい・・・」
「あ・・・・ありがとうございますっ!さー!」
きっとまた敬礼でもしているんだろうと思う。またゴーグルをずらして。
振り返らず、右手だけあげて砦に入った。


「はいっ!今回のショバ代であります!さー!」
ぴっと差し出される少女の手の上に赤ポーションが一個。
ヴェルト:赤ポーション一個獲得。
「はぁ・・・まぁ・・・・・」
商品用のモノだろうか。赤ポーションの瓶はピカピカに磨かれていて、顔が写るくらいだった。
「なぁ・・・ここで商売して・・・・儲かるの?」
見渡せど見渡せど周りは荒野。王都プロンテラの僻地。人通りもやっぱり殆ど無い。
「人が一杯いても買ってくれなきゃ意味ないですもん」
「ここじゃ売れるっての?」
少女は、にひひ、と笑って。
「企業秘密ですのだ!」
ぴっと人差し指を立てる。
「でもヴェルトさんは私にとっては兄貴分であり強面のにいちゃんなので特別に教えてあげますのだっ!」
「誰が強面か・・・」
そして兄貴でも無い。
「にひひ、実はですね・・たまに幻影さんの砦にはお客さんが来るですのだ」
「お客?」
そんな上品なモノは来ない。そーゆーのは軍曹が騎士団官舎で迎える事になっているからだ。
「ちょっと怖い・・・ヴェルトさんよりももうちょっと怖い感じの人達がたまにくるですのだ」
ぴっこーん。
さっきの三人組が思い浮かぶ。ってちょっと待て・・・
「おれ・・・そんなに怖い顔してるか・・・・?」
「その人達がぞろぞろーって砦に入って行ったらですねぇ・・・」
スルーされた!!
「すぐに”しゃらくせえええええええ!!!”って声がして、大怪我して砦から出てくるですのだっ!」
「ははーん・・・そいつらに薬を売ってやる、と?」
こっくんこっくん。
「お陰で今はほらっ!」
がばぁっとカートにかかっていた布を引き剥がす。そこには・・・
「おおおおっ!?カート一杯に白ポーション!?」
かなりの数ががちゃがちゃとひしめいている。
「ギッてきた?」
右手の人差し指を鉤状にまげて見せる。
「とうっ(はーと)」
ずびしっ!ちいさな正拳が鳩尾に決まった!
「正中線をポンポン殴ってはいけな・・い・・・」
急所だから・・ね・・・。
「買いました!ちゃんと仕入れたですのだっ!さー!」
ぴっと敬礼をする。
「ふむぅ・・・」
これだけの数を仕入れるのは、今までの少女の財布からは考えられない。
どうやらジャギの迷惑も、この少女のためにはなっているようだった。
耳を澄ますと、遠くで
”しゃらくせええええええええ!!!!”
と謎の雄叫び。
きっと今頃さっきのチンピラが大怪我をして砦の前に逃げ出した頃だろう。
「泣いてるんですか?」
少女が見上げてくる。
「泣くかっ!」
びしっとゴーグルにチョップ。なんか・・・柔らかかった。
「いてててて」
精錬0のゴーグルだった。
「精錬くらいしようよ・・・・」
「そんなお金は無いのだ!です!」
「言い直さなくていいから・・・」
涙目で睨んでいた目が(そんな痛かったか?)ふと素に戻る。
「はっ!?」
ばばっとカートに布を被せ、カートの持ち手を地面から引き上げる。
「ん?どした?」
「ヴェルトさんと遊んでいる暇は無かったです!商売チャンスでしたのだ!」
ぎぎぎ・・・・とゆっくりカートの車輪が回りだす。ゆっくり・・・・ゆっくり・・・・ゆっくりすぎないか!?
「あの・・・・もうちょっとスピードUPしないと・・・間に合わなくね?」
「ガンバっでまずよおおおおおおお!!!」
歯を食いしばってカートを引いていた。
重量過多。思いっきり、引けてなかった。
さっきのジャギの雄叫びから、すでに少し経っている。この道を逃げかえってきているならもうそろそろ見えて来てもいい頃合だ。
なのに見えて来ないって事は・・・・別の道を逃げたか。
何も王都までの道は一本では無い。
なら、怪我人と少女が接触する機会は失われた事になる。
そして、砦から怪我人が転がり出るのはそう多くないはず。
つまり今日はもう・・・空振り。
目の前には歯を食いしばって重いカートを引く商人の少女。
さっきのジャギの雄叫びは、訓練されていない者の耳ではこの位置では聞こえない。
「はぁあ・・・」
溜息。
「なんでずがああああ?」
「お前本当に女の子なんだろうな・・・」
ひょいとカートの持ち手を取る。
「お?」
「ちょっと王都まで行くから付き合え」
ガラガラと事もなげにカートを片手で引く。
「えええええ!?商売チャンスが!さっきみかけた強面のにいちゃん達が!!」
持ち手を離さないから、ズルズルと少女ごとカートを引いてしまう。
邪魔だなぁ。
ひょいと襟を掴んでカートの上に載せてやる。
「ほ?」
「あいつらもう帰ったからな。ほら、王都でアイス食わしてやるから。」
「・・・・・シングル?」
「・・・・トリプルでもクワドロプルでもいーよ好きにしろっ!」
「GOGO兄貴ぃー!」
物凄い扱い易かった!
カートの上ではしゃぐ少女の頭・・・ゴーグルがまたズレている。
空いた手で直してやった。
「兄貴じゃねぇっての・・・・」
「♪?」
「ほんとに話きかねぇのなぁ・・・」
変な子連れ狼が、王都に向かう。



『この間の”仕事”ご苦労様』
騎士団官舎内に設けられた”幻影騎士団出張所”と呼ばれる一室でその男と向かいあう。
存在感だけで押しつぶされそうな、そんなエーテルの圧力をたった一人で放つのは”軍曹”・・・幻影騎士団・団長iwaokun
『お陰でオレも随分動きやすくなったでな』
朗らかに笑う。一般人が見れば、子供のように無邪気な笑顔に見えるだろう。しかしそれ故に恐ろしかった。
「は・・・・して、今日はどのような?」
目の前にはまだ湯気を放つコーヒー。しかし、飲む気は起こらない。
どうも軍曹を目の前にすると食欲や渇きは起こらない。ただ、何事も起こらなければいいと願うだけ。
軍曹は、一つ溜息をついて眼鏡を外し机の上に置く。
『今回も”仕事”だで』
一枚の無地の封筒を机の上に置く。
手に取り、その中を見た。
一枚の写真が出てくる。
『その女の名前はオルガ。オルガ=エテー。』
金髪の中年女性。皺がそろそろ気になる年頃か。
『容疑は王都転覆計画作成。”仕事内容”は・・・その一家の暗殺』
オルガと呼ばれた女性の写真の下からもう一枚の写真が滑り落ちる。
床に落ちたその写真に写っていたのは・・・・・。

『後味の悪い”仕事”だけどもな、どうか頼むで』
そう言われた言葉がぼやけて思い出される。
自分はなんと言って退室しただろうか。覚えていない。
ぼぅ、としたまま騎士団官舎の廊下を出口に向かって進む。
”殺し”の依頼を受けたのがショックなのでは無い。むしろそれは全然関係が無い。
自分は半ばそれを食事の種として生きてきたのだから。
暗殺奇襲闇討ち毒殺射殺諜報工作。
それが人生のほぼすべてだったのだから。
だからその事柄自体は問題では無い。
息をするように殺してきたのだ。
息をするように捨ててきたのだ。
でも・・・・さっきの写真は・・・・・。
「・・・・ると・・・・ん・・・!」
遠くから声がする。
「ヴェ・・・さー・・・・!」
なんだかもう何時間も聞いてないような。
「ヴェル・・・・ん!!」
何日も聞いてないような。
「ヴェルトさん!早く!」
少女が騎士団の門番に挟まれて、溶けそうなアイスを持って叫んでいた。
「とけるーっ!!」



