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Mirage-knight-cavalier02 Max end 
2006.05.30.Tue / 19:38 
ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
ぱらぱらりと葉を風が揺らす音。
次に温度。
肌に纏わりつく空気の密度。心地よい密度。
そうして『私』は眼を開ける。


「ううん・・・・」
見慣れた部屋の見慣れたソファで身を起こす。
ちょっとリラックスするつもりが寝入ってしまったようだった。座る前には陽の当っていなかった左腕に、今は陽光が窓から注がれている。
大して眠ったつもりは無いけれど、それでも一時間は経ってしまったかもしれない。
幻影騎士団の砦、そのリビング兼食堂にある海猿のソファは寝心地が良い。クッションはわらびーが持ってきたものだけれど。
そんなに高価なモノでは無いと言っていたから、私も購入しようかな・・・。
あ、でも今月は思ったより出費が激しいしなぁ・・・うーん・・・まぁいざとなれば色々やり方はあるし・・・うーん。
そんな事をソファで足をぶらぶらさせながら考えていると、目の前に2人の男が向かい合って座っているのが見えた。
「ふ・・・中々やりますな、無影卿」
「ふふ・・・ジャギ卿こそ中々のお手前で。このポーン等気品すら感じる。」
ジャギと無影がタキシードでチェスをしていた。
私は卒倒した。

「おっと、みるきー嬢が眼を覚ましましたぞ、ジャギ卿」
「ふむ、しかし今また眠りに落ちているようですが?」
0.5秒で覚醒した。
しかし・・・今日はハロウィンであっただろうかいや違う(即否定)
自分の記憶が途切れたり改竄されたりすることはありえない。
「ジャギに無ちゃん・・・・なんて格好でなんてものをしてるの・・・・」
未だに伏し目がちに問う。直視するとまた卒倒しそうだったからだ。
「ウップス。無影卿、これは如何な質問か?」
「ふむ・・・・寝覚めが悪かったのかもしれませんね・・・お嬢、体に変調はありませんか?」
無影が胸にさしたハンカチ(白)を颯爽と目の前に差し出してくる。
条件反射で受け取ってしまい、口を覆うとほのかに薔薇の匂いがした。
私はまたも卒倒しそうになる。
「ハハハハハ、無影卿は嫌われた様ですな」
「なんと・・・・レディ、私めに何か粗相がございましたか?」
さも心配だといわんばかりの顔でこちらを見る『無影卿』
それを面白がってお上品に茶化す『ジャギ卿』
わけがわからなかった。
「無影卿、どうにもみるきー嬢の具合が悪いらしい。チェスは一旦置いて・・・」
「むむ、ジャギ卿、それはなりませんぞ。貴族と貴族のチェスは謂わば戦のようなモノ。それを差し置く事はまかりなりませんぞ」
僧兵と精錬師の成れの果てだろうが・・・。
「然り、だがそれでも真の貴族とはレィディを第一に尊重するモノでは?」
「それはもちろん!しかし目前の戦とレィディとは秤にかけられぬ・・・」
「・・・・チェスを続けて・・・私はちょっと席を外します。」
とりあえずこの異空間から離脱する事に決めた。とゆーか、長くいると命に支障をきたしそうだ。
席を立って出口に向かう。そこで、まだ左手にハンカチを持っている事に気がついた。
「あ・・・これ・・・」
洗濯して返そうなんて上品な事はこの砦の者には必要ないだろうと考え、机の上にでも置こうとする。
「OH!それはレディへのプレゼントですよ。ハンカチをレディに返されるなぞ、生き恥にしかなりませんからなぁ」
「ハハハ!無影卿の言う事には一理も二理もありますなぁ!ハハハ!」
何も考えないで周れ右。
どうも異星人の会話に思えて仕方ない。
ハンカチ(白、薔薇の香り)はリビング兼食堂の出口にあるゴミ箱に捨てることにした。

部屋を出てすぐに、廊下の先からドスドスと音を立ててわらびーが歩いてくるのが見えた。
「む!わらびーめ!」
「お、みるきか!!!!」
どうにも『!』の数がいつもより多い気がする。そしていつになく大声な気がする。
「なんだなんだ!元気いっぱいだな奴隷野朗!!」
とりあえず街に出ようと考えていたので、足にする事にした。
「奴隷野朗とは挨拶だな!!がはは!まぁいい、ちょっと待ってろ!!!」
お前は誰だ。
そんな単語が脳裏を掠める。
そしてわらびーは一つの部屋の扉の前で立ち止まり
「弟者ああああ!!!勝負じゃああああああ!!!!」
私の鼓膜をぶち破るつもりとしか思えない雄叫びを上げた。
「こ、殺す気かわらびーめ!!!」
足を蹴って見る。
タイヤを蹴ったような感触がして気持ち悪くなって引いた。
「兄者かああああああ!!!?懲りん男じゃのおおおぅううううううう!!!!」
間髪入れずに部屋のドアが内側からぶち破られ、中からロキが現れた。
なぜかタンクトップ一枚で、マッチョだった。
私は卒倒した。

「おおお!?どうしたみるきー!」
倒れる寸前にわらびーにがっしりと体を支えられる。むちゃくちゃがっしりと。
気持ち悪くなってまたもや0.5秒で覚醒した。
「がはは!みるきーの顔を見よ兄者!嫌がってるぜ!」
「馬鹿な!ワシのこの丸太のような腕が気に食わんと!?」
「兄者の腕には美しさがまったくない!美しいとは・・・・」
ぐぐぐっと腕を曲げるロキ。その腕に幾本もの筋肉の筋が浮き上がる。
「こうゆーことだー!!わはははは!!!」
「気分が悪いからちょっと・・・」
もう此処に居てはいけないような気分になってきたので、足早に去る。
背中から声が聞こえる。
「今日こそワシが勝つんじゃあああああ!!!!」
「はっ!STRカンストのオレに兄者ごときが勝てると思うてかー!!!」
殴りWIZだったらしい。


隣の部屋でも男が2人椅子に腰掛けてTVを見ている。
”能力者”のTV鑑賞は珍しい。
既に電脳化をしているはずなので、脳内に直接映像を投影する事ができるからだ。
そしてその映像は他者と共有する事ができる。
「ちょ・・・おま・・・それは流石に・・・・」
男の1人、ノム3は何故かTVを見て赤面している。いや、初めて見る表情だからこれが赤面なのかどうなのかわからないけれど。
顔を真っ赤にして、両手で眼を塞いで(もちろん指の間から見ている)TVにちょっと斜めに構える感じ。
「うはwwwwwたまんねwwwwwwww」
もう1人の男、海猿はいつもスーツのくせに、今日はTシャツにジーンズを膝丈で切ったパンツと非常にラフな格好だ。
「ちょ・・・音くらい消そうよ・・・」
「ばかwwww音が無いと全然ダメだってwwwwwww」
顔を真っ赤にしてリモコンでVOLを下げようとするノム3に、それを力ずくで辞めさせようとする海猿。
TVに写っていたのはエロ動画だった。
しかも結構ハード目。
私はry
「亜qwせdrftgyふじこlp;!?」
卒倒と覚醒をほぼ同時に起こし、手近にあるものを2人に投げつける。
「うわっ!ちょっ!ちがっ!違うんだって!海がこれ!」
「ちょwwwwおれのせいwwwwwwww」
手をぶんぶんと振って否定するノム3とゲラゲラと笑い続ける海猿。
投げつけるものが無くなったと同時に部屋から飛び出す。
まったく、こんな白昼に何をやらかしてるんだあいつらはっ!!
この件ばかりは軍曹に言いつけてやろうと心に決めて、砦から飛び出した。




「ふははははっ!さすがのまじかるテッサと謂えど杖が無ければ手も足も出まい!!」
「・・・・くぅっ・・・・!!!!」
そっきまで晴れていた空がいつの間にか曇っていて、その空にはなぜかいつも着ている服を灰色に染めたバージルが浮かんでいる。
その視線の先には、1人のマジシャン少女が苦虫を噛み潰したような表情でバージルを睨みつけていた。
ちなみにバージルの目の下には不自然な程に黒いクマができており、まじかるテッサと呼ばれたマジシャン少女は不自然な程短いスカートを穿いて、金色の大きな鈴で金色の髪を纏めている。
「そぅれ!これでも食らえ!」
灰色バージルが中空で両腕を交差させると、まじかるテッサの足元にヒドラが八体も!?
「きゃっ!」
「ははははは!たっぷり可愛がってもらうがいい!!」
中空のバージルは超嬉しそう。
なんだこのエロゲーみたいな展開は。
あきれ返ってみている間にも、ヒドラの触手がまじかるテッサに伸びる!!!
その触手がまじかるテッサの足に触れる瞬間!
「いやーーーーーー!!!!!!」
ぼっかーん!!!
目をぎゅっと瞑ったまじかるテッサが叫ぶと同時に何かよくわからない強力な力がまじかるテッサを中心に爆発しヒドラを皆殺しにした!(句読点なし。一気にお読み下さい)
「えええい小癪な!!ならこれならば・・・・・ぬッ!?」
さっきの「ぼっかーん」で起こった土煙を両腕でばさばさとはらっていた灰色バージルの表情に緊張が走る。
土煙の中心から黄金色の光が漏れ出す。
だんだんと煙が晴れ、その中から出てきたのは・・・
「絶対・・・・絶対許さないんだからぁ!!」
額に謎の紋章を浮かび上がらせたまじかるテッサだった!
風でばたばたと不自然に短いスカートがなびくが、決してパンツは見えない。
「ぬぅ!!その紋章は!やはり貴様・・・・アトランティスの血を・・・!!」
もう設定とかどうでも良くなってくるような事を灰色バージルが無責任に叫ぶ。
「来なさい!!まじかるステッキ”愛羅武憂”ううううううううううう!!!!!」
まじかるテッサが右手を天に掲げると同時に、上空を覆っていた雲が円形に晴れ渡りそこから光り輝く黄金の杖が現れた!
『説明しよう!まじかるステッキ”愛羅武憂”は普段は海中深くに眠っているアトランティス帝国の武器庫に奉納されており、その帝国の王家の血を引く者の召喚に応じて空間両断跳躍能力を発揮してその手に現れるのだ!!!』
「だれっ!?」
目の前の展開に何もかもついて行けてなかったので、もちろん耳元で怒鳴られるなんて考えもしなかった。
「おれだったりして」
ジョンだった。声優使いまわしらしい。
「えーーーい!」
振り返ると、空中の灰色バージルにまじかるテッサがフロストダイバーの凍結を成功させている所だった。
「ぬぁぁぁ!!」
空中でカチンコチンに凍りつくバージル。それでも浮かんでいるのは意地か根性か。
「成敗!!」
すばばばばばばばばばばっ。
その氷結した灰色バージルにサンダーストームをぶち当てるまじかるテッサ。
「ぐうう・・・・おのれぇ・・・・・」
真っ黒こげになって、体の節々から火を噴く灰色バージル。爆発しそうな予感がした。
「このままで・・・・済むと・・・・思うなよおおおおおお!!!!」
どがーんっ。
やっぱり爆発した。
その爆発を背中に受けながら
「自己破産をして借金取りから逃げられても、私からは逃げられないわっ!!!」
まじかるテッサは決めポーズと決めセリフをきっちりキメていた。


軽い眩暈。
ああ・・・この感触はもうなんだか慣れてしまった・・・卒倒の予感・・・・。
今回は誰も受け止めてくれそうにないから、なんとか地面に着くまでに意識が飛びますように。
痛いのは



ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
何か単一の音。人の声?いや、これは人の怒号?
それと共に金属を何かで強く弾くような鋭い音。
次は嗅覚。
一度大きく吸い込んでしまったその匂いが鼻から離れない。
噎せ返るような・・・・・火薬の匂い。
まじかるテッサの魔法のせいかもしれない。こんな量の火薬は。
目が覚めたら・・・そうだ、軍曹に会いに行こう。のりちゃんでもねちゃんでもいい。
砦のみんながどうかしてしまったって、言いに行こう。
そうして『私』は眼を開ける。


「・・・・・るなっ!距離に気をつけて!!」
「馬鹿!頭を出すな!死にたいか!!」
目覚めは最悪。
心地もなにもあったもんじゃない、最悪の目覚め。背中にあたる何かが、金属なのか激しく背を刺す。
「・・・・・っつぅ・・・・」
顔を顰めて目をこじ開ける。
いきなり埃が目に入った。
「っつ・・・・」
目をこすろうと手を挙げて、その手が掴まれた。
「?」
「みるき・・・・良かった・・・気がついたか」
何かがこすろうとしていた目に触れる。見えないけど、柔らかい布のような感触。
でもその声には聞き覚えがある。
「・・・・わらびー?」
「おう、わらびーだぞ。みるき、さっきの爆発で気を失ってさ、中々覚醒しないから心配してたんだ」
「んむー・・・・わらびーめー・・・」
バチバチと何かが弾ける音、チキチキと何かが削れる音が絶えず聞こえてくる。
「むー・・・・夢を見てた・・・・」
目に当てられていたやわらかい布を手に取って、自分で埃の入った目を丁寧に拭う。
「ん?どんな?」
「んー・・・・ジャギと無影が貴族でわらびーとロキ君がマッチョでノム君と海君がエロ動画見ててテッサちゃんがまじかる少女でバージル君が悪の司祭だった」
自分で言っててやっぱり卒倒しそうな配役に我ながら感心する。いや、寒心か。
「ぶwなんだそりゃww」
ふき出すわらびー。そりゃ私だってそんなの聞いたら精神がどうかしたのかと思うけれど。
「笑うなっ!わらびーめ!」
ぽかりと殴ってやろうと思ってなんとか目を開けた先。
「あぁ・・・でも、その夢の方がよかったかも」
わらびーが涙の痕が残る顔で微笑んでいた。


「へっ・・・みるきが目ぇ覚ましてもなぁ。」
そのわらびーの後で、見慣れない兜が見えた。
「・・・・・まめちゃん?」
その兜のせいで一瞬わからなかったが、その左目の下の涙タトゥーは間違いなくまめちゃんだ。
いつもは『髪型が崩れるしダセェからしない』と言っていたまめちゃんが、今は無骨な兜を頭に載せている。
「よぅ、気がついたか」
ナイフを左手に持ち、そのまま手を挙げる。
私とわらびーとまめちゃんの背中には所々ささくれ立った鉄板が一枚。
全員その鉄板に背中を預けて、座り込んでいる状態だ。
「まめー、向こうの様子はどう?」
わらびーがまめちゃんの方に向いて尋ねる。
「あー、ちらっとしか見えなかったけどまだ海とピンクが見えたからニレは無事だろ。」
空いた右手で指す方向には、同じように鉄板が床に突き刺さっている。そこから確かにピンク色の髪がチラチラ見えていた。
「もう一つ向こうは?」
「わかんね。電通はこの距離だからな・・・盗聴してくださいって言ってる様なもんだくそったれ。」
ベーッと舌を出して悪態をつくまめちゃん。
状況がまったくつかめないし、2人の会話も意味がわからない。
とりあえず状況を確認しようと、中腰になって鉄板から顔を出す。
土煙と炎に包まれて見難かったけど、ソレはしっかり見えた。
床に伏せるけりたまの姿。上半身だけになって、既に光子化していたけれど。
「危ない!!」
わらびーが覆いかぶさるように床に引き摺り倒してきた。
そのままの状態で見た事を自分なりに考えてみる。
「・・・・・・・・・・・・」
呆然とした。一瞬だけ見た部屋の装飾からしてここは幻影騎士団の砦の中。しかも、この部屋の広さの規模は2Fの大広間しかありえない。
そこがこんなありさまで、けりたまはあきらかに絶命していた。
一体・・・どこのギルドが攻めて来たというのだろう・・・。
「どこのギルドが・・・・」
ついつい思った事が口に出てしまった。気にはしていない、してはいけない、Gvギルドなら人の死は当たりまえのものだと割り切っていた心が、けりたまの死に揺さぶられていた。
「みるき・・・・」
「はっ!”どこのギルド”だと?ハハハ、こいつ爆風で吹っ飛ばされてキオクソーシツになっちゃったらしいぜw」
有り得ない。自分の”記憶”は失われる事も改竄される事も捏造される事も無い。それはそういった仕組みだからだ。
”世界は起こった事を忘れない”のだから。
しかしそれでも記憶が無い。しかも、まったくだ。
目を覚ます前の記憶がはっきりしないのでは無い。まったく、抜け落ちている。
この状況での判断は不可能。情報が少なすぎる。それでもいくつかの推理はできたけれど。
「オレ達の敵はなぁ・・・・・ははは・・・・」
自虐的に笑うまめちゃん。自分でこれから言わんとする事がそれ程おかしいのだろう。
「”幻影騎士団”さ」
そういってついに爆笑した。


