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Mirage-knight-cavalier03 黄昏の色。 
2006.07.11.Tue / 21:18 
「やぁ予譲さん」
「おはようパン屋さん。モカをショートで。それとクロワッサン一つテイクアウトね」
「あ、おはよう予譲さん。たまにはウチの野菜もかっとくれよー」
「おはようおばさん。野菜は食べたいけどお昼にはちょっとなぁw」
「晩にでも買って帰って彼女に何か作ってもらいな!」
「あははw」
朝の通勤時間。騎士団官舎前の通りはいつも通り賑わっている。
忙しそうに通り過ぎるサラリーマンの群れ。朝食を立ったまま食べているもの。
座ってコーヒーを飲みながら朝刊を読むもの。
電脳で誰かと通信しながら早足で遠ざかるもの。
これが騎士団官舎前の日常。
その中の1人、予譲も例外に漏れずいつものコーヒーショップでいつものコーヒーと、昼食を買って店を出た。
聖導騎士団後方支援大隊第四中隊所属114小隊勤務、予譲の一日はこうして始まる。
紺か黒のスーツ。ネクタイも紺か黒で統一し、黒革をなめしたブリーフケース。左手に新たに昼食を入れた紙袋を携えて騎士団官舎に入った。
彼の仕事は所謂『背広組』である。
もっとも、『背広組』とはいってもキャリアやエリートと言われる人間の事では無い。
要は”前線に出ない”騎士や聖導騎士を揶揄した言葉。
なぜ騎士や聖導騎士であるのにも関らず前線に出ないのかは色々理由がある。
前の戦場でトラウマを負った者。
”能力”が戦闘向きでは無い者。
戦闘に関する技術の低い者。
他にも個人の都合であったり、権力者の身内だったり、その理由は様々だ。
予譲はしかし、そう言った理由で『背広組』になっている訳ではない。
本人の希望による、配属である。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
騎士団官舎の屋根の上、非常に目の良い者か、その手の”能力者”でしか見る事のできない不可視の何物かは、騎士団官舎に入る予穣を確認した後、その場から本当に消えた。


「ふーむ・・・・」
昼休み、騎士団官舎の丁度目の前にあるオープンカフェの机にポスターを広げて朝買っておいたクロワッサンをかじる。
一口かじってはコーヒーを一口。
そして
「ふーむ・・・」
の繰り返し。クロワッサンはもう随分かじられてしまっている。
「やっぱりフレーズはこっちの・・・・うーん・・・いや・・・こっちのが・・・・」
定規を当てているポスターには、今風にアレンジされた白い十字架が書いてある。
手元のメモには
”治安の維持、改善の為、市民の皆さんの協力を!!”
の文字。
彼、予譲の勤める『114小隊』は所謂”広報部”であった。
「あ、予譲さん。今日もポスター作りかい?」
「やぁパン屋さん。おいしくいただいてますよ」
もう殆ど無くなってしまっていたパンを挙げて笑顔を向ける。なじみのパン屋さんだ。
「いやぁ・・・よく解らないけど、大変だねぇ。文字なんてどこに書いてあっても同じだろう?」
「いやいや、そんな事無いですよ。インパクトなんかは重要ですからねぇ」
「ふーん・・・そんなモンなのかねぇ」
パン屋さん、と呼ばれた男がポスターを両手で掴みまじまじとその今風の十字架を眺める。
「あの・・・・」
「あぁ、悪いね。最近目が薄くなっちまってさぁ」
「いや、それはいいんだ。それよりもさ・・・・」
「うん?」
「その手・・・・・」
「手?」
ポスターを持ったまま、自分の手を見るパン屋。それは紛う事無く42年付き添ってきた自分の手だ。
「いやーなんといいますか・・・職人の手っていいますか・・・がっしりしてますねぇ」
パン屋は、一瞬だけキョトンとして
「わはははwそりゃ毎日修行ですよ。今までも修行、これからも修行w」
と言い、機嫌よく笑いながら立ち去った。その後姿を、予譲はなんともいえない優しげな目で見送り、見えなくなるとまたポスターに向かって悩み始めた。