「うまうま♪うまーっ!こっこのストロベリーのぷちぷち感が!感がっ!!!」
ほんのり赤みを帯びた西日を受けながら、少女と二人石階段に腰掛けてアイスを舐める。
オレのはほとんど溶けかけていたが・・・・。
「オレは後で自分で買うって言ったろ・・・・」
「むぐーっ!チョコが!この滑らかなチョコがああっ!!!」
全然聞いちゃいなかった。
「・・・・だって・・・・アイス屋さん移動するって・・・・」
むー、とアイスを睨みながら呟く。まったく聞いて無い訳でも無かったらしい。
「かっ・・・・そんなの後で探せばいいだろ・・・・」
猫背を丸めて滴りそうなアイスだけを舐め取る。
「ミントの爽やか!これっ!爽やか!」
「何段食ってんだよっ!」
じじゃーん!と目の前にアイスの柱。
「フィフス(五段)」
「ばかwwwwwww」
もうなんか遣る瀬無い気持ちになってきた。
見るとまたゴーグルがズレている。鼻にアイスもついていた。
「ったく・・・しょーがないなぁ・・・」
ズレを直し、アイスを指の腹でふき取ってやる。
「う?」
「ほれ、ガキじゃねぇんだから。」
ゴーグルを直して、ポンポンと頭を叩く。
「お?ありがとうっ兄貴っ!」 『ありがとう、お兄ちゃん』

「・・・・・・・・」
あいつは、盗賊だった。商人なんかじゃない。
元気一杯な所も、大きな目も、すぐにズレるゴーグルも似ているけれど。
あいつじゃ、ない。

「お?惚れましたかっ!さー!」
アイス片手にぴっと敬礼する。
「・・・・・・馬鹿。もう暗くなるからさ。帰るぞ」
パンパンと尻を叩きながら石階段から腰を上げる。
「しっ・・しかしアイスがっ」
「カートの上で食えっ!」
襟首を掴んでひょいとカートの上に載せる。
「楽々であります!さー!」
「このカートはお前のだからな・・・・」
敬礼した時に零れたアイスの雫を指して言う。
「あぁ!?カートが!カートがああ!!」
「ほら、目を離すとアイスが零れるぞ」
「わーっ!アイスアイス!」
「カートが・・・」
「かーとおおおおおお」
「わははwお前ほんとに15歳だろうなwwww」
「立派なレディでございます!さー!」
「あ、アイスとカートが・・・」
「ああああああアイスカートおおおおお!!」
「なにそれwwwwwwwwwwww」
変な子連れ狼は、夕日を背に笑いながら街中に消えた。


とっぷりと日が暮れた頃、やっと家についた。
「今日は送ってもらってありがとうございましたっ!あ・・・あとアイスも・・・・」
「アイスメインだったろう・・・・大量に食いやがって・・・・」
お陰で財布が軽くなった。だいぶ。
「まぁ・・・ほら!年頃でございますからっ!」
あははwと笑う。くそ、関係ねぇだろうが・・・・。
「太ってしまえ・・・・」
「なんですとぉ!?」
ポツリとつぶやいた言葉がどうやら聞こえてしまったようだ。シット。
「まぁほら・・・日が暮れてからは外出すんなよ?」
「大丈夫でありますっ!危なくなったらこの・・・斧・・・でっ・・・」
「いやそのネタはもういいからw」
またいつの間にかズレたゴーグルを直してやる。
「夜になると・・・・殺人鬼が徘徊してるらしいからな・・・」
自嘲気味にはなってないだろうか?
心配だった。
「こっ・・・怖いですなそりゃぁ・・・」
「だからほら、家に入ってじっとしてろ」
家のドアを開けてやる。カートはさっき納屋にしまった。
「なにからなにまですまねぇ兄貴ぃ・・・」
「(どこのちんぴらだ・・・)・・・まぁいい、またな、サリサ」
「ほ?なんで兄貴が私の名前を知っているですのだ?」
「え」
「私は名乗った覚えがないですお?」
「えええ?」
しまった。ついつい名前を言ってしまった。
なんとかして誤魔化さないと・・・・色々と支障を来たす。そう、『色々と』
「あやしい・・・・まさか・・・・兄貴っ!」
「はっ!はいっ!」
びしっと指を指され、ついつい気をつけ。
「私のラヴリー光線にやられ「違うからな」
迎撃に1秒かからなかった。
「ばきゅーんっ!ばきゅーんっ!」
何かを撃ち抜いているらしい。まさかおれのハートではなかろうが。
「しかしあやしい・・・・」
まだ疑っている。なんだかさっきの遣り取りのせいで、すっかり誤魔化す気が失せてしまったのだが・・・・。
ほっといても問題なさそう・・・みたいな?ま、でもケジメはちゃんとつけないとな。
「ほら、あれだ。お前さっき自分で言ってたじゃんか」
「へ?さっき?」
「カートの上でよ、”サリサのアイスがあああ!!!”って大声で」
「う・・・嘘だっ!私は自分の名前を自分で言っちゃうような事は・・・・無い・・・とも・・・言い切れない事も無いが無いように勤めて早3年・・・ですのだっ!」
「あるんじゃねぇかw」
「みなさーんっ!此処に今流行りの殺人鬼が・・」
「ぎゃー!」
まじやべー。
口を塞いで、なんとか黙らせる。
「まぁほれ、おれはもう帰るから・・・・」
「おうっ!帰れ帰れっ!」
塩を投げられそうな勢いだった。
「じゃあな・・・・おやすみ。サリサ」
「まったねーっ!おやすみ、兄貴っ!」
暖かい何かに背を向けて街灯も無い道に足を向ける。
ったくあのガキ・・・・兄貴じゃねぇってのに・・・・。
なんとなく、まだ見送られているような気がして、振り返らずに右手を挙げた。
左手には写真。
国家転覆を計画したとされる女性。オルガ=エテー。
その下には、そのオルガの娘、サリサ=エテーの写真。
『”仕事内容”は・・・その一家の暗殺』
軍曹の重厚な声を思い出し、それを噛み殺して夜道を歩いた。




「あら、ノム君はお仕事?」
カチャカチャとナイフとフォークが動く音。
砦に帰ったらすぐに晩飯だった。
「ん、なんか倒しに出かけてるらしいよ。”羽”の人達と。あ、バージル君しょうゆ取ってー」
「ほいほい、ってこれソースか。しょうゆしょうゆ・・・」
「あぁごめ、おれが使ってそのままだった」
「もー、わらびー。ちゃんと使ったら戻すー」
「ごめごめw」
「うっわー・・・にれちゃんが凄い器用な事してるぞ・・」
「?(・ω・)”」
「ハンバーグ残してキャベツだけ食べてるwwwww」
「淑女の 嗜み (・ω・)”」
「ダイエットってーんじゃ・・・」
幻影騎士団のリビングは広い。まぁ、一つの砦の中にある部屋でいえば、2Fの大広間の次に広い。
その真ん中にある長テーブルには今は空席が目立つ。
”羽”と呼ばれた人達がごっそりいないからだ。
”斑鳩の羽”
裏幻影と呼ばれる人外魔境。正式なメンバー数は、”斑鳩の羽”の一枚目、御影司しか知らないのかもしれない。
幻影騎士団において、主力ともいえるメンツで構成されている。
それが、ごっそりといなかった。
今食卓についているのは
ヴェルト・のりちゃん・バージル・士蕨・ニレコの五人だけ。
食事が終わると、のりちゃん手製のプリンが配られ、お茶と会話を楽しんで解散となった。