事の始まりは一通の電通。
『幻影所属のモノは2F大広間に集まるように』
とiwaokun名義で出されたもの。
丁度明日がGvだった為、その打ち合わせに集まっていたギルドメンバーの殆どと、”MI”から代表でマドラ・社が2F大広間に集合した。
そして、これからその打ち合わせが行われようとしていたその場で、iwaokunがいきなり言い放った言葉。
『皆には死んでもらうことになったでな』
これが全ての引き金だった。
最初その場に集まった人間は皆、Gvに備えて緊張しているだろうギルドメンバーに冗談の一つでも投げかけているように見えた。
が、そのiwaokunの雰囲気が、両脇にネッドとのりちゃんを従えた時にがらっと変わる。
一番最初に自我を取り戻したのはけりたまだった。
「散れえええええええええ!!!!」
叫びながら自身の能力を全開にして、大広間の内面を覆っている特殊装甲の壁を引き剥がして地面に立て、障害物にした。
そしてやっと皆が自我を取り戻し、その障害物に身を隠そうとした時、iwaokunの剣でけりたまは両断された。
一撃で。
その状況を目にしたニレコが飛び出し、そこにネッドの青い光線が走る。3本の光。
飛び出したニレコの危機を感じたジャギが、ニレコの腕をつかんで障害物の陰に引き戻し、その反動で自身が障害物の外に。
三本の光は違わずジャギの体に命中し、ジャギはその場で光子化して消えた。
それを見て逆上した社が槍を片手に躍り出て、それを援護する為にめぐが銃を構える。
めぐの機銃掃射をネッドとのりちゃんの2人がキリエで防いでいる間に社はiwaokunに接敵。その槍を振りかざす。
が、その槍がiwaokunの喉を切り裂くより一瞬先、”ザ・シルバー”のりちゃんの腕から銀色の細い糸が伸びて社自身を絡め採る。
そしてそのまま壁に貼り付けられた。
『社か・・・中々死なんからそのままでええでな』
「ぶーん」
のりちゃんが社に絡めていた糸の数を増やす。
シュコン。
めぐが3人にむけてグレネード弾を発射。命中爆破し、対象が煙に包まれる。
その隙により強力な火器を練成しようとめぐが手の銃を光に戻した瞬間、その胸に槍が生えた。
『煙でそっちから見えなくてもな、こっちから見えないとは限らんで』
めぐは絶命の言葉も無く、光になって消えた。
そしてその煙が晴れる直前、ノム3が右手から”ラグナロク”を発射。またもや爆発と、それに伴う爆煙で何も見えなくなった。
その時の衝撃で、私は意識を失ったらしい。


キンッ!
と酷く現実的な鋭い金属音で意識が回想と思考の海から引き上げられる。
そっと身を守っている障害物から顔を出すと、iwaokunに打ち込むマドラの姿が見えた。
そして、その少し後で光の束を撃つノム3の姿も。
平穏時には決して見ることができない2TOPだ。
キンッ!
また鋭い音。
マドラの剣をiwaokunの剣が弾く音だ。
『はははwこんだけ防げればマドラ流は免許皆伝だべなw』
「・・・・・・シィッ!!」 
斬檄のイメージが空を切る。
マドラの剣は通常の剣ではない。その”能力”を持ってして、既に攻撃というよりは現象に近い物となっている。
”限定空間内切断能力”
それはその空間に突然起こる”切断”という”現象”
故に、マドラの思考を読んでその現象の軌道を避ける、のならばまだ解る。
が、iwaokunはその剣を”受けている”
その”切断”は斬り始めと斬り終わりが無い。つまり、向かってきて遠ざかる、みたいなモノとは訳が違う。
マドラが思考して、”現象”が起こるまでコンマ数秒。
たとえ思考が読めていても、剣をその軌道に合わせるのは不可能に近い。
・・・・・iwaokunは未来視か思考制御ができるのかもしれない。
そこまで思い至った時、またわらびーに引き摺り倒される。
「わらびーめぇぇぇぇぇ!!!」
「だから危ないって!!」
すぐ頭の上、さっきまで自分の顔があった所を青い光線が通過する。
「・・・・わ・・・わらびーめ・・・・っ!」
ついつい声が震えてしまった。
がしゃんっ。
大きな音がして、金属音が途絶える。
懲りずに顔を出してみると、マドラの超大型両手剣が床に落ちて光になりかかっている。
そしてiwaokunの剣はマドラの体を貫通していた。
『攻撃はそこそこ。でも防御はからっきしだなおいw』
マドラの胸から蛍が飛び立つように光が漏れる。
「モイモイいいいいいいい!!!!」
社の絶叫が木霊する。
『うるせぇな。ねちゃん、黙らせて』
ネッドの右手が上がり、その腕から光の線が4本ほど社に向かって伸びる。
その瞬間、iwaokunの前にスマックが現れた。
”現れた”と表現してまったく語弊は無い。なんの挙動も無く、その場にたどり着いたのだから。
「”富嶽貫通”」
ただの右正拳に見える。が、その威力がただの正拳では無い事は”裏幻影”のモノならば全員知っている。
『おっ』
驚いたように反射的に挙げた左手に、スマックの”富嶽貫通”は受け止められる。そのまま拳を握られた。
「・・・・・・・・ちぃ・・」
「スマァァァァ!いくぞおおおおお!!!!」
スマックの舌打ちと同時に御影が障害物から飛び出し、光に包まれた両手をかざす。
御影の得意技、マグヌスエクソシズムの五乗掛け。
その詠唱を中段させるべく、ネッドが光線を放つ。が、その光線は御影に当たる直前で捻じ曲がった。
「今のオレには聖属性攻撃はきかんっ!!」
御影の体に浮かび上がる”聖紋”がそうさせるのか、指向性しかないはずの光線がぐにゃりと曲がっては目標からはずれる。
『司君、まだスマ君はオレの手の中だで?一緒に殺す気か?』
iwaokunは先程掴んだスマックの手を開放していない。
「そいつに聞いてみるといい!」
既に光の方陣を3つ完成させた御影が吼える。
スマックの体の中心は、星を閉じ込めたように光っていた。
『ふーん・・・”士魂”か』
”士魂”はスマック最終奥義。自爆である。
威力の程はわからないけれど(自爆なんてした事なくて当たり前だが)この砦くらいは地上から消滅させてしまうだろうとの事。
根拠も何もないが。
『二重の捨て身攻撃か・・・・おもしれぇw』
ネッドは両手を合わせて10本の光線を御影に向けて照射。全て捻じ曲がってしまい、命中しない。
「効かんと言っているだろう・・・がっ!?」
「うちもおるよ」
4つ目の方陣を完成させて、ネッドの光線を捻じ曲げて居た御影の胸に銀色の糸が4本貫通する。
方陣は光を失って消えてゆく。
「・・・・・司っ・・・・・!」
振り返って崩れ落ちる御影にむかって言ったその言葉が、スマックの最後の言葉になった。
『おもしれぇけど、これでおしまいだで』
空いた右手が易々とスマックの体を貫通する。その血まみれの手には・・・・・スマックの心臓。
2人は同時に体の中心から光になった。
「司っp・・・すまっp・・・・・」
わらびーが歯軋りをする。その顔の部分のやや下に青い光線が着弾、ネッドが顔を出すのも容赦しない。
「これで”幻影騎士団”も終わりだな・・・・へっ、それともあの3人がいれば”幻影騎士団”ってかwわらえねぇw」
まめちゃんがガムを噛みながら履き捨てるように呟く。
『おいおい、前にいるのノム君だけになったで?助けにこねぇとw』
「みるるー!おいでー。うちと遊ぼうー」
「海君、相棒死んじゃったなぁ!どうする?なぁ、どうする?」
”最強の幻影”と”緋色の瞳”と”銀色”が談笑するように語り掛けてくる。
『どうせならお前等、一斉にかかってこねぇ?もう飽きちまったでな、それにみんなで”うおー!”って来れば勝てるかもしれんでw?』
笑みを含んだ声が苛立ちを誘う。
「そうだよ・・・まめちゃん、軍曹は範囲攻撃を使ってない。もしかしたら範囲攻撃は持ってないのかも」
「ばーか。そんな仮定だけで命を晒せるかっつーのwまぁどの道待ってても緩やかに全滅するだけだけどなwだから・・・誰か踏み出すだろうよ」
最初は楽しそうに喋っていたのに、最後の方はとてもつまらなさそうだった。
とても。
のりちゃんが右手から伸びる糸で社を押さえつけながら左手の糸で障害物を撫で斬りにし始める。
ノム3はiwaokunへ集中砲火。ネッドの対爆対炎対冷対地防壁を一枚一枚剥がしにかかる。
iwaokunはその前身に対魔法防壁、対魔法耐性障壁を作り状況を見ている。
ネッドの青い光線が一枚の鉄板に当たり、そこに穴を穿った時その雄叫びは上がった。
「しあああああぁああぁぁぁぁぁ!!!」
ヴェルトが両手に持てるだけのナイフを持って鉄板から飛び出す。
その影には同じくナイフを両手に構えたデッドが潜む。
と、同時にまたiwaokunの前に人影が”現れる”。
『お、やる気になったか』
「いや全然。死ぬの怖いに決まってるでしょうがw」
無影が巨大な斧を持ってiwaokunに立ち塞がる。

「ちっ・・・ほら言わんこっちゃねぇ」
まめちゃんが指した先は丁度ヴェルトが飛び出した先だ。
「まめちゃん、オレらも・・・・・」
わらびーが騎兵剣を握りなおす。
「あーあ、どうせ勝てやしねぇってのに・・・まぁ最後くらい派手にやっか。おら、行くぞ」
中腰になったまめちゃんが走り出す。鉄板の外・・・・地獄に。
「うん・・・みるき」
急に紳士な目で見られてびっくりする。
「みるきはここから出ないで。誰か・・・きっと誰かがなんとかしてくれるから。頭下げて、顔出さないでね」
「わ・・・わらびー・・・わらびーめ!」
わらびーはズレる兜を直しながら、まめちゃんの後に続いて走り出した。
地獄へ。
丁度2人に先行する形で海猿が鉄板から飛び出す。そしてネッドの青い光線を一手に受けた。
が、その光線は全て体に当る手前で捻じ曲がる。
大気の精霊に干渉して、光の屈折率を変えたのかもしれない。


そして、今立っているのは”最強の幻影”と”緋色の瞳”と”銀色”と”盤上のACE”の4人のみ。
奇襲はあっさりと迎撃され、一人一人確実に殺されていった。
今最後に死んだ海猿が光に帰ろうとしている。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
無限機関を搭載しているはずのノム3が肩で息をする。先程の奇襲に合わせて”ラグナロク”を連射したからかもしれない。
『まぁ・・・思っていたより楽しかったでな』
もうiwaokunの周りには対魔法防壁も対魔法耐性障壁も無い。ネッドの支援防壁すら無い。
ただ剣を体の前で地面に刺し、両手を柄に乗せてノム3を見る。
その眼差しは驚く程穏やかだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
がしゃり、と未だシュウシュウと音を立て、煙の立つ右腕を上げるノム3。
『これで、終わりだで』
その頭に、iwaokunの剣が振り下ろされた。

そして私の意識は暗転する―


結局、『私』は色々な世界に意識を持って飛び込んだ。
ノム3がおかしくなってしまう世界。
ヴェルトがおかしくなってしまう世界。
テッサがおかしくなってしまう世界。
バージルと海猿が2人同時に殺戮を開始する世界。
わらびーがおかしくなってしまう世界。
みんなが狂ってしまった世界。
その中でも一番多かったのが、”iwaokunとのりちゃんとネッドが幻影騎士団を殺戮する世界”だった。
概要は同じ。
幻影騎士団が集められ、iwaokunが殺戮を宣言。
そこから少しだけ違っていたりする。
最初にけりたまが障害物を呼び寄せるのは高確率で起こる事なのだが、その後うまくiwaokunの攻撃を回避して生き延びる世界。
もちろん、最後には全滅してしまうのだが。
そして、これもあまり関係は無いのかもしれないが、幻影メンバーが死ぬ順番がちょこちょこ違う。
ジャギがニレコを助けなかったり、スマックが先に死んで御影が逆上したり、海猿が最初に死んだり。
そんな、死の世界を何十回も見た。
けれども、その中でiwaokunが倒れる事は結局、一度もなかった。

そして、幸せな幻影騎士団もまた、一度もなかった。


ぼんやりとした何か白いイメージ。
それは部屋のようでもあり、白い色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。
何もない、でも透き通った色。
どこまでも、どこまでも―

「ん・・・ぅ・・・・」
イメージが浮上していくのがわかる。
白い空がどんどん遠くなって、暗闇に埋没してゆく。
その代わりに音が聞こえてきた。
ぱらぱらりと葉を風が揺らす音。
次に温度。
布地を透過して感じられる人の体温。柔らかい暖かさ。心地よい感触。
そうして『私』は眼を開けた。