その晩、パン屋は事故で両手に大怪我を負う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
翌朝、毎日立ち寄ってコーヒーとパンを買っていたなじみの店が開いてなかった。
「あら予譲さんおはよう。パン屋さんねぇ、事故でパン焼けなくなったんだって。」
「えぇ!?事故・・・・ですか・・・・。どれくらでまたあの美味しいパンが食べれるんでしょう・・・・」
「さぁねぇ・・・リハビリとかしなきゃダメらしいよ」
「そうですか・・・・」
八百屋のおばさんに店が開いていない経緯を聞き、やっぱり薦められた野菜を丁重に断り、予譲はその場を離れた。

結局、長年染み付いてきた習慣が突然抜ける事も無く、コーヒーを求めて店を覗いて周る。いつもとは違う店で気分を買えてカフェオレを頼み、ドーナツを2つ買って店を後に。
するとその店から見える路地に、風船が束ねられているのが見えた。
「?」
いつもはまったく気にしていなかった路地。裏路地では無く、何店かの店も見える。
その店舗の前に、朝日を反射して輝く風船の束が気になった。
「時間は・・・・・」
時計を見やる。大丈夫、出勤まではまだ暫くあるし、何より騎士団官舎は目の前だ。
ちょっと見ていく事にした。

大通りから路地に入って店舗数で言えば3店、民家も含めると5件目にその店はあった。
わざとたどたどしい字で書かれた店名の看板、木製の新しい扉。
その扉の脇には、大通りからでも見えた風船の束と、チラシが積み上げられている。
「んーと・・・?」
チラシを一枚手に取ってみる。そこには
『本日オープン!アルベルタ大阪で腕を磨いた店長があなたの髪をヤングな感じに!今なら騎士様、聖導騎士様に限り30%OFF!!』
と書かれてあり、その文字の下には各種料金が書かれている。
無意識に自分の髪の長さ・・・・ショートに入るのだろう・・・の料金を見てみる。
「ふむ・・・・・」
ちょっとお高い。いつも髪を切ってもらっている美容院よりは200円ほど。
しかし、いつもの美容院は少し遠い場所にある。騎士団官舎の前にあるのは非常に有利といえた。
広報とはいえ、ポスターを貼る場所に挨拶に行かなければならない事もある。そう言った場合、美容院に立ち寄って髪を直してもらったりもする。
その度に毎回あの美容院までいくのは・・・・・面倒だった。
それにアルベルタ大阪といえば商業激戦都市と言われる所だ。そこで腕を磨いて来たと言うのであれば、腕の方は信用してもいいかもしれない。
よし、ちょっと昼休みにでも覗いてみようか、なんて考えていた時、店の置くから一人の女性が椅子を抱えて出てきた。
「あ、予譲さん!おはよう!」
その女性は、栗色の髪をストレートに腰まで伸ばした、少し背の高い綺麗な・・・というよりはカッコイイといわれるタイプの女性で、その笑顔は朝日を反射する風船に負けないくらい、輝いていた。
「うん、おはよう。この店は君が?」
看板を見て、女性を見る。
「そう!ついに独立開業!!!っく~長かったぁ!!」
目をぎゅっと瞑り、ばっとひまわりの様に笑う。きっと長い修行時代を思い出していたのだろう。
「ほーう・・・腕の方は確かなんだろうねぇ?」
「朝一から試してみるぅ?お客さん第一号の名誉と、すんばらしい髪型を提供しますっ!」
元気いっぱいの笑顔を見ていると、憂鬱な出勤が少しだけ楽になった。
「いや、もう遅刻しそうだからね。昼休みに寄らせてもらうよw」
チラシをバッグに入れて踵を返す。
背後から「絶対だよー!」と声が聞こえた。