自室に入って直ぐの所にある部屋の電源を入れようとして辞める。
扉を閉め、真っ暗な部屋の中を手探りで机まで歩く。
左手人差し指に硬い感触。
机を探し出したら次はテーブルライトのボタン。すぐに発見し、スイッチを入れる。
小さめの明かりが心もとなそうに部屋をぼんやりと照らした。
「・・・・・ふぅー・・・・」
どっか、と椅子に腰掛け背凭れに体重を預け、溜息。
左手を上着のポケットに突っ込んで中身を引っ張り出し、そのまま机の上に投げた。
写真が二枚と指示書が一枚。
金髪の中年女性は、いつみてもいかめしい顔をしている。
その下、亜麻色の髪をした目の大きな少女は、ぼんやりとしたライトの下でもやっぱり笑っていた。
左手で写真を引き寄せ、目の前にかざす。
どこを見ているのだろう、この目は。
何かおもしろいモノでも見つけたのかもしれない。
あのガキは好奇心だけは人一倍だから。
写真の中の目は、薄闇を照らすライトよりも輝いて見えた。
「・・・ったく・・・殺されそうだってーのに・・・・」
自然と口元が緩む。
机の一番下の棚、唯一鍵がかかっている其処をいつもの手順(鍵穴はフェイク、真の鍵穴は机の下)で開け、中にあるただ一つのモノを取り出す。
そして、机の上にあるサリサの写真に並べた。
その写真は、所々縁が破れ、皺になった箇所も一箇所や二箇所では済んでいないような。
そんな、痛んだ写真。
被写体は女性。いや、少女。
サリサに負けないくらいの大きな目を、これまたサリサに負けないくらい輝かせている。
「サーカスだったよなぁ・・・入る前に撮ったんだっけ・・・・」
そう、サーカスに入ってからは写真が撮れない事に気がつき、とりあえず外で一枚だけ撮った写真。
全部捨ててしまった過去の中で、唯一捨て切れなかった、たった一つのモノ。
唯一の・・・・妹の記録。
ヴェルトの妹は、今もヴェルトの記憶の中だけで元気に走り回り、きらきらと笑う。そう、頭の中だけで。
机の上、薄闇に守られるようにぼんやり照らされた二枚の写真。
良く考えなかった。
良く考えれば、絶対出来ない事だから。
だから、その時の気持ちだけで・・・・ヴェルトは肩のエンブレムを外した。


皮製のボストンバッグを肩に提げ、部屋を後にする。
机の上に置かれたエンブレムがどこか寂しそうだった。
時間は早朝5:00
砦の中はまだ静かで、あと20分もすればバージル君が起きて朝食の用意を始めるだろう。
ちょっと惜しい気もする。彼の作る料理は例外無く美味だったから。
そんな事を思う頭を軽く振って、部屋から一階に。
長い縁側を抜けて、そのまま玄関に。
そこに、彼女は居た。なんの気配もさせず。
玄関マットにそのまばゆい銀髪を垂らして。
「・・・」
日が昇り始め、その顔を照らし始める。
のりちゃんは
「寝てるよっ!」
玄関で座ったまま寝ていた。
「寝相が悪いとか良いとかの問題じゃない・・・」
朝からぶっ飛ばしてくれる仲間だった。
せっかく気持ち良さそうに寝ているので、起こさないでおく。(バージル君もびびるだろう)
こっそりと靴を出して履く。
玄関の扉に手をかけたとき
「行くの?」
眠たそうな声が背中にかかる。
「ん・・・仕事早くってさ・・・」
顔を見られたら、気持ちがバレてしまうと思った。
だから、振り返らず。
「そう・・・・あのさ・・・・」
まだ眠そうな声。でも、意識がはっきりと宿った・・・そんな声。
「辛かったら・・・・戻っておいで?」
寝ぼけているのだと、そう思う事にした。
たとえ、彼女が心を透かして見る事ができたとしても。
「うん・・・・そうするよ」
結局最後まで振り返らず、扉を開けた。
二度と戻らないつもりで。


「はっ・・・はっ・・・はっ・・・・」
ズレ落ちるボストンバッグを忌々しげに肩に掛けなおしながら走る。
早朝でも人目を避け、裏路地を。
右に行ったり左に行ったり、時に急停止したりUターンしたりしながら。
無いとは思う。自身の経験からも、つけられている感じは無い。
しかし、今追跡がかかるとしたらそれは幻影騎士団。
やり過ぎてやり過ぎる事は無いと思った。
だから、また一つ無駄な角を曲がる。

結局、サリサの家の前に着いたのは砦を出てからきっちり一時間後。
みっちりしっかり道筋をバラバラにしてから、ここにたどり着いた。
サリサの家。昨夜は夜だったからあまり気にならなかったが、朝日を受けるとこれまた一段と・・・
「ボロい・・・・」
ボロかった。
しかも半端なく。どう見ても天井あたりが凹んでいるとしか思えない。
廃屋と言われても仕方の無いような・・・そんなボロ家。
レンガと木でできた、震度3の地震で崩れてなくなりそうな・・・そんなボロ家。
貧乏だろうとは思っていた。
父親はおらず、母親は国家転覆計画を画策中。働いていたとしても、その給料は反王都組織に吸い上げられてしまうだろう。
だからサリサはがんばっていた。おしゃれもせず、小さな手をガサガサにして。
汗水垂らしてカートを引いていた。歯を食いしばって。
そんながんばっているのに、大人は彼女を殺そうとする。
母親のせいで。
ずっと気になっていた肩の軽さが気にならなくなった。
やはり、自分はこうしてよかった。
サリサを殺すなんて・・・・・しなくて良かった。
安堵と共にノックをする。
さぁ、大逃亡の始まりだ。

「はーいっ!」
ボロ家の中から声がして、扉に向かってパタパタと走り寄る音。
朝からテンションの高いヤツだろうとは思っていたが・・・どうやらマジらしい。
ぎぃ、と扉が半分開く。
中から現れた少女に一瞬だけ目を奪われる。
そのエプロン姿

「・・・・・・・」

「おう兄貴っ!おはよーですのだっ!」
「・・・・おう」
あまりにもその姿が、あいつに似ていて。
だから、気の利いた事が言えずに詰まってしまった。
「兄貴ぃ丁度良いとこに来ましたですよっ!丁度朝ごはんが完成しましたっ!さー!」
ぴっと敬礼する。何か違和感。
「あん?おれ今日来るって言ったっけか?」
「もーっ!兄貴の目がやらしいっ!!エプロン姿に惚れおって!!」
聞いちゃいなかった。
「まぁ・・いつもの事か・・・」
「さぁ食えっ!食うです!のだ!」
「言い直した方が間違ってるからな・・・それに走って来たから食欲ねぇ・・・」
ぎぃぃと扉が開き始める。少しづつ、ボロ家の中に朝日が入る。
「えーっ!?せっかく・・・」
椅子の足が見える前、その前に何かが見える。黒い・・・・
「兄貴の友達も手伝ってくれたのにっ!」
靴の先。
「いよーぅ、おはようさん」
その椅子には、まめまめが座っていた。