「ん?みるるー、目が覚めた?」
優しい声が降ってくる。
そして頭の下には柔らかい感触。
すぐに膝枕をされている事に気がつく。
「ん・・・・んんー・・・・・」
陽光が目蓋を貫いて眩しい。
「うぁー・・・幸せそうに寝てやがんなぁ・・・落書きしていい?w」
「ダメダメ、ねちゃんはいつもそんなことゆー」
ほっぺたを抓られたお陰で意識が急浮上する。
「ほらー、起こしたー」
目蓋をぎりぎり開いた先には、逆光でシルエットだけになったのりちゃんが見えた。
「んぐ・・・・・夢見てた・・・・」
くしゃっと顔をのりちゃんの太ももに押し付ける。暖かい。
「夢?どんな夢?」
「悪い夢・・・・とっても酷い・・・・夢・・・・」
そこまで言って今まで体験した『夢』の内容を思い出す。
「Σ」
「きゃあっ!」
膝枕の上で緊急起動。のりちゃんはびっくりしてのけぞってしまった。
「おお?」
ネッドも驚いてこっちを見ている。
「ここはっ!?ここはどこ!?」
現在地の確認。青空が見えるという事は、砦の庭かもしれない。
「え?幻影砦の庭・・・だけど?」
のりちゃんとネッドは芝生に直接腰掛けていた。
そのすぐ近くにランチボックスが4つ。
「おらー!フルハウスだ!どうだ!参ったか!!」
「ぬぅ・・・ワシは2ペア」
「オレなんてブタ・・・くそぅジャギめ・・・やるな」
「あーあ、おれもブタだー。くっそーついてねぇなー」
砦の中、一番庭に近いあたりからジャギや海猿、ヴェルトの声が聞こえ、カードを持って騒いでいる姿も見える。
「こうですの?こうすればいいんですの?」
「いやーおれパラディンだからなぁ・・・まぁそれでいいんじゃないかなぁ・・・」
「スク水でやればもっと良いんじゃないか「やあっ(はーと)」
「ジョンの阿呆・・・・」
少し離れた芝生の上で、わらびー一家が養女にナイフ投げを教えている。
ジョンとロキは芝生の上に座り、それを近くで眺めていた。
柔らかい陽光にピクニック装備のメンバー。
この『世界』は・・・・・
とても幸せそうな『世界』。
でも、先程言ったように今まで見た”幻影騎士団”に幸せがあった事は無い。
この風景も何度が見た。そしてこの幸せな風景は、これから壊れるのだ。
1人の暗殺者の手によって。
「・・・・iwaokun・・・軍曹はどこ!?」
がばっと身を乗り出し、反り返ったのりちゃんの眼前まで近づく。
「え?多分執務室にいると思うけど・・・・あ!みるるー!」
『執務室』と聞こえた辺りで駆け出す。もし私が見たことのある『あの世界』なら急がなきゃいけない!
「もう・・・ちょうどお昼時なのに・・・・」
無念そうなのりちゃんの声が、背中に痛かった。


カッカッカッカッカッ!
赤いピンヒールが砦の床を刻み、廊下にけたたましくその音が反響する。
走るのに向いていないその靴がもどかしくなり、その場に脱ぎ捨てて裸足で駆け出す。お気に入りだったんだけどなぁ・・・
そして息も絶えかけた頃、やっと執務室の前についた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋の外からでもわかるこの存在感。間違いなく幻影騎士団・団長iwaokunはこの中にいる。
何度も何度も、ギルドメンバーを殺戮した”最強の幻影”
扉に触れて押し開けようとした時、扉は勝手に開いた。
誘われる様に、中に入る。

『なんだ、みるきか。只事じゃない気配だったで、びっくりした』
陽光が差し込む執務室の中、iwaokunはいつもの馬鹿デカイ机の上で手を合わせ、こちらを見ている。
その手の脇には、まだ湯気の立つカップが一つ。
いつも天井に届けといわんばかりにそそり立つ書類の柱は、今日は無い。
だからか、iwaokunはいつもよりやわらかな表情をしていた。
「iwaokun・・・デッドは?デッドがどこにいるか、知らない?」
そう、私が見た『夢の世界』でこの幸せをぶち壊しにするのはただ1人の暗殺者・・・デッド。
彼はいきなり砦の庭に現れると、その能力”Air”で瞬く間にわらびー、アルセリーナ、エレナ、ロキ、ジョンを毒殺する。
そして、砦での乱戦。
ピクニックはぐちゃぐちゃに汚された。
『デッド?んー・・・周囲5kmにはおらんで。どうかしたか?』
わかるらしかった。
デッドはいない・・・・それでも安心は出来ない。
誰がいつおかしくなるか、わからないからだ。
「ねぇiwaokun・・・・あなたは、なんで幻影騎士団を作ったの?」
時間が惜しい。何か起こってからでは遅すぎる。その為に繰り出した、色々な意味を含んだ最強の質問。
今まで軟らかだったiwaokunの顔に、一瞬だけ緊張が走る。それもほんの一瞬の事で、また軟らかな顔に戻った。
『まぁ・・・・みるきは知ってるだろうから言うけどな。おれは”能力管理委員”のモノだで』
言いながら眼鏡を取るiwaokun。
”能力管理委員会”知っている。
それは表向きは存在しない事になっている特務機関。裏の機関まで知っている者の中でも、ごく一部しか全容を知らない特務中の特務。
その活動内容は”能力者の管理・運営・処分”
管理とは”能力者”の数と個性を調べ、その位置を常に把握する事。
運営とは”能力者”に王都を助けるような仕事を秘密裏にさせる事。
処分とはX(シングルエックス)以上と判断された”危険能力者”の暗殺。
この三つ。
『ほら、そこの窓からエレナがナイフ投げして遊んでるのが見えんだろ?』
指差された窓から庭を見ると、確かにそこにはわらびー一家が遊んでいるのが見える。エレナは楽しそうに笑っていた。
『エレナはXX判定を受けている』
「え?」
おかしい。確かに、彼女の才能と能力は恐ろしいモノがある。XX(ダブルエックス)判定も頷けるものだ。
しかし、それならば既に”能管”に処分されていなければおかしいのだ。
『エレナだけじゃないでな。庭にいるアルセリーナ以外全員・・・もっと言えば、幻影騎士団所属のメンバーは全員がX判定以上を受けている』
なんて事だ。
それならば、ギルドメンバー全員が処分対象になっている事になる。
『しかもな、うちのメンバーは殆どがその精神が重篤な者ばかりなんだ』
精神が重篤・・・・・・。
今までに見た『夢の世界』でおかしくなってしまったメンバーを思い出す。
それは例外無くギルドメンバーに起こっていた。
『さて、いくらみるきでもここまでだで。後は自分で判断してくれ』
カップを傾け、まだ暖かい液体を口に含むiwaokun。
「iwaokun・・・私はiwaokunがネッドとのりちゃんと一緒にメンバーを虐殺するのを”見た”」
『・・・・・・・・そうか』
「何度も何度も・・・・・それを”見て”きたっ!」
『そうか・・・・・辛かったな』
反論しない。それはiwaokun自身、その可能性がある事を示唆する。
『でも・・・・・』
言葉を続けるiwaokun
『この世界に虐殺は無い。保証する。おれはやる気無いし、メンバーの誰にも変調は起こってない』
庭から楽しそうな声が聞こえてくる。
そこではまだピクニックが続いていて、わらびー一家にネッドとのりちゃんも加わっていた。
柔らかな日差しに、心地よい風。芝生の緑っぽい匂いが運ばれてきて。
やっと見つけた、幸せな世界。
『なぁみるき・・・・”この世界”でやっていかないか。この世界には辛い事は無い。みるきを傷つけた色々な物は・・・無い』
窓の外、庭ではみんなが楽しそうにはしゃいでいる。
正直を言えば、さっきから混ざりたくて仕方無い。傍らにおいてあるランチボックスを見た時、きゅうとお腹が鳴った。
「う・・・・・」
うん、と頷こうとした。『この世界でやっていきたい』と。早く庭に出て遊びたかったし、お腹も減っていた。
何より、あんな残酷な世界をもう見たくは無かった。
そして頷く瞬間、フラッシュバック。
風にさらわれるように消えた社。
けりたまの壮絶な死。
ノム3の散り様。
ニレコの悲痛。
愕然とするわらびーの顔。
全てが一瞬で映り、そして消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメ」
擦れる声で誰にも聞こえないように呟く。
『どうして?』
それでも目の前の魔人には聞こえてしまったようだ。
そう、”どうして?”
自分は幸せを求めて夢を見続けた。そしてそれはここにある。
みんなと遊びたい。お腹も減った。
残酷なのはもう嫌・・・・・・。
なのに”どうして?”
もう先程のフラッシュバックは起こらない。
今なら全然言い直せるだろう。
けれど。
「私には、やる事があるから」
前だけを向いて、恐ろしいiwaokunの目を真っ直ぐに見て、自分で決めた。
『・・・・・・・・・そうか。』
iwaokunはうっすらと笑って、手近な紙を一枚手に取る。そしてその上にペンを走らせた。
『ほれみるき。仕事だで。』
そして、書き終わった紙を机の上で滑らせる。
『今度はおつかいじゃないでな。しっかりやれ』
手に取った紙には
”帰還命令:元の世界に戻って、やるべき事を成せ”
「うんっ!」
白いワンピースの少女は、くしゃっと指示書を握りつぶして『この世界』から消えた。数滴の涙を、煌かせて。

「・・・・・行っちゃった?」
執務室の入り口でのりちゃんが部屋を覗き込んでいる。
『あぁ、行ったで。』
その言葉を聞いて、部屋の中に入ってくる。
「あーあ、あのみるるーもかーいかったのになー」
『仕方ないで。そうなる事だったんだし』
「とかなんとか言って心配してるくせにー」
『手がかかる子程可愛いって言うでなぁ』
2人は執務室の中で顔を合わして笑った。



ぼんやりとした何か赤いイメージ。
それは部屋のようでもあり、赤色のイメージがあるのに漠然と空を連想した。
『私』にとっての空は、そんなイメージなのかもしれない。いや、『今の私にとっては』か。
何もかもを隠し、でも本当は何も無い。そんな寂しい色。
どこまでも、どこまでも―

沈殿していたイメージは無い。
だから意識が浮上した感覚も無い。
右手にはキラキラと光に帰ってゆく”指示書”。
赤錆を連想させる大地を、同じく赤焼けに焼けた空から見下ろす。
そこには白亜の砦。今は所々に焼け焦げた痕の残る、幻影騎士団の砦。
その屋上で1人の・・・いや、一体が半分になったモノが慟哭する。
「あああああああああ!!!!痛いっ!感覚を遮断した筈なのに痛い!なんだ・・・・この痛みは・・・・そして・・・なんだこの液体はああああああ!!!!!!」
顔を半分削ぎ取られ、体はボロ布のマントのみになったロキが、残った目から”液体”を流す。
その目の前には・・・・人一人分の・・・・残骸。
「オレはこいつを知っていた?馬鹿な。会った事も・・・見た事も・・・ぐぅ!!」
半分になった頭を半分になった片手で覆う。
「知っていた・・・いや・・・知っている・・・!?でも・・・わからない・・・・」
その残った目から零れる”液体”を拭われもせず、残骸に降り続ける。
だからそっと耳に呟く。
『ノム3』と。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ロキはその場所から消えた。
残るのはノム3の残骸のみ。
その残骸を左手で一掴みする。
「・・・・・・・・・・・・ノム君・・・・・・・・」
それは持って行く事にした。
どんな物でも、遺体には代わり無いのだから。
右手に握った紙が、殆ど光の砂になって消える。
けれど、そこに書いてあった文字の意味だけは消えない。

「私は、やるべき事を成す」
助け出すのがお姫様じゃないのは、この際ご愛嬌だっ!!
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Family @ExtremeMonk Vol1 (ジャギ処女作) 
2006.05.28.Sun / 23:05 
「うぅ~ん朝か」

ベッドから体を起こす。毎日変わらない朝だ。そう見知らずの女が横で寝ているのもいつもの事だ。どうせどこかで買ってきた女だろう。

「よくこいつも、知らない男の横でスヤスヤと寝てるもんだな、まったく世の中荒れてるな。」

しかし・・・夜見ると判らなかったが、良く見るとそこまで美人ではなかった・・おっかしいな美人だと思ったんだけどな・・・まぁいいか。

「おい、いつまでこんな場所で寝てんだ、商売が終わったらさっさと店かなんかに戻るのがこの商売の常識だろ、おい、起きろ。」

ようやくお目覚めみたいだ。ったく商売なら商売でさっさとやることやって帰ってほしいもんだ。

「ん~。ふぁぁ。」

「さっさと服着て、店でも家にでも帰れよ。ったく。」

「朝からうるさい男だねぇ・・・うっさぃなぁ。わかってますよ、ハィハィさっさと帰りますよ。なにさ、あんたが一人じゃ寂しいからって横で寝ろって言ったくせに。」

記憶にも無い・・変な女だ、まったく。まぁいいか、これから俺の一日が始まるってのに、朝から最悪だ。

そう、俺はジャギ。別段とりえも無いが、適当なのが俺の売りだ。

ここはプロンテラ。冒険者、ギャング、警察、なんでもござれの、腐った町だ。

俺はジャギ。ギャングの一員だ。さぁ一日の始まりだ。

 昔、神と人間、そして魔族による戦争があった。
その長きにわたる聖戦の末、壊滅的な打撃を受けた3つの種族は滅亡を避けるために、
互いのひそやかな休息を得る事になった。
1000年の平和‥‥ 。
この長い休息によって得られた平和は、ミッドガルド大陸で生活している人類から悲惨な戦争と、
過去に受けた傷を忘れさせてしまっていた。
彼らは過去の過ちを忘れ、己の欲望を満たすために自らの文明を発展させていった。
そしてある日、少しずつその平和のバランスが崩れる異常気象がミッドガルド大陸の所々で現れ始めた。
人間界と神界、魔界を隔離する魔壁から響いて来る轟音、凶暴化する野生動物、
頻繁に起こる地震と津波。そして、いつの頃からか広まっていった魔物たちの噂。
平和の気運が崩れて行く中、この世界の平和を支えているという”ユミルの爪角”の噂が
少しずつ冒険者たちを中心に広がって行く。
だが、人々はその本質を忘れ、それぞれの利益のため、
その正体と富を求めて冒険へと旅出っていった‥‥。
過去の記憶を忘れて‥‥。
ある者達は冒険者になり、ある者達は都市の住人となり、そしてある者達は表舞台から姿を消す事を選んだ。
 各都市には裏の世界が存在する・・・・。
それは、ギャング(ギルド)等の存在である、各ギャングは自分達の縄張りを持っておりその縄張り内で生活していいるだけでは無く、日夜抗争を繰り広げている。
首都プロンテラ
ここにもいくつかのギャングが存在する、大きくわけると4つ大きな通りで区切られている、その中のひとつに俺の所属する組織がある・・・・・。

部屋から出ると同時に腹の虫が鳴き始めた。一階にある食堂でメシを食おう。

ギルドで建てたアパートに住んでいる俺は、ここの一階にある食堂でメシの食うのが当たり前になっている。やっているのは、なじみの「ウィンリーナ」と「海猿」の夫婦。プロンテラでもそこそこ美味い食堂だ、御陰で昼時なんかは、客が結構居たりする。

「うぃーす。やってる?」

「重役だな。こんな時間まで寝てやがって、見てわかんねぇか?満員御礼だ」

「うっせ、それといつものやつを頼むわ」

「うぃ、いつものやつか。おーいのりちゃん、いつものだってさ」

のりちゃんとは、海猿の奥さんウィンリーナのあだ名である。なぜかのりちゃん理由は。。。
知らないし、そこまで気にならないので良しとするけどね。

「はーい、今混んでるから少し時間かかるけどいいでしょ?」

「だとさ、暇なら手伝え、ツケも貯まってるしなww」

「寝起きの俺にいきなり働けかよ。しゃーねぇ、借金があるしな、手伝うよ。」

「お、すまねぇな。のりちゃん、ジャギのメシはキャンセルで。」

おぃおぃ、いつまで手伝わせるんだよ・・・・

「手と顔を洗って来い、そんでエプロン忘れんなよ」

「ヘイヘイ」

約1時間位手伝っていると、見慣れた面子が揃ってきた、ギルドメンバー達だ。
仕事を終えてきた奴、俺と同じ寝起きの奴、そしてこれから仕事をするやつ、まぁ顔をみてりゃだいたい予想はつくけど。