「ここはもうちょっと・・・そう・・・・それくらい・・・・」
「・・・でここは・・・・このくらい?」
「そうそう、あ、そこはあんまり切らないで!」
昼休みに覗く、と約束した通り昼休みに店に行き、そのまま今は大きな鏡の前。
元々は髪を切る気なんてなかったのだが、まぁこれからまた新しいポスターの委託先に行く事もあり切って貰うことにした。
・・・・・なんとなく強引に押し切られた気がしないでもないが。
しかしまぁ、この腕ならば文句は無い。
「・・・・はいっ!完成!!」
ばさーっと胸にかけられていたクロスを大仰に取り去る。
「ちょーっと若者っぽくしてみたけど・・・・仕事に差し支えはないよね・・・?」
おっかなびっくり言っているそぶりが可愛らしい。
「んー・・・まぁ実際まだ若いしwこのくらいなら平気だよw」
鏡の中、緩急のついたショートヘアになった自分をまんざらでも無い様子で眺めて言う。
「はぁぁぁぁ、良かったぁ・・・・短くは出来ても長くは出来ないからねぇw」
本当に心配していたのだろう。安堵とともに自然と笑顔が漏れる。
「・・・・・・・」
「ん?どうかした!?どこか気に入らない!?」
知らず彼女の笑顔を凝視していたのだろう。
真顔で。
「いやいやいやw笑うと可愛いじゃん」
「おだててもお会計は4000zになりまーす」
自分は苦笑し、彼女はもう一度笑った。


その晩、美容師の彼女は事故に遭い意識不明の重体となる。


午前02時。
街の灯も随分と少なくなり、人の気配も薄くなった頃。
街の中心にある大教会の屋根の上、二つの歪みがほぼ同時に実体化した。
1人は男性。三つ揃えのタキシードにシルクハットといった少し風変わりな格好。
もう1人も男性。メガネに黒いスーツといったまっとうな格好。
シルクハットの男性は異常なまでに似合っていて、メガネの男性は異常なまでに似合っていなかった。
「毎晩毎晩熱心な事で・・・今晩もやってますよ」
シルクハットの男性が屋根の上に腰掛ながら話しかける。
「死者がでねぇって話だけども・・・本当か?」
メガネの男性も屋根の上にそのまま腰を下ろしながら問う。
「信じれないのも無理は無いですけどね・・・・あれで死なないなんて」
ぽさり、とシルクハットを取り、髪を風になびかせる。
その表情は、まるで夕涼みに来た様。
「しかし記憶を消し、傷を消し、暫くのリハビリを負わせる・・・か」
メガネの男性がぼりぼりと頭を掻く。
「さて、あの”能力者”の”能力”は恐らく記憶操作と感覚操作だと思われますがどう・・」
「恐らく?」
白手袋をはめた両手を顔の前で合わせて問いかけ初めていた男性の言葉を、メガネの男性の声が遮る。
「2週間監視して恐らく?」
似合っていないメガネの奥、双眸がもう1人の男性を貫く。
「・・・・はい。なにせ調査員が全て記憶喪失になってしまってましたから」
魂まで貫きそうな瞳におじける事無くさらっと言う。
「”能管”の調査員が全員なぁ・・・直樹、お前殺れねぇか?」
「無理ですね」
白手袋は即答する。
「今までの調査で解った事ですが、彼は球形に範囲200m程の結界を持っていて、結界内での記憶操作を無意識に行っています」
「無意識って事は・・・・寝てる時も?」
「ご明察です」
夜風に髪がなびく。
「どんなに威力のある武器を持って行っても、何をしに行ったのかわからなくなっては意味がありません。」
「200mオーバーの長距離射撃は?」
「彼はクルセイダーです。射撃は効かない」
「ディフェンダーか・・」
「ま、それで”ぐんそー”に来てもらったわけですハイ」
「仕事中は主任と呼べ・・・・にしても面倒くせぇなぁ・・・」
メガネの男性がまた頭を掻く。
『無い無い無い無い・・・・どこにも無い・・・これじゃない・・・・』
直樹と呼ばれた男性が歌うように口ずさむ。唇を読んだのだろう。
「宝探しなら地面でも掘ってろって・・・・」
メガネの男性が吐き棄てるように言う。

その視線の先。
少女が背中を壁に押し付けられ、腹を縦に切り裂かれている。
目には大粒の涙。口には手が添えられており、きっとうめき声しか出せない。
そして腹の中に手を突っ込まれ、掻き回されている。
何かを手探りで探すように掻き回しているのは背広の男性。
背広の名は、予譲と言う。



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