「っ・・・・・・・・・」
適当に伸ばされた青みがかった黒髪。切れ長で少し垂れた目。黒いスーツをだらしなく着て、いつもノーネクタイ。
目を引く左目下にあしらわれた、涙のタトゥー。
今というタイミングで、もっとも会いたく無い人物。幻影騎士団でもっとも反旗に近い男。
その男が、サリサの家のダイニングで椅子にだらしなく座り、くつろいでいる。
右手にナイフを持ち、左手に林檎を持って。
「いやー眠いんだけどね。さっき軍曹から連絡があってさ」
「・・・・・・・」
「至急様子を見て来いってーからさ、仕方なくね。まぁほら、この子、筋いいぜ。スープとかめちゃウマなはず」
「だっしょ!?兄貴っ!見る目のある友達持ったなっ!なんか雰囲気がやらしいけどなっ!」
「へらず口もたまんねぇなぁ・・・・・おい」
「・・・・・・・・」
「朝食のデザートはこの娘っ子にすっか!はははははっ!!!」
「まめええええええええ!!!」
咄嗟に右手で練成した四本のナイフを投げつける。同時にサリサの腕を掴み、家の外に放り出した。
「おわーっ!?」
「はいはいっと」
狙い違わず四本のナイフはまめまめの眉間に吸い込まれるように飛び、眉間の前に持ち出された林檎に全部突き刺さる。
「あらー、こりゃあ軍曹の言ってた事はマジなんかね?」
一瞬で針鼠になった林檎をぼーっと眺めながら、呟く。
次に投げるナイフを左手で練成。投擲に備えつつ、接近戦が可能なように右手でもナイフを握る。
「まぁ待てって。おれぁ今はやる気ないからさ」
ぱっと両手を開き、ナイフと林檎を床に落とす。林檎は、落ちた衝撃で粉々になった。
「・・・・・・・・」
警戒は解かない。神経を研ぎ澄まし、見えないモノも見えるように目を凝らす。聞こえない事でも聞こえるように耳を澄ます。
『兄貴ーっ!喧嘩はダメだっ!わんぱくでも喧嘩はしちゃだめーっ!!』
アホの声が聞こえた。
「あはははははwおもれーなーあいつw」
「っ・・・・・・」
『垂れ目ーっ!兄貴に手ぇだすなよあちょーっ!』
「・・・・・おもれーな・・・・w」
なんだその為は。
「まぁほら、マジで手ぇ出さないからよ。これ食わしてよ」
油断しないように注意しながら、目線を机の上に。
そこにはまだ湯気が立つスープが一皿。
「こーゆーのオレダメなんだわ。ケジメつけないとな。」
スッと動いた左手に反応して、こっちの左手も動く。
「せっかく作ったからな。ちゃんと食ってやんねぇと」
動いた左手は、スプーンを取っただけだった。
一掬いして、スプーンを口に運ぶ。
「ん~激ウマ。さすがオレ様。最高。」
幻影騎士団最悪の男は、スープ一口に感動していた。
『ああああ!?私のっ!私のすーぷうううううううう!!!!』
アホが扉の外で騒がしい。
「・・・・・・・・・」
油断だけはしないで、ずっと構えを解かない。
「とゆー訳で、Vちゃん追っかけるのはこれ食ってからにするわ」
ずずーっとスープを啜る。
「は?」
ついつい素になってしまった。
「いやだからさ、これ食ってから追っかけるから。それまで逃げてていいよ」
また一口啜る。
じり、とあからさまに一歩後退り。まめまめは動かない。
「あーあ、これ食わないなんて勿体無い。ちょーうまいのに」
ずずーーっと一口。
それを見て、扉を後ろ手で開け、飛び出した。
部屋の中には、残されたまめまめが1人スープを啜る。
「どうせ死ぬなら、これ飲んで死ねばいいのに」


「うおおおおっ!?今朝はまた一段とハッスルっね兄貴っ!!」
右手一本でカート+サリサを引いて走る。
バレた。
自分の裏切りが、もうバレたのだ。
もう少し時間がかかると思ったのに、さすが幻影騎士団。
「おおおおおっ!ちょっと早すぎませんか兄上ええええええ!!!」
こうなってしまっては出来るだけ早くこの街から出るしか無い。
昨夜砦にいたメンバーには見つかる事は無い。
彼等にはその手の力が無いからだ。
だがしかし、他は違う。
裏幻影。”斑鳩の羽”は。
ヤツらは索敵と殲滅を専門とした幻影最強の猟犬。
司の瞳、ノム3の目、海猿の精霊探査、これら全部を同時に欺くのは不可能。
そして、アイスの力。
座標さえバレれば、即座に人間が飛んでくる。逃亡は不可能。
だから、連中が戻ってくるよりも先にこの街を出る。それが至上目的。
「吐きますよ兄者あああああああああああ!?」
そろそろ煩くなってきたので足を止める。
サリサはカートの上、肩で息をしていた。
「兄貴・・・・あんたっ・・・超・・・ぐれーとっ!!」
びっと親指を上げる。
褒められたのでもう少し走る事にした。
「違うよぅうわああああああああっっ!!!」
違ったらしいので止まる。
サリサは未だ肩で息をしている。
「兄貴っ・・・あんた・・・かっこいいっ!!」
褒められたのでry
コントが終わったにはそれから15分後だった。

「うぇ?なんで私が狙われる事に?」
カラカラとカートを引く。どうやら先程の速度だとサリサには辛いらしい。
「・・・・・さーな、わからん」
本当は知っているのだ。お前の母親のせいだと。
だが、今それを知ってもどうにもならない。それに、その事実はこの笑顔と元気だけが取り柄の少女から何もかもを奪うように思えた。
「まっ!まさかっっ!私のラヴリー「違うからな」
いつものネタだった。
「ちぇーっ!ちぇーっ!兄貴もこのラヴリーに「やられてないからな」
ちょっと変化しただけだった。
「兄貴っ!アイスですよっ!」
「お前くじけないのなぁ・・・・」
がっくりと肩を落としながら財布を出す。結局勝てない。

ゆっくり座って食べる程命知らずでは無いので、残念ならが歩き食い。否、サリサだけはカートに乗っているので座り食い。
いや、普通に食ってる、でいいのか。
「そりゃ怖いけど・・・・・」
ふいにカートから声がかかる。
「でも・・・兄貴がいるか・・・ら・・・・・」
ちらと後を振り返ると、耳まで真っ赤にしたサリサがアイスのコーンをかじっている。
「恥ずかしいんなら言うなよな・・・・」
「兄貴も照れてるくせにっ!くせにっ!!」
確かに、今の顔はちょっと見せられない。
だから、前だけ向いてカートを引いた。

ゴーン、と鐘の音が聞こえる。王都プロンテラ中心にある正午の鐘。
もう随分と追ってを撒く歩方で街から離れたと思ったが、まだ正午だったらしい。
鐘の音もまだ近くから聞こえた。
「サリサー、昼だけど腹減ってねぇかー?」
歩き詰めで若干の疲労。声が少しダレてくる。
「兄貴ー、兄貴はヤクザもんだーっ」
カートで揺られているだけでも疲れるのだろう。サリサの元気も少し落ち着き気味。
「無茶な生活で時間間隔がズレてんだっ!昼って!昼って!!」
「あー?今正午の鐘が鳴ったろー?」
「兄貴・・・長い逃亡生活で耳まで・・・うぅぅっ!」
ヨヨヨ、と崩れ落ちる気配。見て無いのに細かいなぁ・・・じゃなくって。
なんだ?会話がかみ合って・・・まぁ・・・いつも噛みあってないけど・・・・。
「おいおい、サリサも聞いたろー?さっきの鐘の音。あれが正午の鐘だろー?」
確認。
「兄貴ー、正午の鐘はもう一時間前に聞いたよぅ。それに今は私のラヴリーカートの車輪の音しか・・」
愕然。
そして、再び鐘が鳴る。
ゴーンッ。
もの凄く近くで鳴った。そう、すぐそこの角を曲がった先の路地裏辺りから。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「うぃ?兄貴?」
サリサには聞こえていない。これは、特殊な訓練を積んだ者にしか聞こえない音だから。
角から人が現れる。ゆっくりとした足並みで。
その姿は、黒髪を目にかからないように切り、燦然と輝く目は金色で、黒いローブには赤い刺繍が施されている。
司祭。
燃えるような金色の目がこちらを射抜く。
司祭は、体の前で白手袋に包まれた両拳を打ち合わした。
ゴーーーーーーンッッッ。
「おおっ!司祭さmむぐーっ!!」
右の掌でサリサの口を塞ぐ。ヤバイ。彼には冗談は通じない。
それにしても・・・
「早かった・・・か?」
瞬きもせずに司祭が尋ねてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつでも飛べるように足場を固める。
「裏切りの代償・・・・死を持って償えっ!!」
ゴッ。
風が司祭の前髪を跳ね上げる。そこに白いタトゥー・・・・聖紋と呼ばれるモノが見えた。
同じく打ち合わされていた両の手の甲にも違う聖紋が見える。
うっすらと服を貫通して、胸の間にも。ヘソの少し下にも見える。
御影司の最大出力攻撃。大反転・五重封殺。
「大!反!転!」
体の上に浮かび上がっていた聖紋が反転して地面に投影、固定される。
それは正しい五角形となって枠内にいるモノを高圧の聖属性で擦り潰す!!
かくして結界は完成された。が、しかし、それはあまりにも完成までに時間がかかり過ぎた。
動きの鈍いMOBや、固定された物体であるのならまだしも、こっちは娘っ子1人を抱えたとは言えチェイサー。
このくらい避けれないはずが無い。
カートをそのままにし(後で何を言われるかわからんが)ぼけっと突っ立っていたサリサを左脇に抱え後ろに跳躍。
その前に気がつけばよかった。
司がいるなら『彼』もいるだろうと。
飛び退りながら空中で左後方に殺気を感じる。
少し大き目のTシャツを着たスマックがそこにいた。
咄嗟にナイフで切りつけようとして、左腕がふさがっている事に気がつく。
空中で体を捻って右手のナイフで斬りつける。
その刃は、スマックの左手に握られてピクリとも動かなくなった。
「!?」
左足を後に引くスマック。自分の背後には・・・・ちょうど司の結界!
空中で蹴り飛ばして結界内に放り込むつもりなのだろう。
意図はわかった。しかし、片手はサリサを抱えていて、もう片手は刃物事万力のような力で止められている。
万事休す。
とりあえずサリサだけでも救おうと、もう一度空中で体を捻った時、それが零れた。ジーンズの左ポケットから。
「むっ・・・・・」
零れたそれ・・・・赤ポーションは奇跡のようにスマックの両目にかかり、その動きが一瞬止まる。
しかし、その一瞬で十分だった。
右手の剣を光に戻し、右手を開放。と同時にやっと地面に着地できた。
「スマーック!!」
結界維持の為に動けない司が叫ぶ。
攻守逆転したのだと思ったのだろう。しかし、オレは逃げた。
相打ちでは意味が無い。倒して、逃げ延びれなければ。
サリサを抱えたまま、街外れから街の中心に向けて走る。
背中にはぴったりと死の予感が張り付いてきている。スマックだろう。
左腕の中でサリサが何か言っている。
「胸っ!胸をツカンデマスヨ兄貴っ!!」
ほっておく事にした。緊張感の無いヤツめ。
「うう・・・もうお嫁にいけないっ!!」
行く気だったのか・・・・。