「お、ジャギ。マジメに働けよ。お前の借金が俺等の中で一番多いからな、働かざるもの食うべからず、だな」

「うっせーな、わらびぃ、お前も働け」

「俺は仕事帰りだもん。だからいいの。ここでは俺はお客様なの、ほれ水くれ水」

「ヘイヘイ」

2時くらいにもなると、面子も固定されてくる、このくらいの時間に俺はだいたい釈放されるわけだが。

「ジャギ、上がっていいぞ。ほれいつもの」

「あんがとさん。いただきまーす!」

周りを見るとギルドメンバーしか居ない。こうなると外では話せない内容も話せる。
ここは食堂であり、うちのギルドの心臓部でもあるからだ。マスター代行の、のりちゃんから各自に仕事が渡されるのもこの時間だ。まぁ片付けして、すぐに仕事を渡せるって利点からも、ここの場所でよくやる理由の一つだろうけど。

どうか、めんどくさい仕事が来ませんようにっと

ギャングギルドと言っても、ただ暴れているだけでは、金が底をつくし、この食堂の稼ぎだけでは、そうしようもないので、俺等しかできない仕事をこなす事でギルドの運営をしていく。大方のギルドはこんなもんだ。
仕事の種類も千差万別。殺人、強盗、誘拐等、なんでもなのだが、うちのギルドは比較的クリーンな仕事をするらしい。まぁ集金とか、すこしうるさい奴をおねんねさせるとか。その仕事内容でPTであるか、ソロであるかも変わるし、もちろん報酬も大きな差がある、基本報酬にもよるが40%~70%の間をギルドに渡す。そして月末に歩合と出来高でその月にもらえる給料が変わる。仕事して金まで、入ってそして給料までもらえる。そして仕事中にでた、俗に言う「おいしいもの」は自己処理までできるのがいい。
この報酬や給料体型はギルドで様々であるが、うちのギルドは結構良心的な方だと思う。

「ん?なに、ボソボソ言ってるの?さっさと仕事に行く!さっきわらびぃが言ってたみたいに、働かざるもの食うべからずよ!がんばっていってらしゃーい」

うぃー  (一同)

「ぷっは~。この一服がねぇといけねぇよ。さぁって仕事仕事っと」


Mirage-knight-cavalier01 
2006.05.28.Sun / 23:01 
「だからよぅ、オレは言ってやったのよ、チェンジ」
スペードのジャックとハートの8をテーブルの上に捨てて、配られたカードを開く。
「・・・・ッデム・・・」
「あぁ・・そのジャックがあれば・・gg」
「用があるなら幻影の砦に来いってよっ・・・もっかいチェンジだっ!」
投げるようにクラブの2とダイヤの5をテーブルに捨てる。
「ジャギよ・・主はなんでも看板かけすぎじゃ・・・わしは良い。コール」
「あぁ・・・そのクラブの2があればぁ・・・ggg」
「んだよー、仕方ねぇじゃん。オレここに住んでんだし。ってコールかよ・・・なんでたった5回のチェンジで手が揃うんだよ・・・」
「わしは3回しかチェンジしとたらんがの」
「おれはもうおっけー。かかってきなさい」
「海はポーカーフェイスなのに良い手が来るとロッキンチェアーを揺する癖を治すがよい・・・」
「ばっ!あいすんあいすん!そんな癖無いよ!作らないでよ!」
「わははっ!うーみー、次から勝負だぜーw」
「今回は?」
「うるせーっ」
「んん・・・・おれはどうすっかなぁ・・・やっぱチェンジ」
「はいはい」
海猿が捨てられたカードの枚数を横目で見て、同じだけのカードを配る。3枚。
「Vやんは手堅いよなぁ・・・ってポーカーで粘るのを手堅いっつーのかわかんねぇけど」
うあーっとソファーにもたれかかるジャギ。陽光が目にかかってまぶしい。自分の手もまぶしいばかりの・・・・ブタ。
「うしっ、これならいけそうな気がしてきた。」
ぱたりこ、とカードを伏せる。
「まぁジャギがブタだから最下位はなかろうて・・」
「ちょ、ばかっ!おれはすげーよ!?すげー手だからよっ!もっかいチェンジしろって。しろってーーーー」
言い始めと言い終わりでテンションが全然違った。もう諦めたのかもしれない。
窓際の陽だまりL字ソファでだべりながらのポーカー。
最下位のモノは上位すべての人間に10k支払いのペナルティ。
平和な休日の、暇潰し。
「じゃあみんなおkだね?チェンジなしだね?」
海猿が自分のカードを手に取る。カードを見た瞬間、やはりロッキンチェアーは揺れたかもしれない。
「あーいーよいーよ、ほれ」
ばららっとテーブルの上に手を晒す。・・・・・・やっぱりブタだった。
「ジャギぃ・・・オープンって言ってから手は出せよぉ・・・ったくしょうがないなぁ・・・オープ」
「ちょっと待った。」
「お?」
「ぬ?」
「うぇ?」
カードの開示を止めた者以外が変な声を出して挙動を止める。
それは・・・
「Vちゃん、どうかした?トイレ?」
陽だまりが一部だけ影になった場所にいた、ヴェルト。
「いや、ちょっと連絡が入ってね。すぐに出かけなきゃいかん」
今までソファと一体化していたジャギが元気に起き上がる。
「んだ?揉め事か?」
「主はそーゆーの好きじゃのぅ・・・」
アイスが呆れた目をジャギに投げかける。
「いんや、ぐんそーがね、お呼び」
右の人差し指でコメカミをトントンと叩きながら憂鬱極まりないといった感じのヴェルト。
さーっと顔色が白くなるモンクとチャンプ。
「そ・・・そりゃ急がないとねっ!」
「お・・・おおっ!やべーぜ!ぶっ殺されちまうっ!」
「いや殺しはせんじゃろう・・・さすがに・・・」
「甘いっ!」
「あめぇっ!」
海猿から後頭部を、ジャギから逆水平チョップを食らうアイス。
「ジャギやんいつものゆったげてっ!」
「おう聞きたいかおれの武勇伝っ!」
海猿とジャギの即興コントが始まっていた。
「V、官舎まで”飛ぶ”か?」
そのコントを見事にスルーしてアイスが尋ねてくる。
「あ、いや、ついでに買い物もするからさ。ありがとw」
陽だまりから身を引いて、出口に向く。
日陰の中からの陽だまりはまた一段と輝いて見えて。
コントをする海猿とジャギ。それを苦笑しながら見るアイス。
掛け替えの無い仲間達も、やっぱり輝いて見えた。その情景を、一枚の絵のように心に書きとめる。
そしてその絵に背を向けて、ヴェルトは部屋を出た。

「おい、そういやポーカーどうすんの」
コントから我に返ったジャギが自分のどうしようも無い手を見ながら言う。
「そのままにしておけば助かったものを・・・・阿呆じゃのぅ・・・」
「せっかくだからオープンしよっか。最下位はジャギで決定だしw」
「うるせーっ!あ、わかった!!Vやん逃げたんだ!!オレのブタよりも酷い手だったから!」
ジャギがテーブルを飛び越えてヴェルトの居た椅子まで飛ぶ。
「いやそれよりも酷い手って・・・」
「ふへへへへへっ!しっかり徴収してやっからなあああああああwwwww」
テーブルの上に伏せられていたカードを捲る。
エースのスリーカードだった。
「なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!!!!!」



「おいてめぇ幻影のモンか?」
砦を出て直ぐ、変な男三人組に捕まる。
「へ?」
「てめぇ今この砦から出てきたろ?見てたんだぜ」
「おぅ、見てた見てた」
それはなんとも奇妙な三人組で、服装はなんか全身サイズオーバーなダボダボな感じ。
1人なんて作業着・・・とゆーかツナギだった。
ジャギかお前等。
「ここにジャギって馬鹿がいるだろ?おい」
胸倉を摑まれる。
「いやそりゃいるけども」
面倒だから抵抗もしないでおく。
「おれ達ぁそいつに用があるんだわ。ちっと呼んで来てくんね?」
ひょろ長い方が顔に凄みを(多分)利かせて顔を近付けてくる。
3人の胸には見たことも無いエンブレム。あー、これはあれか、さっき話してた奴等か。
「中に入って自分達で用件伝えればぁ?おれ急いでるし」
ぐっ、と体が持ち上がる。摑まれた胸倉が捻られた。
「許可無く砦に入ったら砦の防衛なんたらが作動すんだろぉ!?あぁ!?」
それは砦が無人の時だけだ。阿呆。
これで大体アタリが付いた。砦も取得した事がないような弱小ギルドのチンピラ。
これで間違い無さそうだ。ジャギの馬鹿。もうちょっとマシなのに喧嘩を売れよな・・。
「それは無人の時だけだからさぁ・・・」
さっきから捻られている胸倉が少し痛い。そのちくちくとした痛みが蓄積されて行き、なんだか勘に触る。
「面倒だなぁ・・・」
何より自分は急いでいる。先程の二人が言ったように殺される事は無いだろうが、それでもギルドマスターの機嫌は損なわれるだろう。
それはプラスでは無い。マイナスだ。
そのマイナスと、白昼砦の前に死体が三つ散らばる事による風評被害のマイナスを比べてみる。
・・・・前者だな。
ヴェルトはその二つを比べて、風評被害のマイナスを受ける事にした。
「・・・・・・」
3人から見えない位置でナイフを練成し、さぁこれからバラそうかと思った矢先に胸倉から手が離れた。
「やっぱりいい。自分達で声かけてくる」
今まで胸倉を掴んでいた男がすたすたと砦の中に入っていく。
「えー、ヤッていきましょーよー」
背の小さい男が後に続く。
ひょろ長い男だけがその場に残り、蛇を思わせる目で睨んできた。
「・・・・命拾いしたな」
そしてそう言って二人の後に続く。
練成したナイフを手の中で光に帰す。
どうやらチンピラも長生きする術は知っているらしい。


砦の塀伝いに歩いて騎士団官舎へ向かう。
幻影騎士団の砦は王都は王都でも街外れにある為、歩いて行くには少し距離がある挙句、道はあぜ道、商店の一つも無い。人通りすら滅多に無い。
あー、やっぱあいすんに飛ばしてもらえば良かったか。
なんて後悔し始めた頃、まだ遠く・・・でも真正面から声がかかる。
「ヴェールトさーん!こーんにーちわー!!」
「んー??」
頭の上で小さなモノが右に左に世話しなく揺れている。・・・・手を振っている?
「おー」
右手だけ挙げて挨拶。いや、誰かまだわかんないけども。
豆粒みたいだった人影がどんどん拡大されて、やっと判別がつくようになった。
「あー、お前かぁ」
目の前には、大きな木製のカートを引いて、少しずれたゴーグルを頭に載せた商人の少女。
「わからなくて手ー振ってたんですかっ」
よっこいしょっとカードの持ち手を地面に下ろして立ち止まる。
「いや普通見えないから・・・・お前目ぇいいんだなぁ」
確かに目は大きいような気がするが、目の大きさと視力は関係あっただろうか?
「ヴェルトさんの猫背は特徴ありますからーw」
いひひ、と笑ってカートを漁る。またいつものヤツだろうか。

いつだったか、そんな昔では無い頃にこの少女とは出会った。少女とは言っても言動が幼いだけで15歳らしいが。
幻影の砦の前で絡まれていたのを助けた・・・・事になるのかなぁアレ・・・・。
『おぜうさん、一緒にお茶でもいかがですグハァ!?』
砦に帰り着くなり見つけた商人の女の子をいきなり口説き出した無影の脇腹を蹴っ飛ばす。
「ったく・・・・もう性別が女ならなんでもいいのかあんたは・・・」
商人の少女は口をぱくぱくさせている。まぁ・・・おれでもすると思うが。
見れば、頭に装備したゴーグルが少しズレている。
気になったので直してやった。
「なぁ嬢ちゃん、ここは人通りも少ないしこんな女ならなんでも良いって変態もいる。しかも砦の中にはまだペド狂人のわらびーってのがいて・・」
「ショバ代でありますっ!さー!」
さっと機敏に差し出された少女の両手の上に赤ポーションが一個。
ヴェルト:赤ポーション一個獲得。
「話は聞こうな?」
「苦手でありますっ!さー!」
聞いちゃいねぇ。
「まぁほら・・・危ないからさ・・・」
「はっ!大丈夫でありますっ!危なくなったらこの・・・斧・・・でっ・・・・」
カートから斧を両手で引きずり出・・・・せてなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ガゴンッ!
中途半端に引きずり出された斧がカートから落ちる。
「Σ」
そっちの方が危なかった。
「この斧で一撃でありますっ!さー!」
地面にめり込んだ斧を指差してぴっと敬礼。
持ち主が一撃そうだった。
「・・・はぁ・・・」
めり込んだ斧を片手で引き抜いてカートに載せてやる。
そのまま何も言わずに砦に。
「あ、あのーっ!ここで商売しても・・・・・?」
背後から声がかかる。
右のポケットに違和感。探ってみると、いつもの癖でねじ込んでいた赤ポーションが一つ。
「ショバ代もらっちまったしなぁ・・・・勝手にしなさい・・・」
「あ・・・・ありがとうございますっ!さー!」
きっとまた敬礼でもしているんだろうと思う。またゴーグルをずらして。
振り返らず、右手だけあげて砦に入った。