人込みの多い通りまで後少し、そう、距離にして50m。
そこまで行けば、先程のような大規模な結界も張れないし、大振な攻撃もできなくなる。
そうなればこっちのモノだ。隠れる逃げる身を潜めるは、チェイサーの十八番。
だが、世はそう甘く無し。
人込みを前にして、最後の障壁がふらりと現れた。・・・・2人セットで。
「このネクタイ長いような気がするんだけど・・・・」
「なんでも いい!(・ω・)”」
士蕨とニレコ。

「ありゃ?Vちゃんが誘拐犯だ」
「いよー(・ω・)ノ」
脱力系の2人だった。
「おおおっ!こーんにーちわーっ!ペド狂人とピンクっ!!」
俵のように左脇腹に抱えられたまま、サリサが挨拶する。
「おー、砦前で商売してる子だーって誰がペドか!」
狂人は否定しないらしい。
「だれがピンクかっヽ(゚∀゚)ノ」
「「いや、ニレコしかいないだろう」」
ハモってしまった。
「すまんわらびー、今ちょっと急いでるから・・・」
この2人に連絡が行ってなければ、ここはスルーできる。
わらびとニレコの間を縫うように走り抜けようとした時
「ニレコ!そいつを止めろっ!」
燃えるような金色の目がちょうど追いついてきた。
「あい(・ω・)」
右足のつま先に鋭い痛み。見ると、小さいローファーのかかとが突き刺さっていた。
「ぐっ・・・」
しかも痛みだけでは無い。足にまったく力が入らなくなってしまっていた。
「にれ・・・・・」
「?(・ω・)”」
足はどけてもらえなかった。
「あのさ・・・どうしたんよ・・・司ッp」
走るのを辞めて、ゆっくり歩いてくる司の前にわらびが割って入る。
司はさも面倒そうに
「そいつとそいつの抱えてるガキに抹殺指令が下った」
と吐き捨てるように行った。
「・・・・・軍曹から直接?」
「直接だ。疑うなら自分で確認しろ。」
どけ、と呟いて右腕でわらびを払いどける。
そして目の前に。
「今度こそ、塵芥になるまで磨り潰してやる」
ぼう、と左手の甲に聖紋が浮かぶ。どうやら、一つでもいいらしい。
足は未だにニレコに踏まれたまま。
ビッと布が裂ける音がした。
「?」
「貴様・・・・」
金色の瞳がゆっくりと背後に振り返る。破れた左手の白手袋を見せ付けるように掲げながら。

視線の先には、白い騎兵剣を持った士蕨。
「やっぱり・・・話くらいは聞かなきゃダメだよ・・・」
「邪魔を・・・するなああっ!!!」
両拳を握って御影が走り寄る。
間に割って入るニレコ。
「にれ・・・・貴様も邪魔をするか・・・」
食いしばった歯も割れよ、と歯軋りが鳴る。
「にれちゃん・・・悪い、バックアップ頼む。」
士蕨が盾まで作り出す。
「司君・・・わらびーの相手は この私だっ!(*`ω´*)」
「なんでっΣ」
ガビーン!
「なら邪魔しないで下がってろ!」
「邪魔は 司君!ヽ(`□´)ノ」
ローファーが御影の右太ももを蹴り抜く。
「ぐっ・・・」
スマックは腕組みをして成り行きを見守っている。
「おおおっ!すげーぜにれっゴァ!?」
「ほぅぁああぁぁぁヽ(゚∀゚)ノ」
同時に士蕨の胸も蹴り抜かれた。
チャンス到来。
この隙に抜け出せれば・・・・。
「はわわわわわ!?」
サリサは腕の中で目を回している。まぁ、ちょっと乱暴に扱いすぎたか・・な・・?
「貴様等纏めて塵にしてくれる!」
御影が両拳をぶつけ、ゴーンと鐘のような音が鳴り響く。
「できるか なヽ(゚∀゚)ノ」
「Vちゃんとりあえずこっちに!」
士蕨はそう言ってはくれるのだけれど・・・・どう考えてもそこが一番危なそうだった。
「・・・・わるいっ!」
人込みの通りからは離れてしまうが、一番手薄な路地裏を目指して駆け出す。
と、共に影が射した。
「!?」
「どぉっせええええええええ!!!!!」
ずがっどーんっ!!!!!!!
人が上から降ってくる。
着地点は、岩盤が割れ、大地がささくれ立った。
肩膝を着いた態勢からゆっくりと立ち上がる。
「あああああいってええええ!アイス!”何が座標はわかった”だよっ!x軸しか解ってねぇじゃねぇか!殺す気か!?」
電通しているつもりなのだろうが、ばっちりオープンで誤爆していたのは
「司・・・・拙いのが来た・・・・」
「ふん、ジャギか。」
ジャギだった。
スマックが腕組みを解いて駆け出す。
御影はニレコと士蕨に向かいあったまま。
ニレコは「かかって きなさいっヽ(゚∀゚)ノ」
「おぅ、Vやん。何してんどぅわぁっ!?」
颯爽と駆け寄ったスマックが右の正拳をジャギに繰り出す。
ジャギはそれを喋りながらいなして右腕に飛びつき、そのまま関節を極めようとして・・・・はずされた。
「ちっ・・・・」
「おいスマ!なんの冗談だこりゃあ!!」
「ふんっ!知れた事。ジャギ、貴様も幻影騎士団の端くれなら!その裏切り者を始末しろ!!」
御影が視線もくれずに状況を説明した。
「は?裏切り者?誰が?」
「ヴェルトだ!その左脇に抱えている小娘を始末するはずが逃亡させようとしている!!」
「小娘を始末うううう?」
ギヌロ、と目の前のスマックを睨む。
「・・・・・・・」
「おいそんな話は聞いてねぇなぁ・・・おいいい・・・・」
「iwaokun直々の指令だ。」
「き・・・聞いてねぇ・・なぁ・・・・」
心なしかジャギの足がガクガクと震えているように見える。
その足の震えを踏み殺すように、一歩地面を踏みつけ
「おいてめぇら!この喧嘩、おれがあずか「”富嶽貫通”」
その名の山にも穴を開けそうな一撃がジャギの腹を狙って打ち出される。
「・・・・・るわけねぇか・・・w」
その一撃を、白刃取りで受け止めるジャギ。
「ぬ・・・・・・・・・・」
2人は膠着した。
「ジャギやん!こっち!こっち助けてうわっあ」
士蕨がもうベコベコに歪んだ盾でニレコの蹴りを受け止める。
「っしゃああああっヽ(゚∀゚)ノ」
そのまま振り返り、御影にワン・ツー。
「っつぅ・・・・」
ブロックした御影の両腕、袖の部分から煙が立つ。マジか!?
取り合えず話が聞きたい士蕨。
取り合えず裏切り者を始末したいがその前に邪魔者も始末したい御影。
取り合えず士蕨に天誅を下したいが邪魔する者にも容赦しないニレコ。
取り合えず早くBOSSを狩りに行きたいスマック。
取り合えず喧嘩を止めたいジャギ。
「ほあああ・・・・皆さん忙しそうですなぁ・・・・」
「はっ!?」
やっと目の焦点があったらしいサリサの一言で目が覚める。
逃げ出すには絶好のチャンスだった。
こっそり気配だけを消して、路地裏から屋根に跳躍。
「きょわわわわわわっ!?」
「ばっ!せっかく人がっ!!」
慌ててサリサの口を塞ぐも、遅かった。
「待て!ヴェルト!!」
振り返った瞬間に、その顔の前に上げていた左腕ブロックにニレコの拳が着弾。
「ぐぅぅっ!」
「わらびを 始末させろヽ(゚∀゚)ノ」
「何を言っとるか貴様っ!」
「そ・・・そうだそうだわぁ!?」
「ぬ・・・・・ぐ・・・・・」
「この白刃・・・・解いて・・・たまる・・かぁ・・・」
言い合う御影とニレコと士蕨。
お互い拳を合わせたまま一歩も譲らないスマックとジャギ。
地上は混沌としていた。