「はいっ!今回のショバ代であります!さー!」
ぴっと差し出される少女の手の上に赤ポーションが一個。
ヴェルト:赤ポーション一個獲得。
「はぁ・・・まぁ・・・・・」
商品用のモノだろうか。赤ポーションの瓶はピカピカに磨かれていて、顔が写るくらいだった。
「なぁ・・・ここで商売して・・・・儲かるの?」
見渡せど見渡せど周りは荒野。王都プロンテラの僻地。人通りもやっぱり殆ど無い。
「人が一杯いても買ってくれなきゃ意味ないですもん」
「ここじゃ売れるっての?」
少女は、にひひ、と笑って。
「企業秘密ですのだ!」
ぴっと人差し指を立てる。
「でもヴェルトさんは私にとっては兄貴分であり強面のにいちゃんなので特別に教えてあげますのだっ!」
「誰が強面か・・・」
そして兄貴でも無い。
「にひひ、実はですね・・たまに幻影さんの砦にはお客さんが来るですのだ」
「お客?」
そんな上品なモノは来ない。そーゆーのは軍曹が騎士団官舎で迎える事になっているからだ。
「ちょっと怖い・・・ヴェルトさんよりももうちょっと怖い感じの人達がたまにくるですのだ」
ぴっこーん。
さっきの三人組が思い浮かぶ。ってちょっと待て・・・
「おれ・・・そんなに怖い顔してるか・・・・?」
「その人達がぞろぞろーって砦に入って行ったらですねぇ・・・」
スルーされた!!
「すぐに”しゃらくせえええええええ!!!”って声がして、大怪我して砦から出てくるですのだっ!」
「ははーん・・・そいつらに薬を売ってやる、と?」
こっくんこっくん。
「お陰で今はほらっ!」
がばぁっとカートにかかっていた布を引き剥がす。そこには・・・
「おおおおっ!?カート一杯に白ポーション!?」
かなりの数ががちゃがちゃとひしめいている。
「ギッてきた?」
右手の人差し指を鉤状にまげて見せる。
「とうっ(はーと)」
ずびしっ!ちいさな正拳が鳩尾に決まった!
「正中線をポンポン殴ってはいけな・・い・・・」
急所だから・・ね・・・。
「買いました!ちゃんと仕入れたですのだっ!さー!」
ぴっと敬礼をする。
「ふむぅ・・・」
これだけの数を仕入れるのは、今までの少女の財布からは考えられない。
どうやらジャギの迷惑も、この少女のためにはなっているようだった。
耳を澄ますと、遠くで
”しゃらくせええええええええ!!!!”
と謎の雄叫び。
きっと今頃さっきのチンピラが大怪我をして砦の前に逃げ出した頃だろう。
「泣いてるんですか?」
少女が見上げてくる。
「泣くかっ!」
びしっとゴーグルにチョップ。なんか・・・柔らかかった。
「いてててて」
精錬0のゴーグルだった。
「精錬くらいしようよ・・・・」
「そんなお金は無いのだ!です!」
「言い直さなくていいから・・・」
涙目で睨んでいた目が(そんな痛かったか?)ふと素に戻る。
「はっ!?」
ばばっとカートに布を被せ、カートの持ち手を地面から引き上げる。
「ん?どした?」
「ヴェルトさんと遊んでいる暇は無かったです!商売チャンスでしたのだ!」
ぎぎぎ・・・・とゆっくりカートの車輪が回りだす。ゆっくり・・・・ゆっくり・・・・ゆっくりすぎないか!?
「あの・・・・もうちょっとスピードUPしないと・・・間に合わなくね?」
「ガンバっでまずよおおおおおおお!!!」
歯を食いしばってカートを引いていた。
重量過多。思いっきり、引けてなかった。
さっきのジャギの雄叫びから、すでに少し経っている。この道を逃げかえってきているならもうそろそろ見えて来てもいい頃合だ。
なのに見えて来ないって事は・・・・別の道を逃げたか。
何も王都までの道は一本では無い。
なら、怪我人と少女が接触する機会は失われた事になる。
そして、砦から怪我人が転がり出るのはそう多くないはず。
つまり今日はもう・・・空振り。
目の前には歯を食いしばって重いカートを引く商人の少女。
さっきのジャギの雄叫びは、訓練されていない者の耳ではこの位置では聞こえない。
「はぁあ・・・」
溜息。
「なんでずがああああ?」
「お前本当に女の子なんだろうな・・・」
ひょいとカートの持ち手を取る。
「お?」
「ちょっと王都まで行くから付き合え」
ガラガラと事もなげにカートを片手で引く。
「えええええ!?商売チャンスが!さっきみかけた強面のにいちゃん達が!!」
持ち手を離さないから、ズルズルと少女ごとカートを引いてしまう。
邪魔だなぁ。
ひょいと襟を掴んでカートの上に載せてやる。
「ほ?」
「あいつらもう帰ったからな。ほら、王都でアイス食わしてやるから。」
「・・・・・シングル?」
「・・・・トリプルでもクワドロプルでもいーよ好きにしろっ!」
「GOGO兄貴ぃー!」
物凄い扱い易かった!
カートの上ではしゃぐ少女の頭・・・ゴーグルがまたズレている。
空いた手で直してやった。
「兄貴じゃねぇっての・・・・」
「♪?」
「ほんとに話きかねぇのなぁ・・・」
変な子連れ狼が、王都に向かう。



『この間の”仕事”ご苦労様』
騎士団官舎内に設けられた”幻影騎士団出張所”と呼ばれる一室でその男と向かいあう。
存在感だけで押しつぶされそうな、そんなエーテルの圧力をたった一人で放つのは”軍曹”・・・幻影騎士団・団長iwaokun
『お陰でオレも随分動きやすくなったでな』
朗らかに笑う。一般人が見れば、子供のように無邪気な笑顔に見えるだろう。しかしそれ故に恐ろしかった。
「は・・・・して、今日はどのような?」
目の前にはまだ湯気を放つコーヒー。しかし、飲む気は起こらない。
どうも軍曹を目の前にすると食欲や渇きは起こらない。ただ、何事も起こらなければいいと願うだけ。
軍曹は、一つ溜息をついて眼鏡を外し机の上に置く。
『今回も”仕事”だで』
一枚の無地の封筒を机の上に置く。
手に取り、その中を見た。
一枚の写真が出てくる。
『その女の名前はオルガ。オルガ=エテー。』
金髪の中年女性。皺がそろそろ気になる年頃か。
『容疑は王都転覆計画作成。”仕事内容”は・・・その一家の暗殺』
オルガと呼ばれた女性の写真の下からもう一枚の写真が滑り落ちる。
床に落ちたその写真に写っていたのは・・・・・。

『後味の悪い”仕事”だけどもな、どうか頼むで』
そう言われた言葉がぼやけて思い出される。
自分はなんと言って退室しただろうか。覚えていない。
ぼぅ、としたまま騎士団官舎の廊下を出口に向かって進む。
”殺し”の依頼を受けたのがショックなのでは無い。むしろそれは全然関係が無い。
自分は半ばそれを食事の種として生きてきたのだから。
暗殺奇襲闇討ち毒殺射殺諜報工作。
それが人生のほぼすべてだったのだから。
だからその事柄自体は問題では無い。
息をするように殺してきたのだ。
息をするように捨ててきたのだ。
でも・・・・さっきの写真は・・・・・。
「・・・・ると・・・・ん・・・!」
遠くから声がする。
「ヴェ・・・さー・・・・!」
なんだかもう何時間も聞いてないような。
「ヴェル・・・・ん!!」
何日も聞いてないような。
「ヴェルトさん!早く!」
少女が騎士団の門番に挟まれて、溶けそうなアイスを持って叫んでいた。
「とけるーっ!!」



「うまうま♪うまーっ!こっこのストロベリーのぷちぷち感が!感がっ!!!」
ほんのり赤みを帯びた西日を受けながら、少女と二人石階段に腰掛けてアイスを舐める。
オレのはほとんど溶けかけていたが・・・・。
「オレは後で自分で買うって言ったろ・・・・」
「むぐーっ!チョコが!この滑らかなチョコがああっ!!!」
全然聞いちゃいなかった。
「・・・・だって・・・・アイス屋さん移動するって・・・・」
むー、とアイスを睨みながら呟く。まったく聞いて無い訳でも無かったらしい。
「かっ・・・・そんなの後で探せばいいだろ・・・・」
猫背を丸めて滴りそうなアイスだけを舐め取る。
「ミントの爽やか!これっ!爽やか!」
「何段食ってんだよっ!」
じじゃーん!と目の前にアイスの柱。
「フィフス(五段)」
「ばかwwwwwww」
もうなんか遣る瀬無い気持ちになってきた。
見るとまたゴーグルがズレている。鼻にアイスもついていた。
「ったく・・・しょーがないなぁ・・・」
ズレを直し、アイスを指の腹でふき取ってやる。
「う?」
「ほれ、ガキじゃねぇんだから。」
ゴーグルを直して、ポンポンと頭を叩く。
「お?ありがとうっ兄貴っ!」 『ありがとう、お兄ちゃん』

「・・・・・・・・」
あいつは、盗賊だった。商人なんかじゃない。
元気一杯な所も、大きな目も、すぐにズレるゴーグルも似ているけれど。
あいつじゃ、ない。

「お?惚れましたかっ!さー!」
アイス片手にぴっと敬礼する。
「・・・・・・馬鹿。もう暗くなるからさ。帰るぞ」
パンパンと尻を叩きながら石階段から腰を上げる。
「しっ・・しかしアイスがっ」
「カートの上で食えっ!」
襟首を掴んでひょいとカートの上に載せる。
「楽々であります!さー!」
「このカートはお前のだからな・・・・」
敬礼した時に零れたアイスの雫を指して言う。
「あぁ!?カートが!カートがああ!!」
「ほら、目を離すとアイスが零れるぞ」
「わーっ!アイスアイス!」
「カートが・・・」
「かーとおおおおおお」
「わははwお前ほんとに15歳だろうなwwww」
「立派なレディでございます!さー!」
「あ、アイスとカートが・・・」
「ああああああアイスカートおおおおお!!」
「なにそれwwwwwwwwwwww」
変な子連れ狼は、夕日を背に笑いながら街中に消えた。


とっぷりと日が暮れた頃、やっと家についた。
「今日は送ってもらってありがとうございましたっ!あ・・・あとアイスも・・・・」
「アイスメインだったろう・・・・大量に食いやがって・・・・」
お陰で財布が軽くなった。だいぶ。
「まぁ・・・ほら!年頃でございますからっ!」
あははwと笑う。くそ、関係ねぇだろうが・・・・。
「太ってしまえ・・・・」
「なんですとぉ!?」
ポツリとつぶやいた言葉がどうやら聞こえてしまったようだ。シット。
「まぁほら・・・日が暮れてからは外出すんなよ?」
「大丈夫でありますっ!危なくなったらこの・・・斧・・・でっ・・・」
「いやそのネタはもういいからw」
またいつの間にかズレたゴーグルを直してやる。
「夜になると・・・・殺人鬼が徘徊してるらしいからな・・・」
自嘲気味にはなってないだろうか?
心配だった。
「こっ・・・怖いですなそりゃぁ・・・」
「だからほら、家に入ってじっとしてろ」
家のドアを開けてやる。カートはさっき納屋にしまった。
「なにからなにまですまねぇ兄貴ぃ・・・」
「(どこのちんぴらだ・・・)・・・まぁいい、またな、サリサ」
「ほ?なんで兄貴が私の名前を知っているですのだ?」
「え」
「私は名乗った覚えがないですお?」
「えええ?」
しまった。ついつい名前を言ってしまった。
なんとかして誤魔化さないと・・・・色々と支障を来たす。そう、『色々と』
「あやしい・・・・まさか・・・・兄貴っ!」
「はっ!はいっ!」
びしっと指を指され、ついつい気をつけ。
「私のラヴリー光線にやられ「違うからな」
迎撃に1秒かからなかった。
「ばきゅーんっ!ばきゅーんっ!」
何かを撃ち抜いているらしい。まさかおれのハートではなかろうが。
「しかしあやしい・・・・」
まだ疑っている。なんだかさっきの遣り取りのせいで、すっかり誤魔化す気が失せてしまったのだが・・・・。
ほっといても問題なさそう・・・みたいな?ま、でもケジメはちゃんとつけないとな。
「ほら、あれだ。お前さっき自分で言ってたじゃんか」
「へ?さっき?」
「カートの上でよ、”サリサのアイスがあああ!!!”って大声で」
「う・・・嘘だっ!私は自分の名前を自分で言っちゃうような事は・・・・無い・・・とも・・・言い切れない事も無いが無いように勤めて早3年・・・ですのだっ!」
「あるんじゃねぇかw」
「みなさーんっ!此処に今流行りの殺人鬼が・・」
「ぎゃー!」
まじやべー。
口を塞いで、なんとか黙らせる。
「まぁほれ、おれはもう帰るから・・・・」
「おうっ!帰れ帰れっ!」
塩を投げられそうな勢いだった。
「じゃあな・・・・おやすみ。サリサ」
「まったねーっ!おやすみ、兄貴っ!」
暖かい何かに背を向けて街灯も無い道に足を向ける。
ったくあのガキ・・・・兄貴じゃねぇってのに・・・・。
なんとなく、まだ見送られているような気がして、振り返らずに右手を挙げた。
左手には写真。
国家転覆を計画したとされる女性。オルガ=エテー。
その下には、そのオルガの娘、サリサ=エテーの写真。
『”仕事内容”は・・・その一家の暗殺』
軍曹の重厚な声を思い出し、それを噛み殺して夜道を歩いた。




「あら、ノム君はお仕事?」
カチャカチャとナイフとフォークが動く音。
砦に帰ったらすぐに晩飯だった。
「ん、なんか倒しに出かけてるらしいよ。”羽”の人達と。あ、バージル君しょうゆ取ってー」
「ほいほい、ってこれソースか。しょうゆしょうゆ・・・」
「あぁごめ、おれが使ってそのままだった」
「もー、わらびー。ちゃんと使ったら戻すー」
「ごめごめw」
「うっわー・・・にれちゃんが凄い器用な事してるぞ・・」
「?(・ω・)”」
「ハンバーグ残してキャベツだけ食べてるwwwww」
「淑女の 嗜み (・ω・)”」
「ダイエットってーんじゃ・・・」
幻影騎士団のリビングは広い。まぁ、一つの砦の中にある部屋でいえば、2Fの大広間の次に広い。
その真ん中にある長テーブルには今は空席が目立つ。
”羽”と呼ばれた人達がごっそりいないからだ。
”斑鳩の羽”
裏幻影と呼ばれる人外魔境。正式なメンバー数は、”斑鳩の羽”の一枚目、御影司しか知らないのかもしれない。
幻影騎士団において、主力ともいえるメンツで構成されている。
それが、ごっそりといなかった。
今食卓についているのは
ヴェルト・のりちゃん・バージル・士蕨・ニレコの五人だけ。
食事が終わると、のりちゃん手製のプリンが配られ、お茶と会話を楽しんで解散となった。


自室に入って直ぐの所にある部屋の電源を入れようとして辞める。
扉を閉め、真っ暗な部屋の中を手探りで机まで歩く。
左手人差し指に硬い感触。
机を探し出したら次はテーブルライトのボタン。すぐに発見し、スイッチを入れる。
小さめの明かりが心もとなそうに部屋をぼんやりと照らした。
「・・・・・ふぅー・・・・」
どっか、と椅子に腰掛け背凭れに体重を預け、溜息。
左手を上着のポケットに突っ込んで中身を引っ張り出し、そのまま机の上に投げた。
写真が二枚と指示書が一枚。
金髪の中年女性は、いつみてもいかめしい顔をしている。
その下、亜麻色の髪をした目の大きな少女は、ぼんやりとしたライトの下でもやっぱり笑っていた。
左手で写真を引き寄せ、目の前にかざす。
どこを見ているのだろう、この目は。
何かおもしろいモノでも見つけたのかもしれない。
あのガキは好奇心だけは人一倍だから。
写真の中の目は、薄闇を照らすライトよりも輝いて見えた。
「・・・ったく・・・殺されそうだってーのに・・・・」
自然と口元が緩む。
机の一番下の棚、唯一鍵がかかっている其処をいつもの手順(鍵穴はフェイク、真の鍵穴は机の下)で開け、中にあるただ一つのモノを取り出す。
そして、机の上にあるサリサの写真に並べた。
その写真は、所々縁が破れ、皺になった箇所も一箇所や二箇所では済んでいないような。
そんな、痛んだ写真。
被写体は女性。いや、少女。
サリサに負けないくらいの大きな目を、これまたサリサに負けないくらい輝かせている。
「サーカスだったよなぁ・・・入る前に撮ったんだっけ・・・・」
そう、サーカスに入ってからは写真が撮れない事に気がつき、とりあえず外で一枚だけ撮った写真。
全部捨ててしまった過去の中で、唯一捨て切れなかった、たった一つのモノ。
唯一の・・・・妹の記録。
ヴェルトの妹は、今もヴェルトの記憶の中だけで元気に走り回り、きらきらと笑う。そう、頭の中だけで。
机の上、薄闇に守られるようにぼんやり照らされた二枚の写真。
良く考えなかった。
良く考えれば、絶対出来ない事だから。
だから、その時の気持ちだけで・・・・ヴェルトは肩のエンブレムを外した。