「ほぅ・・・・」
屋根上から地上を見下ろす。
そこにはまだまだ混沌が犇いていた。
「みんな・・・悪いな」
「うぇぇぇえええええ」
サリサは今にも吐きそうだった。
ズン。
右脇腹に違和感。
「え?」
見ると、ナイフが
「っ・・・・ぐっ・・・・!」
振り返って跳躍。屋根の端まで飛び退る。
「ぃよーお!気ぃ抜いちゃダメじゃんか」
そこには、今朝も見た最悪の青髪が血の滴るナイフを持って笑っていた。
「ま・・・め・・・・・・」
「うんうん。幻影のプリンス、まめまめだぜ?キちゃったか!?あはははははははwwww」
両手を広げながら高笑い。嫌すぎた。
「あ・・・兄貴?どうした?」
左脇に抱えられたサリサには今の負傷は見えない。
丁度良かった。
「毒はどうせ解毒しちゃうしなぁ・・・・ブッスリやっちゃうのが一番なんだけど、いきなり命取るってのはつまんないからねぇ・・・」
べーっと長い舌を出して、そしてまた笑った。
「さぁぁぁて、朝の続きといこうよ。ハンデありだけどもなぁwww」
言いつつもナイフすら構えない。
「このっ!垂れ目っ!」
「・・・・嬢ちゃんは後でな・・・・・はははははははw」
ゆっくり歩み寄ってくるまめまめ。
黒のジャケットと、白いシャツを風になびかせて。
「・・・・・サリサ・・・・飛ぶぞ・・・・」
ぼそりと小声で呟く。
「え?」
それを返答とし、ヴェルトは二本のナイフをまめまめの眼前に投げつけた。
「芸が・・・・・ねぇよっ!」
その”全力では無い投擲”は当然のように”はじかれた”
今朝の対峙でなんとなく思っていた事ではあったけれど、それは当りだったようだ。
まめまめはぬるい攻撃は弾く。
それが信条なのか、ただ体を動かすのがダルイのかはわからないが、今回はそれに救われた。
ナイフは確かに弾かれた。が、弾くために振り上げた右腕と右手とついでにその手に握られたナイフが、一瞬だけまめまめの視界を奪う。
その一瞬をついて、屋根から地上に向けて跳躍。
もちろん、混沌としていた地上に戻るのでは無く、日の光も射さないような暗い路地裏に。
ナイフを弾いた一瞬の間に目の前から獲物が逃げた。
だが、この世界でこの能力者達を相手にして、姿を一瞬隠す事など意味がない。
エーテルの匂い。それは決して消すことができなかったから。
「はん・・・・意味ねぇなぁ・・・・」
ナイフを光に返して、つまらなさそうにまめまめは呟く。
そして、風に鼻を利かせた。
「・・・・・・・・」
信じられない事に、ヴェルトのエーテルはどこにも感じ取れなかった。


「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
肩を路地裏の壁になぞるように当てて進む。
右の脇腹からは出血が続いていた。
「兄貴っ!もうっ!降ろしてよ!」
足をじたばたさせるサリサ。こっちは怪我してんだからそうはしゃいでくれるなよ・・・。
「だーめだ・・・。襲われた時に対処できなくなるからな」
「おっ!?襲うなんてっ!もう兄貴っ!」
「・・・・違うからな・・・」
真っ赤になったかわりにおとなしくなったサリサを見て、自然と口元が緩む。
が、脇腹に走る痛みでまた歯を食いしばった。
「兄貴・・・・怪我してんだろ・・・?」
「・・・・・・おう」
いつまでも隠しきれるとは思えなかったので正直に言っておく。
「・・・・カートさえあれば・・・・」
「・・・・・・・おう、悪かったな」
「そんなっ!兄貴を責めてる訳じゃ・・」
「・・・・・おう」
また無言になって歩く。路地裏を、はいずるように。
「兄貴っ!」
「・・・・・・・・」
「兄貴っっ!」
「・・・・・・・うん?」
なんだかぼーっとする。サリサ、声が小さくなったか?もっと大声で喋ってくれ・・・・いつもみたいに・・・・。
「ちょっと・・・・・休憩しよっ!」
「・・・・・・・・・・・・・あ?」
見れば、動かしていたはずの足は完全に止まっていた。


「じゃっじゃーんっ!」
大仰なアクションと共に、つけていたエプロンからホットサンドを取り出す。
「お前追われてる感覚0な・・・・」
追ってを撒くために取ってきた行動の全てが無意味のような気がしてきた。
細い細い路地裏の壁に背中を預けて、二人で座る。
ひょいと目の前にホットサンド。
「兄貴の分っ!」
「いらね・・・食欲ねぇわ・・・」
右脇腹に穴が開いているのだ。そんな状態で食欲があるなんてのは、中国の昔の武将だけだ。
「食えっ!!」
がぼっと口の中に突っ込まれる。
「ぶっwわかったわかった!」
このままだと顎を持たれて咀嚼まで手動でやらかしそうだった。
「食べないと・・・・きっと持たないから・・・・」
しゅんとした声。
そのテンションのギャップはなんとかならんのか・・・。
横を見ると、一生懸命ホットサンドをかじっているサリサ。そのゴーグルがまたズレていた。
「なぁ・・・・」
血で汚れていない左手でそのズレを直してやる。
「ぅん?」
「この街を出たら・・・・どうする・・・・?」
サリサの大きな目がかすれて見える。
しっかりしなければ。
「うーん・・・・やっぱり商売かなぁ・・・カート引いて」
「もうカート無いけどな・・・・」
「それは兄貴がまた買ってくれちゃったりなんかしてっ!」
「・・・・・しょうがないなぁ・・・・・」
「兄貴も仕入れとか付いて来てくんなきゃダメだからねっ!」
「おれもかよ・・・・」
「2人でっ!道具屋さん!」
「・・・・・あぁ・・・・・・・・」
そんな絵を想像してみる。容易く出来た。
おれがカートを引いて、サリサがそのカートの上で宣伝して。
見入りは少ないかもしれないけど、毎日三食はちゃんと食べれて。
ちょっと金が溜まったら、お店を借りたりなんかして。サリサに宣伝用のチラシを持たして配らせたり。
毎日仕入れや営業で大変だったり。
でも、そんな毎日を、昔は夢見てたのかも・・・なぁ・・・・。
「それでっ!落ち着いたら母さんに手紙をかくですのだっ!」
幸せな絵は、一瞬で消え去った。
すっかり忘れていたが、今回の”仕事”の第一目標は、オルガ=エテー。こいつの母親。
おれは手を下さなかったけれど・・・・きっと・・・・助からない。
「そう・・・・・だな・・・・・・・」
今は伝えない事にする。
次の街について、商売も安定して。
もっと心にゆとりが持てたなら、その時、話そう。
「おし・・・・・そろそろ行くか・・・・・」
「うん・・・・」
ずず、と背中を壁に預けたまま上体を持ち上げる。
ぐっ、と左肩が持たれた。
「?」
「うんしょ・・・・」
サリサが左脇に添う様に立つ。
「どうせっ・・・また担がれるんだからっ・・・にしし♪」
その拍子に、またゴーグルがずれる。
「ああ、悪いな・・・・×××・・・」
「え?兄貴・・・今なんて?」
ゴーグルを直して、サリサをまた左脇に抱える。
そう、サリサだ。
けれど、今はもうどっちでもよかった。
「兄貴じゃねぇ・・・・・”お兄ちゃん”だ・・・」
「このっ!シスコンっ!」
元気は出なかったが、脚はなんとか路地裏の外を目指した。
光の射す方向へ。