皮製のボストンバッグを肩に提げ、部屋を後にする。
机の上に置かれたエンブレムがどこか寂しそうだった。
時間は早朝5:00
砦の中はまだ静かで、あと20分もすればバージル君が起きて朝食の用意を始めるだろう。
ちょっと惜しい気もする。彼の作る料理は例外無く美味だったから。
そんな事を思う頭を軽く振って、部屋から一階に。
長い縁側を抜けて、そのまま玄関に。
そこに、彼女は居た。なんの気配もさせず。
玄関マットにそのまばゆい銀髪を垂らして。
「・・・」
日が昇り始め、その顔を照らし始める。
のりちゃんは
「寝てるよっ!」
玄関で座ったまま寝ていた。
「寝相が悪いとか良いとかの問題じゃない・・・」
朝からぶっ飛ばしてくれる仲間だった。
せっかく気持ち良さそうに寝ているので、起こさないでおく。(バージル君もびびるだろう)
こっそりと靴を出して履く。
玄関の扉に手をかけたとき
「行くの?」
眠たそうな声が背中にかかる。
「ん・・・仕事早くってさ・・・」
顔を見られたら、気持ちがバレてしまうと思った。
だから、振り返らず。
「そう・・・・あのさ・・・・」
まだ眠そうな声。でも、意識がはっきりと宿った・・・そんな声。
「辛かったら・・・・戻っておいで?」
寝ぼけているのだと、そう思う事にした。
たとえ、彼女が心を透かして見る事ができたとしても。
「うん・・・・そうするよ」
結局最後まで振り返らず、扉を開けた。
二度と戻らないつもりで。


「はっ・・・はっ・・・はっ・・・・」
ズレ落ちるボストンバッグを忌々しげに肩に掛けなおしながら走る。
早朝でも人目を避け、裏路地を。
右に行ったり左に行ったり、時に急停止したりUターンしたりしながら。
無いとは思う。自身の経験からも、つけられている感じは無い。
しかし、今追跡がかかるとしたらそれは幻影騎士団。
やり過ぎてやり過ぎる事は無いと思った。
だから、また一つ無駄な角を曲がる。

結局、サリサの家の前に着いたのは砦を出てからきっちり一時間後。
みっちりしっかり道筋をバラバラにしてから、ここにたどり着いた。
サリサの家。昨夜は夜だったからあまり気にならなかったが、朝日を受けるとこれまた一段と・・・
「ボロい・・・・」
ボロかった。
しかも半端なく。どう見ても天井あたりが凹んでいるとしか思えない。
廃屋と言われても仕方の無いような・・・そんなボロ家。
レンガと木でできた、震度3の地震で崩れてなくなりそうな・・・そんなボロ家。
貧乏だろうとは思っていた。
父親はおらず、母親は国家転覆計画を画策中。働いていたとしても、その給料は反王都組織に吸い上げられてしまうだろう。
だからサリサはがんばっていた。おしゃれもせず、小さな手をガサガサにして。
汗水垂らしてカートを引いていた。歯を食いしばって。
そんながんばっているのに、大人は彼女を殺そうとする。
母親のせいで。
ずっと気になっていた肩の軽さが気にならなくなった。
やはり、自分はこうしてよかった。
サリサを殺すなんて・・・・・しなくて良かった。
安堵と共にノックをする。
さぁ、大逃亡の始まりだ。

「はーいっ!」
ボロ家の中から声がして、扉に向かってパタパタと走り寄る音。
朝からテンションの高いヤツだろうとは思っていたが・・・どうやらマジらしい。
ぎぃ、と扉が半分開く。
中から現れた少女に一瞬だけ目を奪われる。
そのエプロン姿

「・・・・・・・」

「おう兄貴っ!おはよーですのだっ!」
「・・・・おう」
あまりにもその姿が、あいつに似ていて。
だから、気の利いた事が言えずに詰まってしまった。
「兄貴ぃ丁度良いとこに来ましたですよっ!丁度朝ごはんが完成しましたっ!さー!」
ぴっと敬礼する。何か違和感。
「あん?おれ今日来るって言ったっけか?」
「もーっ!兄貴の目がやらしいっ!!エプロン姿に惚れおって!!」
聞いちゃいなかった。
「まぁ・・いつもの事か・・・」
「さぁ食えっ!食うです!のだ!」
「言い直した方が間違ってるからな・・・それに走って来たから食欲ねぇ・・・」
ぎぃぃと扉が開き始める。少しづつ、ボロ家の中に朝日が入る。
「えーっ!?せっかく・・・」
椅子の足が見える前、その前に何かが見える。黒い・・・・
「兄貴の友達も手伝ってくれたのにっ!」
靴の先。
「いよーぅ、おはようさん」
その椅子には、まめまめが座っていた。

「っ・・・・・・・・・」
適当に伸ばされた青みがかった黒髪。切れ長で少し垂れた目。黒いスーツをだらしなく着て、いつもノーネクタイ。
目を引く左目下にあしらわれた、涙のタトゥー。
今というタイミングで、もっとも会いたく無い人物。幻影騎士団でもっとも反旗に近い男。
その男が、サリサの家のダイニングで椅子にだらしなく座り、くつろいでいる。
右手にナイフを持ち、左手に林檎を持って。
「いやー眠いんだけどね。さっき軍曹から連絡があってさ」
「・・・・・・・」
「至急様子を見て来いってーからさ、仕方なくね。まぁほら、この子、筋いいぜ。スープとかめちゃウマなはず」
「だっしょ!?兄貴っ!見る目のある友達持ったなっ!なんか雰囲気がやらしいけどなっ!」
「へらず口もたまんねぇなぁ・・・・・おい」
「・・・・・・・・」
「朝食のデザートはこの娘っ子にすっか!はははははっ!!!」
「まめええええええええ!!!」
咄嗟に右手で練成した四本のナイフを投げつける。同時にサリサの腕を掴み、家の外に放り出した。
「おわーっ!?」
「はいはいっと」
狙い違わず四本のナイフはまめまめの眉間に吸い込まれるように飛び、眉間の前に持ち出された林檎に全部突き刺さる。
「あらー、こりゃあ軍曹の言ってた事はマジなんかね?」
一瞬で針鼠になった林檎をぼーっと眺めながら、呟く。
次に投げるナイフを左手で練成。投擲に備えつつ、接近戦が可能なように右手でもナイフを握る。
「まぁ待てって。おれぁ今はやる気ないからさ」
ぱっと両手を開き、ナイフと林檎を床に落とす。林檎は、落ちた衝撃で粉々になった。
「・・・・・・・・」
警戒は解かない。神経を研ぎ澄まし、見えないモノも見えるように目を凝らす。聞こえない事でも聞こえるように耳を澄ます。
『兄貴ーっ!喧嘩はダメだっ!わんぱくでも喧嘩はしちゃだめーっ!!』
アホの声が聞こえた。
「あはははははwおもれーなーあいつw」
「っ・・・・・・」
『垂れ目ーっ!兄貴に手ぇだすなよあちょーっ!』
「・・・・・おもれーな・・・・w」
なんだその為は。
「まぁほら、マジで手ぇ出さないからよ。これ食わしてよ」
油断しないように注意しながら、目線を机の上に。
そこにはまだ湯気が立つスープが一皿。
「こーゆーのオレダメなんだわ。ケジメつけないとな。」
スッと動いた左手に反応して、こっちの左手も動く。
「せっかく作ったからな。ちゃんと食ってやんねぇと」
動いた左手は、スプーンを取っただけだった。
一掬いして、スプーンを口に運ぶ。
「ん~激ウマ。さすがオレ様。最高。」
幻影騎士団最悪の男は、スープ一口に感動していた。
『ああああ!?私のっ!私のすーぷうううううううう!!!!』
アホが扉の外で騒がしい。
「・・・・・・・・・」
油断だけはしないで、ずっと構えを解かない。
「とゆー訳で、Vちゃん追っかけるのはこれ食ってからにするわ」
ずずーっとスープを啜る。
「は?」
ついつい素になってしまった。
「いやだからさ、これ食ってから追っかけるから。それまで逃げてていいよ」
また一口啜る。
じり、とあからさまに一歩後退り。まめまめは動かない。
「あーあ、これ食わないなんて勿体無い。ちょーうまいのに」
ずずーーっと一口。
それを見て、扉を後ろ手で開け、飛び出した。
部屋の中には、残されたまめまめが1人スープを啜る。
「どうせ死ぬなら、これ飲んで死ねばいいのに」


「うおおおおっ!?今朝はまた一段とハッスルっね兄貴っ!!」
右手一本でカート+サリサを引いて走る。
バレた。
自分の裏切りが、もうバレたのだ。
もう少し時間がかかると思ったのに、さすが幻影騎士団。
「おおおおおっ!ちょっと早すぎませんか兄上ええええええ!!!」
こうなってしまっては出来るだけ早くこの街から出るしか無い。
昨夜砦にいたメンバーには見つかる事は無い。
彼等にはその手の力が無いからだ。
だがしかし、他は違う。
裏幻影。”斑鳩の羽”は。
ヤツらは索敵と殲滅を専門とした幻影最強の猟犬。
司の瞳、ノム3の目、海猿の精霊探査、これら全部を同時に欺くのは不可能。
そして、アイスの力。
座標さえバレれば、即座に人間が飛んでくる。逃亡は不可能。
だから、連中が戻ってくるよりも先にこの街を出る。それが至上目的。
「吐きますよ兄者あああああああああああ!?」
そろそろ煩くなってきたので足を止める。
サリサはカートの上、肩で息をしていた。
「兄貴・・・・あんたっ・・・超・・・ぐれーとっ!!」
びっと親指を上げる。
褒められたのでもう少し走る事にした。
「違うよぅうわああああああああっっ!!!」
違ったらしいので止まる。
サリサは未だ肩で息をしている。
「兄貴っ・・・あんた・・・かっこいいっ!!」
褒められたのでry
コントが終わったにはそれから15分後だった。

「うぇ?なんで私が狙われる事に?」
カラカラとカートを引く。どうやら先程の速度だとサリサには辛いらしい。
「・・・・・さーな、わからん」
本当は知っているのだ。お前の母親のせいだと。
だが、今それを知ってもどうにもならない。それに、その事実はこの笑顔と元気だけが取り柄の少女から何もかもを奪うように思えた。
「まっ!まさかっっ!私のラヴリー「違うからな」
いつものネタだった。
「ちぇーっ!ちぇーっ!兄貴もこのラヴリーに「やられてないからな」
ちょっと変化しただけだった。
「兄貴っ!アイスですよっ!」
「お前くじけないのなぁ・・・・」
がっくりと肩を落としながら財布を出す。結局勝てない。

ゆっくり座って食べる程命知らずでは無いので、残念ならが歩き食い。否、サリサだけはカートに乗っているので座り食い。
いや、普通に食ってる、でいいのか。
「そりゃ怖いけど・・・・・」
ふいにカートから声がかかる。
「でも・・・兄貴がいるか・・・ら・・・・・」
ちらと後を振り返ると、耳まで真っ赤にしたサリサがアイスのコーンをかじっている。
「恥ずかしいんなら言うなよな・・・・」
「兄貴も照れてるくせにっ!くせにっ!!」
確かに、今の顔はちょっと見せられない。
だから、前だけ向いてカートを引いた。

ゴーン、と鐘の音が聞こえる。王都プロンテラ中心にある正午の鐘。
もう随分と追ってを撒く歩方で街から離れたと思ったが、まだ正午だったらしい。
鐘の音もまだ近くから聞こえた。
「サリサー、昼だけど腹減ってねぇかー?」
歩き詰めで若干の疲労。声が少しダレてくる。
「兄貴ー、兄貴はヤクザもんだーっ」
カートで揺られているだけでも疲れるのだろう。サリサの元気も少し落ち着き気味。
「無茶な生活で時間間隔がズレてんだっ!昼って!昼って!!」
「あー?今正午の鐘が鳴ったろー?」
「兄貴・・・長い逃亡生活で耳まで・・・うぅぅっ!」
ヨヨヨ、と崩れ落ちる気配。見て無いのに細かいなぁ・・・じゃなくって。
なんだ?会話がかみ合って・・・まぁ・・・いつも噛みあってないけど・・・・。
「おいおい、サリサも聞いたろー?さっきの鐘の音。あれが正午の鐘だろー?」
確認。
「兄貴ー、正午の鐘はもう一時間前に聞いたよぅ。それに今は私のラヴリーカートの車輪の音しか・・」
愕然。
そして、再び鐘が鳴る。
ゴーンッ。
もの凄く近くで鳴った。そう、すぐそこの角を曲がった先の路地裏辺りから。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「うぃ?兄貴?」
サリサには聞こえていない。これは、特殊な訓練を積んだ者にしか聞こえない音だから。
角から人が現れる。ゆっくりとした足並みで。
その姿は、黒髪を目にかからないように切り、燦然と輝く目は金色で、黒いローブには赤い刺繍が施されている。
司祭。
燃えるような金色の目がこちらを射抜く。
司祭は、体の前で白手袋に包まれた両拳を打ち合わした。
ゴーーーーーーンッッッ。
「おおっ!司祭さmむぐーっ!!」
右の掌でサリサの口を塞ぐ。ヤバイ。彼には冗談は通じない。
それにしても・・・
「早かった・・・か?」
瞬きもせずに司祭が尋ねてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつでも飛べるように足場を固める。
「裏切りの代償・・・・死を持って償えっ!!」
ゴッ。
風が司祭の前髪を跳ね上げる。そこに白いタトゥー・・・・聖紋と呼ばれるモノが見えた。
同じく打ち合わされていた両の手の甲にも違う聖紋が見える。
うっすらと服を貫通して、胸の間にも。ヘソの少し下にも見える。
御影司の最大出力攻撃。大反転・五重封殺。
「大!反!転!」
体の上に浮かび上がっていた聖紋が反転して地面に投影、固定される。
それは正しい五角形となって枠内にいるモノを高圧の聖属性で擦り潰す!!
かくして結界は完成された。が、しかし、それはあまりにも完成までに時間がかかり過ぎた。
動きの鈍いMOBや、固定された物体であるのならまだしも、こっちは娘っ子1人を抱えたとは言えチェイサー。
このくらい避けれないはずが無い。
カートをそのままにし(後で何を言われるかわからんが)ぼけっと突っ立っていたサリサを左脇に抱え後ろに跳躍。
その前に気がつけばよかった。
司がいるなら『彼』もいるだろうと。
飛び退りながら空中で左後方に殺気を感じる。
少し大き目のTシャツを着たスマックがそこにいた。
咄嗟にナイフで切りつけようとして、左腕がふさがっている事に気がつく。
空中で体を捻って右手のナイフで斬りつける。
その刃は、スマックの左手に握られてピクリとも動かなくなった。
「!?」
左足を後に引くスマック。自分の背後には・・・・ちょうど司の結界!
空中で蹴り飛ばして結界内に放り込むつもりなのだろう。
意図はわかった。しかし、片手はサリサを抱えていて、もう片手は刃物事万力のような力で止められている。
万事休す。
とりあえずサリサだけでも救おうと、もう一度空中で体を捻った時、それが零れた。ジーンズの左ポケットから。
「むっ・・・・・」
零れたそれ・・・・赤ポーションは奇跡のようにスマックの両目にかかり、その動きが一瞬止まる。
しかし、その一瞬で十分だった。
右手の剣を光に戻し、右手を開放。と同時にやっと地面に着地できた。
「スマーック!!」
結界維持の為に動けない司が叫ぶ。
攻守逆転したのだと思ったのだろう。しかし、オレは逃げた。
相打ちでは意味が無い。倒して、逃げ延びれなければ。
サリサを抱えたまま、街外れから街の中心に向けて走る。
背中にはぴったりと死の予感が張り付いてきている。スマックだろう。
左腕の中でサリサが何か言っている。
「胸っ!胸をツカンデマスヨ兄貴っ!!」
ほっておく事にした。緊張感の無いヤツめ。
「うう・・・もうお嫁にいけないっ!!」
行く気だったのか・・・・。

人込みの多い通りまで後少し、そう、距離にして50m。
そこまで行けば、先程のような大規模な結界も張れないし、大振な攻撃もできなくなる。
そうなればこっちのモノだ。隠れる逃げる身を潜めるは、チェイサーの十八番。
だが、世はそう甘く無し。
人込みを前にして、最後の障壁がふらりと現れた。・・・・2人セットで。
「このネクタイ長いような気がするんだけど・・・・」
「なんでも いい!(・ω・)”」
士蕨とニレコ。

「ありゃ?Vちゃんが誘拐犯だ」
「いよー(・ω・)ノ」
脱力系の2人だった。
「おおおっ!こーんにーちわーっ!ペド狂人とピンクっ!!」
俵のように左脇腹に抱えられたまま、サリサが挨拶する。
「おー、砦前で商売してる子だーって誰がペドか!」
狂人は否定しないらしい。
「だれがピンクかっヽ(゚∀゚)ノ」
「「いや、ニレコしかいないだろう」」
ハモってしまった。
「すまんわらびー、今ちょっと急いでるから・・・」
この2人に連絡が行ってなければ、ここはスルーできる。
わらびとニレコの間を縫うように走り抜けようとした時
「ニレコ!そいつを止めろっ!」
燃えるような金色の目がちょうど追いついてきた。
「あい(・ω・)」
右足のつま先に鋭い痛み。見ると、小さいローファーのかかとが突き刺さっていた。
「ぐっ・・・」
しかも痛みだけでは無い。足にまったく力が入らなくなってしまっていた。
「にれ・・・・・」
「?(・ω・)”」
足はどけてもらえなかった。
「あのさ・・・どうしたんよ・・・司ッp」
走るのを辞めて、ゆっくり歩いてくる司の前にわらびが割って入る。
司はさも面倒そうに
「そいつとそいつの抱えてるガキに抹殺指令が下った」
と吐き捨てるように行った。
「・・・・・軍曹から直接?」
「直接だ。疑うなら自分で確認しろ。」
どけ、と呟いて右腕でわらびを払いどける。
そして目の前に。
「今度こそ、塵芥になるまで磨り潰してやる」
ぼう、と左手の甲に聖紋が浮かぶ。どうやら、一つでもいいらしい。
足は未だにニレコに踏まれたまま。
ビッと布が裂ける音がした。
「?」
「貴様・・・・」
金色の瞳がゆっくりと背後に振り返る。破れた左手の白手袋を見せ付けるように掲げながら。

視線の先には、白い騎兵剣を持った士蕨。
「やっぱり・・・話くらいは聞かなきゃダメだよ・・・」
「邪魔を・・・するなああっ!!!」
両拳を握って御影が走り寄る。
間に割って入るニレコ。
「にれ・・・・貴様も邪魔をするか・・・」
食いしばった歯も割れよ、と歯軋りが鳴る。
「にれちゃん・・・悪い、バックアップ頼む。」
士蕨が盾まで作り出す。
「司君・・・わらびーの相手は この私だっ!(*`ω´*)」
「なんでっΣ」
ガビーン!
「なら邪魔しないで下がってろ!」
「邪魔は 司君!ヽ(`□´)ノ」
ローファーが御影の右太ももを蹴り抜く。
「ぐっ・・・」
スマックは腕組みをして成り行きを見守っている。
「おおおっ!すげーぜにれっゴァ!?」
「ほぅぁああぁぁぁヽ(゚∀゚)ノ」
同時に士蕨の胸も蹴り抜かれた。
チャンス到来。
この隙に抜け出せれば・・・・。
「はわわわわわ!?」
サリサは腕の中で目を回している。まぁ、ちょっと乱暴に扱いすぎたか・・な・・?
「貴様等纏めて塵にしてくれる!」
御影が両拳をぶつけ、ゴーンと鐘のような音が鳴り響く。
「できるか なヽ(゚∀゚)ノ」
「Vちゃんとりあえずこっちに!」
士蕨はそう言ってはくれるのだけれど・・・・どう考えてもそこが一番危なそうだった。
「・・・・わるいっ!」
人込みの通りからは離れてしまうが、一番手薄な路地裏を目指して駆け出す。
と、共に影が射した。
「!?」
「どぉっせええええええええ!!!!!」
ずがっどーんっ!!!!!!!
人が上から降ってくる。
着地点は、岩盤が割れ、大地がささくれ立った。
肩膝を着いた態勢からゆっくりと立ち上がる。
「あああああいってええええ!アイス!”何が座標はわかった”だよっ!x軸しか解ってねぇじゃねぇか!殺す気か!?」
電通しているつもりなのだろうが、ばっちりオープンで誤爆していたのは
「司・・・・拙いのが来た・・・・」
「ふん、ジャギか。」
ジャギだった。
スマックが腕組みを解いて駆け出す。
御影はニレコと士蕨に向かいあったまま。
ニレコは「かかって きなさいっヽ(゚∀゚)ノ」
「おぅ、Vやん。何してんどぅわぁっ!?」
颯爽と駆け寄ったスマックが右の正拳をジャギに繰り出す。
ジャギはそれを喋りながらいなして右腕に飛びつき、そのまま関節を極めようとして・・・・はずされた。
「ちっ・・・・」
「おいスマ!なんの冗談だこりゃあ!!」
「ふんっ!知れた事。ジャギ、貴様も幻影騎士団の端くれなら!その裏切り者を始末しろ!!」
御影が視線もくれずに状況を説明した。
「は?裏切り者?誰が?」
「ヴェルトだ!その左脇に抱えている小娘を始末するはずが逃亡させようとしている!!」
「小娘を始末うううう?」
ギヌロ、と目の前のスマックを睨む。
「・・・・・・・」
「おいそんな話は聞いてねぇなぁ・・・おいいい・・・・」
「iwaokun直々の指令だ。」
「き・・・聞いてねぇ・・なぁ・・・・」
心なしかジャギの足がガクガクと震えているように見える。
その足の震えを踏み殺すように、一歩地面を踏みつけ
「おいてめぇら!この喧嘩、おれがあずか「”富嶽貫通”」
その名の山にも穴を開けそうな一撃がジャギの腹を狙って打ち出される。
「・・・・・るわけねぇか・・・w」
その一撃を、白刃取りで受け止めるジャギ。
「ぬ・・・・・・・・・・」
2人は膠着した。
「ジャギやん!こっち!こっち助けてうわっあ」
士蕨がもうベコベコに歪んだ盾でニレコの蹴りを受け止める。
「っしゃああああっヽ(゚∀゚)ノ」
そのまま振り返り、御影にワン・ツー。
「っつぅ・・・・」
ブロックした御影の両腕、袖の部分から煙が立つ。マジか!?
取り合えず話が聞きたい士蕨。
取り合えず裏切り者を始末したいがその前に邪魔者も始末したい御影。
取り合えず士蕨に天誅を下したいが邪魔する者にも容赦しないニレコ。
取り合えず早くBOSSを狩りに行きたいスマック。
取り合えず喧嘩を止めたいジャギ。
「ほあああ・・・・皆さん忙しそうですなぁ・・・・」
「はっ!?」
やっと目の焦点があったらしいサリサの一言で目が覚める。
逃げ出すには絶好のチャンスだった。
こっそり気配だけを消して、路地裏から屋根に跳躍。
「きょわわわわわわっ!?」
「ばっ!せっかく人がっ!!」
慌ててサリサの口を塞ぐも、遅かった。
「待て!ヴェルト!!」
振り返った瞬間に、その顔の前に上げていた左腕ブロックにニレコの拳が着弾。
「ぐぅぅっ!」
「わらびを 始末させろヽ(゚∀゚)ノ」
「何を言っとるか貴様っ!」
「そ・・・そうだそうだわぁ!?」
「ぬ・・・・・ぐ・・・・・」
「この白刃・・・・解いて・・・たまる・・かぁ・・・」
言い合う御影とニレコと士蕨。
お互い拳を合わせたまま一歩も譲らないスマックとジャギ。
地上は混沌としていた。


「ほぅ・・・・」
屋根上から地上を見下ろす。
そこにはまだまだ混沌が犇いていた。
「みんな・・・悪いな」
「うぇぇぇえええええ」
サリサは今にも吐きそうだった。
ズン。
右脇腹に違和感。
「え?」
見ると、ナイフが
「っ・・・・ぐっ・・・・!」
振り返って跳躍。屋根の端まで飛び退る。
「ぃよーお!気ぃ抜いちゃダメじゃんか」
そこには、今朝も見た最悪の青髪が血の滴るナイフを持って笑っていた。
「ま・・・め・・・・・・」
「うんうん。幻影のプリンス、まめまめだぜ?キちゃったか!?あはははははははwwww」
両手を広げながら高笑い。嫌すぎた。
「あ・・・兄貴?どうした?」
左脇に抱えられたサリサには今の負傷は見えない。
丁度良かった。
「毒はどうせ解毒しちゃうしなぁ・・・・ブッスリやっちゃうのが一番なんだけど、いきなり命取るってのはつまんないからねぇ・・・」
べーっと長い舌を出して、そしてまた笑った。
「さぁぁぁて、朝の続きといこうよ。ハンデありだけどもなぁwww」
言いつつもナイフすら構えない。
「このっ!垂れ目っ!」
「・・・・嬢ちゃんは後でな・・・・・はははははははw」
ゆっくり歩み寄ってくるまめまめ。
黒のジャケットと、白いシャツを風になびかせて。
「・・・・・サリサ・・・・飛ぶぞ・・・・」
ぼそりと小声で呟く。
「え?」
それを返答とし、ヴェルトは二本のナイフをまめまめの眼前に投げつけた。
「芸が・・・・・ねぇよっ!」
その”全力では無い投擲”は当然のように”はじかれた”
今朝の対峙でなんとなく思っていた事ではあったけれど、それは当りだったようだ。
まめまめはぬるい攻撃は弾く。
それが信条なのか、ただ体を動かすのがダルイのかはわからないが、今回はそれに救われた。
ナイフは確かに弾かれた。が、弾くために振り上げた右腕と右手とついでにその手に握られたナイフが、一瞬だけまめまめの視界を奪う。
その一瞬をついて、屋根から地上に向けて跳躍。
もちろん、混沌としていた地上に戻るのでは無く、日の光も射さないような暗い路地裏に。
ナイフを弾いた一瞬の間に目の前から獲物が逃げた。
だが、この世界でこの能力者達を相手にして、姿を一瞬隠す事など意味がない。
エーテルの匂い。それは決して消すことができなかったから。
「はん・・・・意味ねぇなぁ・・・・」
ナイフを光に返して、つまらなさそうにまめまめは呟く。
そして、風に鼻を利かせた。
「・・・・・・・・」
信じられない事に、ヴェルトのエーテルはどこにも感じ取れなかった。


「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
肩を路地裏の壁になぞるように当てて進む。
右の脇腹からは出血が続いていた。
「兄貴っ!もうっ!降ろしてよ!」
足をじたばたさせるサリサ。こっちは怪我してんだからそうはしゃいでくれるなよ・・・。
「だーめだ・・・。襲われた時に対処できなくなるからな」
「おっ!?襲うなんてっ!もう兄貴っ!」
「・・・・違うからな・・・」
真っ赤になったかわりにおとなしくなったサリサを見て、自然と口元が緩む。
が、脇腹に走る痛みでまた歯を食いしばった。
「兄貴・・・・怪我してんだろ・・・?」
「・・・・・・おう」
いつまでも隠しきれるとは思えなかったので正直に言っておく。
「・・・・カートさえあれば・・・・」
「・・・・・・・おう、悪かったな」
「そんなっ!兄貴を責めてる訳じゃ・・」
「・・・・・おう」
また無言になって歩く。路地裏を、はいずるように。
「兄貴っ!」
「・・・・・・・・」
「兄貴っっ!」
「・・・・・・・うん?」
なんだかぼーっとする。サリサ、声が小さくなったか?もっと大声で喋ってくれ・・・・いつもみたいに・・・・。
「ちょっと・・・・・休憩しよっ!」
「・・・・・・・・・・・・・あ?」
見れば、動かしていたはずの足は完全に止まっていた。


「じゃっじゃーんっ!」
大仰なアクションと共に、つけていたエプロンからホットサンドを取り出す。
「お前追われてる感覚0な・・・・」
追ってを撒くために取ってきた行動の全てが無意味のような気がしてきた。
細い細い路地裏の壁に背中を預けて、二人で座る。
ひょいと目の前にホットサンド。
「兄貴の分っ!」
「いらね・・・食欲ねぇわ・・・」
右脇腹に穴が開いているのだ。そんな状態で食欲があるなんてのは、中国の昔の武将だけだ。
「食えっ!!」
がぼっと口の中に突っ込まれる。
「ぶっwわかったわかった!」
このままだと顎を持たれて咀嚼まで手動でやらかしそうだった。
「食べないと・・・・きっと持たないから・・・・」
しゅんとした声。
そのテンションのギャップはなんとかならんのか・・・。
横を見ると、一生懸命ホットサンドをかじっているサリサ。そのゴーグルがまたズレていた。
「なぁ・・・・」
血で汚れていない左手でそのズレを直してやる。
「ぅん?」
「この街を出たら・・・・どうする・・・・?」
サリサの大きな目がかすれて見える。
しっかりしなければ。
「うーん・・・・やっぱり商売かなぁ・・・カート引いて」
「もうカート無いけどな・・・・」
「それは兄貴がまた買ってくれちゃったりなんかしてっ!」
「・・・・・しょうがないなぁ・・・・・」
「兄貴も仕入れとか付いて来てくんなきゃダメだからねっ!」
「おれもかよ・・・・」
「2人でっ!道具屋さん!」
「・・・・・あぁ・・・・・・・・」
そんな絵を想像してみる。容易く出来た。
おれがカートを引いて、サリサがそのカートの上で宣伝して。
見入りは少ないかもしれないけど、毎日三食はちゃんと食べれて。
ちょっと金が溜まったら、お店を借りたりなんかして。サリサに宣伝用のチラシを持たして配らせたり。
毎日仕入れや営業で大変だったり。
でも、そんな毎日を、昔は夢見てたのかも・・・なぁ・・・・。
「それでっ!落ち着いたら母さんに手紙をかくですのだっ!」
幸せな絵は、一瞬で消え去った。
すっかり忘れていたが、今回の”仕事”の第一目標は、オルガ=エテー。こいつの母親。
おれは手を下さなかったけれど・・・・きっと・・・・助からない。
「そう・・・・・だな・・・・・・・」
今は伝えない事にする。
次の街について、商売も安定して。
もっと心にゆとりが持てたなら、その時、話そう。
「おし・・・・・そろそろ行くか・・・・・」
「うん・・・・」
ずず、と背中を壁に預けたまま上体を持ち上げる。
ぐっ、と左肩が持たれた。
「?」
「うんしょ・・・・」
サリサが左脇に添う様に立つ。
「どうせっ・・・また担がれるんだからっ・・・にしし♪」
その拍子に、またゴーグルがずれる。
「ああ、悪いな・・・・×××・・・」
「え?兄貴・・・今なんて?」
ゴーグルを直して、サリサをまた左脇に抱える。
そう、サリサだ。
けれど、今はもうどっちでもよかった。
「兄貴じゃねぇ・・・・・”お兄ちゃん”だ・・・」
「このっ!シスコンっ!」
元気は出なかったが、脚はなんとか路地裏の外を目指した。
光の射す方向へ。