「はは・・・・やっぱり・・なぁ・・・」
路地裏から抜けた先は海。波止場と呼ばれる場所。
ここに係留された船を拝借して、この街から逃げようとしていた。
その海を背景に、1人の男が立っている。
そろそろ現れるとは思っていた。
きっと現れると思っていた。
御影やスマックを見た時に、この瞬間は覚悟していた。
戦争と言う名の、闘争と言う名の、殺戮と言う名の、ゲーム。
その盤上の・・・・ACE。
「ちょっ!あにっ!」
「預かるよ。」
耳元で呟きが聞こえ、左脇が軽くなる。
腕の中にサリサを抱え、スーツに身を包んだ海猿が立っていた。
左脇が軽い。
サリサは意識を失ったのか・・・・目を閉じたまま。
「大丈夫、気を失っているだけだから。」
海風が前髪を揺らし、頬を撫でる。海猿の表情はどこまでも優しかった。
「な・・なぁ海ちゃん・・・こいつ・・関係ねぇんだよ・・・こいつは・・・・死ぬ事無いんだ・・・なぁ・・・悪いのはこいつの母親なんだよ・・・こいつは関係ねぇんだよ!なぁ!海ちゃん!」
海猿は少しだけ悲しそうに目を伏せ、盤上のACEに目をやる。
「・・・・・・・・・・」
バシャッ。ノム3の右手が”射撃可能状態”に移行する。
「ノム君もさ!ほら、撃ちたきゃオレだけ撃てよ!そんな小娘撃ったってよ・・・つまんねぇだろ・・・なぁ・・・ぉぃ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ノム3は答えない。
「なぁ海ちゃん!こいつの母親はオレが始末するからよぅ・・・それからオレを消してもいいから・・・」
両手で海猿の胸倉に掴みかかる。
「こいつは助けてやってくれよぅ!なぁ!こいつ・・・こいつはっ・・・!」
じゃりり。
ノム3が一歩前に進む。
「あいつに・・・おれの妹に似てやがんだよ・・・・・」
語尾は小さくなってしまって、誰にも聞こえなかったかもしれない。
「あいつが入院しても・・・おれ何にもできなくて・・・最後まで何にもできなくて・・また・・失っちゃうのかよ・・なぁ・・」
視界がぼやける。
「おれはもうあんな思いするの嫌なんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
視界をぼやけさせていたモノが弾け、海猿の胸に抱かれたサリサの顔に降りかかる。
「ん・・・・おにぃ・・・・」
「下らん三文小説は終わりだ。お前から先に逝け」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
振り返ってノム3の眉間目掛け最後のナイフを投擲する。
いつの間にか持っていた、懐かしいナイフを。
ノム3の手に閃光が走り―


『んー・・・・待った』
「待ったは無しだって言ったでしょうが」
昼下がりの執務室。そこで2人の男がチェスをしている。
重厚なソファに体を半分だけ預け、一人は楽しそうに、1人は困ったように顎に手をやる。
その隣には、まばゆいばかりの銀髪を後で一つに束ねた女性が座っている。
「ぐんそ、ここ・・・これ・・・」
「あー!のりちゃん!しーっ!しーっ!」
先程まで楽しそうにしていた男が急に慌てふためく。
『おお、その手があったか。んー・・・ねちゃんは案外こーゆーの強いなぁ』
ぐんそ、と呼ばれた男が嬉々として駒を動かし、相手の駒を倒す。
「あー・・・オレのビショップが・・・・」
がっくりとうな垂れる男。
が、直ぐに頭を起こす。
「なーんてっ」
素早くナイトを進め、その場所に止める。
その場所は・・・・・
『うお!?』
「チェック」
「めーいと、だねぇぐんそ」
にひひ、とねちゃんと呼ばれた男と、のりちゃんと呼ばれた女が顔を見合して笑う。
『あー・・・・やられた・・・・グルだったとは思わなかったで・・・』
「なーにを今更w」
「そそ、うちやねちゃんが何しに来たかわかってたでしょーに」
お茶淹れるね、と言って彼女は席を立つ。
「そんで?軍曹、おれが勝ったけど?」
笑った表情とはまったく異なる紳士な赤い瞳で軍曹”iwaokun”を見る。
『わかったわかった・・・・ほれ、今連絡したで』
やれやれ、とソファから体を起こして、昼下がりの陽光差し込む窓際から庭を見る。
その先では、エレナと義母のアルセリーナが日向ぼっこをしていた。
自然と笑みが浮かぶ。
「ぐんそはもっとそんな顔を皆に見せてあげればいーのに」
お茶を淹れたのりちゃんが三つのカップと一つのプリンを机の上に置く。
「それは?」
「ん?うちの」
「おれのは・・・・無いか」
「メソちゃんに作ってもらえーw」
「プリン手作りって・・・・できんのかねぇ・・」
うおっほん、と咳払いをして元の表情に。
『そうもいかんで。これもマスターの仕事だでな』
「ふーん、そんで連絡は?」
『さっきねちゃんに急かされてやっといたでな。・・・・でも、間に合わないかもしれんで?』
かはっ、と金髪を揺らしてねちゃんが笑う。
「だいじょーぶでしょw」
「うちら、げんえーですから」
のりちゃんも自信満々に言う。
『まーったく。何を根拠にいってんだで』
苦笑して、iwaokunもカップに口をつけた。


目が覚めた時、そこは牢獄みたいな部屋だった。
いや、語弊無く牢獄だった。
四方をむき出しのコンクリートで固められ、窓には特殊な鉄格子。
唯一の扉はこれまた特殊な合金でつくられた扉で、がっちりと閉じられている。
左肩と右脇腹に包帯が巻かれていた。とは言っても、すでに傷は塞がっているようだが。
・・・・・あれから何日たったのか解らない。
でも、どうでも良かった。
無気力。
すべてに無関心。
体を横にした時、何かがジーンズのポケットでかちゃりと鳴る。
取り出して見ると、空になった赤ポーションの瓶だった。
また、何もできなった。
瓶を眺めていると、自然と涙が出てきた。
流れる、というよりは、垂れるように。

それから丸一日経って、牢獄から開放された。
立ち会ってくれたのは、バージル君1人。
「大丈夫?」
「・・・・・ん・・・・」
傷は問題無く回復している。心は・・・・まだだけれど。
「軍曹が・・・・執務室までって・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
今一番会いたくない人間だった。
裏切ったのだから。
もしかすると、自分は軍曹が暇になるまでここに入れられていて、暇になったら執務室で処刑するつもりだったのかもしれない。
けれど、それももういい。
処刑なら処刑で、別に良かった。
「執務室前までついて行くよ・・・」
「別に・・・」
言った途端によろけた。足に力が入らない。
「丸3日も寝てたからね。傷は治っても、表面上のモノだから・・」
昨日を含めて丸4日経っていた。
結局、バージル君に肩を借りて執務室に向かう事に。
「悪いな・・・・」
「気にしないで・・・」
執務室入り口まで辿り着く。
「また、後でね」
「あぁ・・・・会えたら・・・な」
今できるだけの笑顔をバージル君に向けて、執務室のドアをノックした。