「はは・・・・やっぱり・・なぁ・・・」
路地裏から抜けた先は海。波止場と呼ばれる場所。
ここに係留された船を拝借して、この街から逃げようとしていた。
その海を背景に、1人の男が立っている。
そろそろ現れるとは思っていた。
きっと現れると思っていた。
御影やスマックを見た時に、この瞬間は覚悟していた。
戦争と言う名の、闘争と言う名の、殺戮と言う名の、ゲーム。
その盤上の・・・・ACE。
「ちょっ!あにっ!」
「預かるよ。」
耳元で呟きが聞こえ、左脇が軽くなる。
腕の中にサリサを抱え、スーツに身を包んだ海猿が立っていた。
左脇が軽い。
サリサは意識を失ったのか・・・・目を閉じたまま。
「大丈夫、気を失っているだけだから。」
海風が前髪を揺らし、頬を撫でる。海猿の表情はどこまでも優しかった。
「な・・なぁ海ちゃん・・・こいつ・・関係ねぇんだよ・・・こいつは・・・・死ぬ事無いんだ・・・なぁ・・・悪いのはこいつの母親なんだよ・・・こいつは関係ねぇんだよ!なぁ!海ちゃん!」
海猿は少しだけ悲しそうに目を伏せ、盤上のACEに目をやる。
「・・・・・・・・・・」
バシャッ。ノム3の右手が”射撃可能状態”に移行する。
「ノム君もさ!ほら、撃ちたきゃオレだけ撃てよ!そんな小娘撃ったってよ・・・つまんねぇだろ・・・なぁ・・・ぉぃ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ノム3は答えない。
「なぁ海ちゃん!こいつの母親はオレが始末するからよぅ・・・それからオレを消してもいいから・・・」
両手で海猿の胸倉に掴みかかる。
「こいつは助けてやってくれよぅ!なぁ!こいつ・・・こいつはっ・・・!」
じゃりり。
ノム3が一歩前に進む。
「あいつに・・・おれの妹に似てやがんだよ・・・・・」
語尾は小さくなってしまって、誰にも聞こえなかったかもしれない。
「あいつが入院しても・・・おれ何にもできなくて・・・最後まで何にもできなくて・・また・・失っちゃうのかよ・・なぁ・・」
視界がぼやける。
「おれはもうあんな思いするの嫌なんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
視界をぼやけさせていたモノが弾け、海猿の胸に抱かれたサリサの顔に降りかかる。
「ん・・・・おにぃ・・・・」
「下らん三文小説は終わりだ。お前から先に逝け」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
振り返ってノム3の眉間目掛け最後のナイフを投擲する。
いつの間にか持っていた、懐かしいナイフを。
ノム3の手に閃光が走り―


『んー・・・・待った』
「待ったは無しだって言ったでしょうが」
昼下がりの執務室。そこで2人の男がチェスをしている。
重厚なソファに体を半分だけ預け、一人は楽しそうに、1人は困ったように顎に手をやる。
その隣には、まばゆいばかりの銀髪を後で一つに束ねた女性が座っている。
「ぐんそ、ここ・・・これ・・・」
「あー!のりちゃん!しーっ!しーっ!」
先程まで楽しそうにしていた男が急に慌てふためく。
『おお、その手があったか。んー・・・ねちゃんは案外こーゆーの強いなぁ』
ぐんそ、と呼ばれた男が嬉々として駒を動かし、相手の駒を倒す。
「あー・・・オレのビショップが・・・・」
がっくりとうな垂れる男。
が、直ぐに頭を起こす。
「なーんてっ」
素早くナイトを進め、その場所に止める。
その場所は・・・・・
『うお!?』
「チェック」
「めーいと、だねぇぐんそ」
にひひ、とねちゃんと呼ばれた男と、のりちゃんと呼ばれた女が顔を見合して笑う。
『あー・・・・やられた・・・・グルだったとは思わなかったで・・・』
「なーにを今更w」
「そそ、うちやねちゃんが何しに来たかわかってたでしょーに」
お茶淹れるね、と言って彼女は席を立つ。
「そんで?軍曹、おれが勝ったけど?」
笑った表情とはまったく異なる紳士な赤い瞳で軍曹”iwaokun”を見る。
『わかったわかった・・・・ほれ、今連絡したで』
やれやれ、とソファから体を起こして、昼下がりの陽光差し込む窓際から庭を見る。
その先では、エレナと義母のアルセリーナが日向ぼっこをしていた。
自然と笑みが浮かぶ。
「ぐんそはもっとそんな顔を皆に見せてあげればいーのに」
お茶を淹れたのりちゃんが三つのカップと一つのプリンを机の上に置く。
「それは?」
「ん?うちの」
「おれのは・・・・無いか」
「メソちゃんに作ってもらえーw」
「プリン手作りって・・・・できんのかねぇ・・」
うおっほん、と咳払いをして元の表情に。
『そうもいかんで。これもマスターの仕事だでな』
「ふーん、そんで連絡は?」
『さっきねちゃんに急かされてやっといたでな。・・・・でも、間に合わないかもしれんで?』
かはっ、と金髪を揺らしてねちゃんが笑う。
「だいじょーぶでしょw」
「うちら、げんえーですから」
のりちゃんも自信満々に言う。
『まーったく。何を根拠にいってんだで』
苦笑して、iwaokunもカップに口をつけた。


目が覚めた時、そこは牢獄みたいな部屋だった。
いや、語弊無く牢獄だった。
四方をむき出しのコンクリートで固められ、窓には特殊な鉄格子。
唯一の扉はこれまた特殊な合金でつくられた扉で、がっちりと閉じられている。
左肩と右脇腹に包帯が巻かれていた。とは言っても、すでに傷は塞がっているようだが。
・・・・・あれから何日たったのか解らない。
でも、どうでも良かった。
無気力。
すべてに無関心。
体を横にした時、何かがジーンズのポケットでかちゃりと鳴る。
取り出して見ると、空になった赤ポーションの瓶だった。
また、何もできなった。
瓶を眺めていると、自然と涙が出てきた。
流れる、というよりは、垂れるように。

それから丸一日経って、牢獄から開放された。
立ち会ってくれたのは、バージル君1人。
「大丈夫?」
「・・・・・ん・・・・」
傷は問題無く回復している。心は・・・・まだだけれど。
「軍曹が・・・・執務室までって・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
今一番会いたくない人間だった。
裏切ったのだから。
もしかすると、自分は軍曹が暇になるまでここに入れられていて、暇になったら執務室で処刑するつもりだったのかもしれない。
けれど、それももういい。
処刑なら処刑で、別に良かった。
「執務室前までついて行くよ・・・」
「別に・・・」
言った途端によろけた。足に力が入らない。
「丸3日も寝てたからね。傷は治っても、表面上のモノだから・・」
昨日を含めて丸4日経っていた。
結局、バージル君に肩を借りて執務室に向かう事に。
「悪いな・・・・」
「気にしないで・・・」
執務室入り口まで辿り着く。
「また、後でね」
「あぁ・・・・会えたら・・・な」
今できるだけの笑顔をバージル君に向けて、執務室のドアをノックした。

『ヴェルト、4日の謹慎ご苦労だった。また仕事があれば呼ぶで、下がって休め』
「は?」
いつものように執務室に入り、いつものようにデカイ机の前に。
今日でこの部屋・・・いや、世界も見納めかと思い、いつもよりもジロジロと見回した。
軍曹・・・iwaokunは、これまたいつものように柱のような書類に目を通し、ペンを走らせている。
ぴたりとデカイ机の前に着いたとき、軍曹は顔もあげずに、そう言ったのだ。
しーん。
無言の空間。ただ、ペンの走る音と、時計の針が動く音のみ。
「軍曹?あの?」
『下がれ、と言ったで』
ギロリと眼鏡越しに睨まれる。
さっきまで死んでも良いと思っていたのに、もう死にたくは無くなっていた。
「・・・・・失礼しました」
それだけを言って執務室から退出する。
彼への処分は、すんだらしい。


ついつい拾ってしまった命。
でも、何もやる気は起きなくて。とりあえず何か食べて、自分の部屋で一眠りしようと思った。
全部はそれからだ。
みんなと仲直りするのも・・・・・・悲しむのも。
自室に足を向けた時、向こうから歩いてくる人影が見えた。
砦で実験しているか外で実験しているか。常に何かを実験してやまない男。
にだ。
長すぎるマントをズルズルと引き摺って、こっちに向かってくる。
両手には謎の液体が入った瓶。表情は・・・・なんだありゃ?
非常に楽しげ。
「おーVちゃん!」
「・・・・おう・・・」
片手を上げて挨拶。胸に抱えられた瓶の中身が気になる・・・・。
「牢獄きつかったろー?あそこにはオレが・・・・・いや、いい」
「なに!?なにしたの!?」
「いや・・ちょっと実験の成果を・・・にだ」
「なんの!?」
「まぁほらそれよりも!これ見てよ!」
胸に抱えていた瓶をこっちの目の前に突き出す。
ごぼごぼと泡立つ深緑の液体・・・いや・・・スライム?
「何これ・・・・・」
さっそく食欲が失せた。
「”べと液”の5年物!!!」
最低だった。
「年物って事は・・・寝かしてたの・・・?」
「まさかーははは、いくらニダでもそこまでわw買ったんだよー」
・・・・・どこでかは聞かなくいい・・・っつーか聞きたくなかった・・・。
「まぁ・・・おれ寝るから・・・・」
「あ、ごめんニダ。養生するニダー」
便利になったなー、と謎の言葉を残してにだは自室に入っていった。

自室に入る前に思い直し、食堂に寄って行く事にする。
いくらさっきので食欲が失せたとは言っても、何か口に入れておかないと元気が出ない。
「元気になっても・・・な・・・」
自嘲気味に笑って、食堂への階段を降りた。

食堂に入ると、ソファでジャギと海猿が机に突っ伏していた。
その前には開封された青い箱が二つと、今まさに風に乗って外に飛ばされようとしている柔らかい毛、ゼロピーがある。
「おれの・・・・200k・・・・・」
「ゼロ・・・ピ・・うう・・あいつ・・・侮れん・・・・」
死体のような2人を横目に、冷蔵庫を開ける。空だった。
「はぁぁぁぁ・・・・」
溜息だけを冷蔵庫に入れて、閉じようとする。
「あーっ!待って待って!」
のりちゃんが駆け寄ってきた。両手にビニール袋を下げて。
丁度買い物から帰ったのだろう。これで何か口にできる。
「っとー、ありがとねー」
ごそごそとビニール袋から買ったモノを取り出して冷蔵庫に入れる。
全部プリンだった。
「・・・・・・・・・」
「あ、これうちのだからね!食べちゃダメだよ!」
ぱたん。溜息とプリンのみを冷蔵庫は冷やし続ける。
「・・・・・・・・うううっ!」
空腹やらなにやらが口から漏れる。
「あー・・・そっかVちゃんお腹減ってるよね・・・でも・・・プリンはうちの!」
冷蔵庫は最強の守り手に守られた。
その代り
「食べたかったら買っておいでー」
ありがたい言葉を頂いた。


結局街まで買出しに行くことにする。
歩いて約20分。遠いような近いような。
今は面倒な気持ちが勝つ。が、何か買ってこなければ何も口にできそうになかった。
「のりちゃんのプリンだからな・・・・」
言ってから虚しくなる。一個くらい・・・いいじゃないか・・・・。
靴を履いて、砦の玄関を開ける。
天気は今日も晴れ。良い天気。陽光が玄関に差し込む。
そしてまっすぐ先に砦の門。
そのすぐ内側に、ヘンテコなモノを見つけた。
「?」
大きさは・・・そう・・・ウサギ小屋くらい。
全部木でできていると思われる・・・なんだ・・・・倉庫・・か?
しかしその考えをすぐに打ち消す。倉庫にしては・・・・その・・・なんとゆーか・・・派手すぎる。
派手とゆーか・・・。
近づくにつれて、その小屋の外観がしっかりわかってくる。
壁には謎の・・・そう・・・狂ったマシーンが書いたような抽象画みたいなものがデカデカと、これまた狂った色彩で書かれている。
さらに近づく。
カウンターのようなモノがあるのに気がついた。色とりどりの瓶が置かれている。・・・・中身は何か知らんが。
さらにさらに近づく。
屋根には看板がかかっていた。
『幻影騎士団専用』
と読めなくも無い。(一文字一文字全部色違い)いつの間にこんなモノが?
そしてカウンターの前に立って、店内を見た。

狭い店内で、少女が屈んで何かのダンボールを漁っている。
ヴェルト「パンツ見えてるからな」
少女「10kになりまーすっ!」
ヴェルト「たけぇ・・・・」
少女は振り向いて元気一杯に言った。
少女「いらっしゃいっ!!」
ヴェルト「商売・・・・?ここで・・?」
少女「はいっ!昨日からさせてもらってますっ!」
頷いた瞬間にゴーグルがズレる。
ヴェルト「おまぇ・・・また・・・はは・・・ゴーグル・・ズレてる・・」
少女「ショバ代でありますっ!さー!・・・・んにゃ、兄貴っ!!」

ヴェルト:赤ポーション一個獲得。




TAX:1
「お前、この小屋どうしたの?」
「小屋じゃないやいっ!”ラヴリー幻影よろず屋”!!」
「語呂最悪な・・・」
「これはマッスルガイが2人のナイス・ガイに作らしたものですのだ!」
「誰だマッスルガイ・・・」
「ごっつい癖にスーツ着て眼鏡かけてる人だっっっっ!!!」
「・・・・・もういい・・・・・」
「1人は良くお店に来て変なモノや青箱買ってくれて、武勇伝のコントやってくれますのだ」
「ジャギ・・・・」
「もう1人はいっつも礼儀正しいジェントルメンですのだ。でもたまに武勇伝のコントを手伝ってたりしますのだ」
「海・・・・」
「凄かったよお・・・マッスルガイが『作れ』って言ったら速攻作ってくれましたですのだ!」
光景が目に浮かぶよ・・・・・
おつかれ・・・ジャギに海・・・・・。


TAX:2
「ねちゃん、結局サリサはなんで助かったの?」
「んー?」
ソファでくつろぎながら漫画を読んでいた金髪紅目の司祭に尋ねる。
きっと知っているとするなら彼しかいないと思ったからだ。
「いや、軍曹がさ『身内にしちゃえばいいべな』って言ってたから、採用しちゃったんじゃないかな?」
「なんですと!?」
いつの間にか同僚になってたらしい。
後でエンブレム持ってるか聞いてみよう・・・・・持ってたらそれはそれでショックだけども。
「んーであの子の母親はここ10年くらいの記憶を消されて病院だと。」
「・・・・・・・・・・・」
そこまで甘くは無かった。けれど、これこそが妥当だとも思えた。
「あー・・・それともう一つ」
そう、もう一つあった。
「ノム君の行方、知らない?」
あの日からノム君だけは見かけていない。
つまり・・・・感謝も謝罪もできてない。
ナイフだけはいつの間にか部屋の机に置かれていたけれど。
「んー?・・・はははw心配無いって」
コップを口につけて中身を口に含む。
「あの日、ヴェル君担いでオレの所までぶっ飛んできたの、ノム君だしw」
それだけ言って、ねちゃんは漫画に目を戻した。

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
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