『ヴェルト、4日の謹慎ご苦労だった。また仕事があれば呼ぶで、下がって休め』
「は?」
いつものように執務室に入り、いつものようにデカイ机の前に。
今日でこの部屋・・・いや、世界も見納めかと思い、いつもよりもジロジロと見回した。
軍曹・・・iwaokunは、これまたいつものように柱のような書類に目を通し、ペンを走らせている。
ぴたりとデカイ机の前に着いたとき、軍曹は顔もあげずに、そう言ったのだ。
しーん。
無言の空間。ただ、ペンの走る音と、時計の針が動く音のみ。
「軍曹?あの?」
『下がれ、と言ったで』
ギロリと眼鏡越しに睨まれる。
さっきまで死んでも良いと思っていたのに、もう死にたくは無くなっていた。
「・・・・・失礼しました」
それだけを言って執務室から退出する。
彼への処分は、すんだらしい。


ついつい拾ってしまった命。
でも、何もやる気は起きなくて。とりあえず何か食べて、自分の部屋で一眠りしようと思った。
全部はそれからだ。
みんなと仲直りするのも・・・・・・悲しむのも。
自室に足を向けた時、向こうから歩いてくる人影が見えた。
砦で実験しているか外で実験しているか。常に何かを実験してやまない男。
にだ。
長すぎるマントをズルズルと引き摺って、こっちに向かってくる。
両手には謎の液体が入った瓶。表情は・・・・なんだありゃ?
非常に楽しげ。
「おーVちゃん!」
「・・・・おう・・・」
片手を上げて挨拶。胸に抱えられた瓶の中身が気になる・・・・。
「牢獄きつかったろー?あそこにはオレが・・・・・いや、いい」
「なに!?なにしたの!?」
「いや・・ちょっと実験の成果を・・・にだ」
「なんの!?」
「まぁほらそれよりも!これ見てよ!」
胸に抱えていた瓶をこっちの目の前に突き出す。
ごぼごぼと泡立つ深緑の液体・・・いや・・・スライム?
「何これ・・・・・」
さっそく食欲が失せた。
「”べと液”の5年物!!!」
最低だった。
「年物って事は・・・寝かしてたの・・・?」
「まさかーははは、いくらニダでもそこまでわw買ったんだよー」
・・・・・どこでかは聞かなくいい・・・っつーか聞きたくなかった・・・。
「まぁ・・・おれ寝るから・・・・」
「あ、ごめんニダ。養生するニダー」
便利になったなー、と謎の言葉を残してにだは自室に入っていった。

自室に入る前に思い直し、食堂に寄って行く事にする。
いくらさっきので食欲が失せたとは言っても、何か口に入れておかないと元気が出ない。
「元気になっても・・・な・・・」
自嘲気味に笑って、食堂への階段を降りた。

食堂に入ると、ソファでジャギと海猿が机に突っ伏していた。
その前には開封された青い箱が二つと、今まさに風に乗って外に飛ばされようとしている柔らかい毛、ゼロピーがある。
「おれの・・・・200k・・・・・」
「ゼロ・・・ピ・・うう・・あいつ・・・侮れん・・・・」
死体のような2人を横目に、冷蔵庫を開ける。空だった。
「はぁぁぁぁ・・・・」
溜息だけを冷蔵庫に入れて、閉じようとする。
「あーっ!待って待って!」
のりちゃんが駆け寄ってきた。両手にビニール袋を下げて。
丁度買い物から帰ったのだろう。これで何か口にできる。
「っとー、ありがとねー」
ごそごそとビニール袋から買ったモノを取り出して冷蔵庫に入れる。
全部プリンだった。
「・・・・・・・・・」
「あ、これうちのだからね!食べちゃダメだよ!」
ぱたん。溜息とプリンのみを冷蔵庫は冷やし続ける。
「・・・・・・・・うううっ!」
空腹やらなにやらが口から漏れる。
「あー・・・そっかVちゃんお腹減ってるよね・・・でも・・・プリンはうちの!」
冷蔵庫は最強の守り手に守られた。
その代り
「食べたかったら買っておいでー」
ありがたい言葉を頂いた。


結局街まで買出しに行くことにする。
歩いて約20分。遠いような近いような。
今は面倒な気持ちが勝つ。が、何か買ってこなければ何も口にできそうになかった。
「のりちゃんのプリンだからな・・・・」
言ってから虚しくなる。一個くらい・・・いいじゃないか・・・・。
靴を履いて、砦の玄関を開ける。
天気は今日も晴れ。良い天気。陽光が玄関に差し込む。
そしてまっすぐ先に砦の門。
そのすぐ内側に、ヘンテコなモノを見つけた。
「?」
大きさは・・・そう・・・ウサギ小屋くらい。
全部木でできていると思われる・・・なんだ・・・・倉庫・・か?
しかしその考えをすぐに打ち消す。倉庫にしては・・・・その・・・なんとゆーか・・・派手すぎる。
派手とゆーか・・・。
近づくにつれて、その小屋の外観がしっかりわかってくる。
壁には謎の・・・そう・・・狂ったマシーンが書いたような抽象画みたいなものがデカデカと、これまた狂った色彩で書かれている。
さらに近づく。
カウンターのようなモノがあるのに気がついた。色とりどりの瓶が置かれている。・・・・中身は何か知らんが。
さらにさらに近づく。
屋根には看板がかかっていた。
『幻影騎士団専用』
と読めなくも無い。(一文字一文字全部色違い)いつの間にこんなモノが?
そしてカウンターの前に立って、店内を見た。

狭い店内で、少女が屈んで何かのダンボールを漁っている。
ヴェルト「パンツ見えてるからな」
少女「10kになりまーすっ!」
ヴェルト「たけぇ・・・・」
少女は振り向いて元気一杯に言った。
少女「いらっしゃいっ!!」
ヴェルト「商売・・・・?ここで・・?」
少女「はいっ!昨日からさせてもらってますっ!」
頷いた瞬間にゴーグルがズレる。
ヴェルト「おまぇ・・・また・・・はは・・・ゴーグル・・ズレてる・・」
少女「ショバ代でありますっ!さー!・・・・んにゃ、兄貴っ!!」

ヴェルト:赤ポーション一個獲得。




TAX:1
「お前、この小屋どうしたの?」
「小屋じゃないやいっ!”ラヴリー幻影よろず屋”!!」
「語呂最悪な・・・」
「これはマッスルガイが2人のナイス・ガイに作らしたものですのだ!」
「誰だマッスルガイ・・・」
「ごっつい癖にスーツ着て眼鏡かけてる人だっっっっ!!!」
「・・・・・もういい・・・・・」
「1人は良くお店に来て変なモノや青箱買ってくれて、武勇伝のコントやってくれますのだ」
「ジャギ・・・・」
「もう1人はいっつも礼儀正しいジェントルメンですのだ。でもたまに武勇伝のコントを手伝ってたりしますのだ」
「海・・・・」
「凄かったよお・・・マッスルガイが『作れ』って言ったら速攻作ってくれましたですのだ!」
光景が目に浮かぶよ・・・・・
おつかれ・・・ジャギに海・・・・・。


TAX:2
「ねちゃん、結局サリサはなんで助かったの?」
「んー?」
ソファでくつろぎながら漫画を読んでいた金髪紅目の司祭に尋ねる。
きっと知っているとするなら彼しかいないと思ったからだ。
「いや、軍曹がさ『身内にしちゃえばいいべな』って言ってたから、採用しちゃったんじゃないかな?」
「なんですと!?」
いつの間にか同僚になってたらしい。
後でエンブレム持ってるか聞いてみよう・・・・・持ってたらそれはそれでショックだけども。
「んーであの子の母親はここ10年くらいの記憶を消されて病院だと。」
「・・・・・・・・・・・」
そこまで甘くは無かった。けれど、これこそが妥当だとも思えた。
「あー・・・それともう一つ」
そう、もう一つあった。
「ノム君の行方、知らない?」
あの日からノム君だけは見かけていない。
つまり・・・・感謝も謝罪もできてない。
ナイフだけはいつの間にか部屋の机に置かれていたけれど。
「んー?・・・はははw心配無いって」
コップを口につけて中身を口に含む。
「あの日、ヴェル君担いでオレの所までぶっ飛んできたの、ノム君だしw」
それだけ言って、ねちゃんは漫画に目を戻した。

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
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